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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第三十五章


第三十五章

 それで少女の光は消えた。だがまだ少女は健在であった。
「今度はそうきたのね」
 二人を見て言ってきた。
「考えること」
「力が足りなければ考えればいいのですから」
 速水はそれに応える。さっきの言葉をもう一度言ったのである。
「違いますか?」
「そうね。けれどそれが何時までもつかしら」
 そう述べてまた笑ってきた。余裕のある笑みが戻っていた。
「何時まで」
「そうよ。人の力には限度があるわよね」
 彼女はそれを知っていた。
「けれど私は人じゃないわ。だから限度はないのよ」
「果たしてそうでしょうか」
 速水はそうは思わなかった。
「何を言っているの?」
「全てに限りはあります」
 彼は言う。
「何事においても。ですから貴女もまた」
「そうね。それでも人よりはずっとあるわよ」
 それを言われても彼女は平然としたままであった。
「貴方達よりはね」
「果たしてそうでしょうかね」
「あら、認めないのね」
「限度があるのは持久力だけではありませんから」
「そうですね」
 彼の言っていることがアンジェレッタにもわかった。
「わかりました。それでは」
「はい。お願いしますね」
「よくわからないけれどいいわ」
 少女はこれ以上の話を打ち切ることにした。
「なら時間はかけないから」
「ですが我々も」
 速水はまた隠者を出して太陽に力を送らせた。
「そう簡単にはいかないつもりなのですよ」
「しつこいのね、本当に」
「それが私の長所ですので」
 右目と口で笑みを作った。
「直すつもりはありません。それでは」
 また太陽の光で少女の光を打ち消した。
「その光はそうそう容易には使えませんよ」
「くっ、それなら」
 少女は右に身体を移した。そして腕から黒い矢を放ってきた。
「その矢なら」
 だがそれにはアンジェレッタが反応した。彼女はここであの銀色の矢を放った。それで少女の黒い矢を全て打ち消してしまう。
「やらせないわよ」
「やるわね。次から次に本当に」
「ですから頭を使っていますので」
 速水はそう述べながら手にカードを控えさせていた。
「そういう戦いをしております」
「ならこちらは」
 少女は頭脳に対して力で応じることにした。すぐにまた光を出してきた。
「より多くの光で」
「さて、それでは」
 また別のカードを出してきた。今度は月であった。
「月!?」
「今度はこれです」
 速水はそう宣告する。
「これでね」
 カードを手の上で回転させるとそこから淡い黄金色の光を放つ満月が姿を現わした。そしてそれで少女の光に対抗しようというのであろうか。
「その光で一体何を」
「月はただ光だけではありません」
 速水はそれに関して述べる。
「太陽とともにあるものを司っています」
「あるもの!?」
「ええ」
 口だけで笑ってそれに応えた。
「時間です」
「時間・・・・・・」
「さあ、黄金色の月よ」
 速水は今カードから出した月に対して語りかける。
「今こそその時間を進めるのです。そしてこの世の全てを元に戻すのです」
「時間を。一体何を」
「何かお考えが、速水さん」
「はい。夜を進めるのです」
 彼はアンジェレッタにも答える。
「そして全てを終わらせます」
「時間を進めてですか」
「その通りです」
 速水は少女と月を見据えたまま答える。
「私の予想が正しければそれで」
「何なのかはわからないけれど」
 だが少女はそれに対して何も恐れるふうなことは見られなかった。
「それで私を倒そうとはまた面白いことね。けれど無駄よ」
 放つ光をさらに多く強くさせる。それで二人をも覆わんとしてきた。
「さあ、これでどうかしら」
 少女は光で二人を取り囲んで問う。
「これで終わりよ。コロシウムが貴方達の最期の場所になるわね」
「さて、それはどうでしょうか」
 それに対する速水の返事は相変わらず口調は穏やかでもその内容は強気であった。
「上手くいくとは思わない方がよいかも知れませんよ」
「まだ言うのね。気丈ね」
「気丈ではありません」
 彼はそれは否定する。
「ただ、時間を見て言っているだけですから」
「また時間を出すのね。おかしなこと」
 少女はそんな彼に冷酷で優雅な笑みを向けてきた。
「そんなに時間が大切というのかしら」
「そうですね、何よりも」
 その主張を何としても変えはしない。
「じゃあその時間の中で影をいただくわ」
 少女は言う。
「さようなら。このコロセウムで永遠に眠るのよ」
 影が二人を覆ってきた。速水はそれに対して太陽のカードの光だけで身を守っていた。だがそれではとても防げそうにはなかった。そこまでの質と量の光が迫ってきていたのだ。

 
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