皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第21話 「二十四時間、戦えますか?」
前書き
軍需、軍備に頼り切ると戦争してないと。
どうしようもない状況になっちゃう。
頭を抱える皇太子殿下です。
第21話 「無給、この恐るべき言葉」
毎日毎日、夢の中でさえも強制労働の日々……。
ああ、大神オーディンよ。
この報われぬ、受難の日々は、いったいいつまで、続くのでしょうか?
本日は給料日である。
アンネローゼ達がホクホク顔で、明細を見ていた。
そして俺に給料はない。
ないの。
本当に無いの。
「がぁ~っでむっ」
「うおっ」
「な、なんですか?」
「いきなりどうしたんです?」
部屋にいた連中が、俺の叫び声に振り返る。
ラインハルトですら、眼を丸くしていた。
「俺にも、給料をよこせぇぇぇぇぇぇ」
「なにを言ってるんですか?」
「給料って、貰ってるんじゃ?」
「……ないのか?」
口々に言ってくる連中の中で、ラインハルトだけが近づいてきて、心配そうに言う。
こいつも化粧がうまくなったよな~。意外な才能だったかな?
天才性は軍事だけじゃなかったのかっ!!
それはともかく、さすがに給料がないとは、思っていなかったらしい。
机の上を見せる。
そこにあるはずの給料明細がない。
本気の本気で、俺に給料はないのだ。
これが帝国宰相の現実だ。
羨ましいか?
えっ、羨ましいか?
「私達も無いですな」
「さよう」
ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの二人も頷く。
その言葉に愕然とする軍人達。
有体に言えば、エルネスト・メックリンガーとヨハン・フォン・クロプシュトックだ。
「無礼を承知で、お聞きしますが、それはどういう事でしょうか?」
ヨハン・フォン・クロプシュトックが皆を代表して聞いてくる。
こいつの父親とブラウンシュヴァイクはなにやらあったらしいが、俺が産まれる前の事だから、ぶっちゃけ一々気にしてられない。
「我ら門閥貴族は、それぞれ支配地である星系がある。そこからの収入が、卿らの言うところの給料になる。卿のクロプシュトック侯爵家も同じであろう」
「宰相閣下は、銀河帝国皇太子殿下でもあるから、帝国から予算が出ている。それが皇太子殿下の収入になる」
「つまり、ここにいる三人は、どんだけ働いても“給料”は無いんだ」
あまりの現実に、他の者達の顔色が蒼白となった。
解ったか。
貴族が中々働きたがらないのが、一生懸命働いても、働かなくても収入は同じ。
この状況で馬車馬みたいに働いてる俺達は、ある意味、ばかだろう。
「ラインハルト。どうして貴族が自家の繁栄のみを願うのか、わかったか? 自家の繁栄は給料が上がるのと同じだ。帝国のために働いても、収入は増えない。ましてや、帝国改革など職務としてある訳ではない」
「そんな貴族達をどう動かしていくのか」
「誰もが、ただ働きは嫌がる。当たり前の事だが」
俺と大貴族たちの言葉に、誰もが口を閉ざす。
「そこで、帝国に貴族院を作ろうと思う。議会ってやつだな。貴族達は各星系の領主でもある。そいつらに自分たちのところだけでなく。帝国全体を有機的に結びつけて、儲ける事を考えさせる」
「どうせ、宮廷で似たようなことをしているのだ。場所が変わるだけよ」
「公になれば、領民の目もあろう。誰も恥は掻きたくない。領民にうちの領主は馬鹿だと思われたくは無かろう」
まずは貴族院を作る。今まで無かったのが不思議なぐらいだ。
内閣はあるくせに。ところで内閣はなにしてんだ?
働けよ。おいっ。
しかしよほど議会に嫌悪感を持っていたのだろう。
とはいえ、五〇〇年も経てばそうも言っていられない。
「平民にも政治参加の機会を持たせるべきだ」
ブラッケがそう喚く。
まったく。
「卿はすぐそれだ。貴族ですら今から議会を作ろうというのだ。はい、そうですかと平民達が政治に参加できるのか? どうしていいのか、分からなくなるだけではないのか?」
「卿が平民達の権利拡大を願っているのは、理解しよう。だがまだ時期尚早だ」
ブラウンシュヴァイク公がブラッケを諭すように言う。
そしてその後を、引継ぎリッテンハイム候もまた、口を開いた。
「言いたい事は解るが、何事にも原因があり、過程が存在し、結果を生み出す。まずは一歩だ。いきなり結果のみを求めるな」
俺が纏める。でないと話が終わらない。
お前、それをゴールにしてるみたいだが、そこはスタートラインだぞ。
分かってんのかね、それが。
舞台の幕を開けるための、準備期間みたいなもんだろう。
舞台よりも準備の方が手間がかかるもんだ。
ただ、こいつらの誰も平民の権利を踏み躙る気はないようだ。
それに気づいていない、カール・ブラッケは地に足がついていないと、思われても仕方ないのではないか? メックリンガーたちは、そう思っているように見えるがな。
■宰相府 ヨハン・フォン・クロプシュトック■
宰相閣下が帝国に貴族院を作ると言い出した。
このお方のことだ。
きっとなさるのだろう。
本当に帝国は変わる。雰囲気だけでなく、制度として変わる。今でさえ、帝国の変化を実感しているのだ。それはさらに加速するだろう。
軍人としては不本意ではあるが、ここ一年ばかり戦争が無い。
第四次イゼルローン攻防戦ぐらいか。大規模な戦闘は。
オーディンにも人が溢れている。
戦争が無いために、戦死者が出ていない。
その為にどことなく雰囲気が明るい。人の顔にも笑顔がある。
「とはいえ、この先戦争も起こさねばならん。同盟も放って置くわけにもいかんからな」
このお方は戦争がお嫌いなのだろう。
好きな者はいないが……。
だからこそ、無駄な戦闘はしたくない。そう思っておられる。
「やらずに済めば、それに越した事はないんだが、そうも言ってられん」
そう仰る。
私は、私が宰相府に呼ばれた事に驚いている。
私はヨハン・フォン・クロプシュトック。クロプシュトック侯爵家の男子だ。
父はフリードリヒ四世陛下を、公然と侮辱していたそうだ。
その息子を宰相府に呼ぶ。
皇太子殿下は豪胆なお方だ。
「使えるものは何でも、誰でも使う。一々気にしてられるかっ」
明るく、大胆で、そして強い。
まこと、次期皇帝にふさわしい。父ですら、ルードヴィヒ皇太子殿下には眼を見張っていた。
「あのお方が、オトフリート五世陛下の皇太子であったなら、誰もが認め。帝位争いそのものが起きなかっただろう」
父、ウィルヘルム・フォン・クロプシュトックの言葉だ。
そう父にすら、言われる皇太子に興味が湧いた。もっともそうであったなら、フリードリヒ如きが至尊の地位につく事など無かった。と吐き出したが。
そして来てみて、さらに驚いた。
なんだ。この仕事の量は……?
この量をこなせというのか?
私を殺す気かと、言いたくなったが、ここでは誰もが平然とこなしている。
もう、すっかり慣れきっているのだな。
まだ幼いラインハルトでさえ、平然としている。
最初は侍女だと思ったものだ。
皇太子殿下の命令だそうだ。
いささか不満げに言うラインハルトに、思わず笑いそうになってしまった。
怒ってはいても、女装に嫌悪感が無い。
染まっているなぁ~。
本人は気づいていないようだが……。
「卿の領地、クロプシュトック領では領地経営がうまくいっているようだ。その辺りを領地経営の見本としたい。ブラウンシュヴァイク公爵やリッテンハイム候爵のところは大きすぎて、見本になりにくいのだ」
「それは宜しいのですが、なにも自分のところでなくても?」
「辺境は人口が少ない。他の貴族のところでうまく行っている所は、そもそも惑星の環境が良い。悪いところは、経営もうまく行っていない。後は分かるな」
なるほど、父は社交界を追われてからというもの、領地経営ぐらいしかやるべき事が無かった。
苛烈な圧政を行わず、経営はうまく行っている。
皮肉な事に領地に引っ込んでいた時間が、今の帝国に必要とされているのか。
使えるものは何でも、誰でも使う。一々気にしてられるかっ。
確かに皇太子殿下の仰るとおりだ。
社交界を追われていた貴族であろうと、必要ならば呼び寄せる。
一々気にしてなど、いられない。
好き嫌い言っていられる余裕は、今の帝国にはない。
「皇太子殿下の特権よな。全ての貴族に命を下せる」
「それが出来るのは、ルードヴィヒ皇太子殿下ぐらいだが」
「今までは気が弱かったのだ。帝位につく為に周囲の顔色を窺いすぎてきた」
ブラウンシュヴァイク公爵とリッテンハイム候爵がひそひそと話していた。
確かに。
その通りだった。
ところがルードヴィヒ皇太子殿下のように、
「帝位が欲しけりゃくれてやる。その代わり現実見ろよ」
などと突き放してしまわれると、帝位につく事を誰もが躊躇う。
現実に気づいてしまえば、これぐらい怖い地位は無い。
その帝位を皇太子殿下が背負ってくださるというのだ。
貴族としては、こんなにありがたい事はない。
その結果、誰も皇太子殿下に逆らえなくなった。
おもしろい。楽しいお方だ。
この方の作る帝国が見たくなってきた。
後書き
俺の拳が真っ赤に染まる。お前を倒せと轟き叫ぶ。
ザ○ファイト。
ア○ガイがシャ○ニングになってしまう。
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