Le monde brûlé.
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Capturez le bombardier tombe
その話を聞いて、ユーラは絶句した。
「自分の知らない....世界がある....!?」
そう、それは世界がこの島だけだと思っていた彼の常識を意図も簡単に崩した。
「そうじゃ...」
それだけ言うと長老はまた窓のほうを見た。
「この話は...誰にもしてはならんぞ...」
「それから...」
おもむろに長老が手に取ったのは、あの日洞窟にあった石版だった。
「それはっ....!」
「これには...触れてはならん」
「え...?」
「ここに何が書いてあるか、読めるようになったら渡してやろう」
「でもっ...」
「さあ、行け。」
「行けって...どこにですか!」
「それはお前さん自身が決めることじゃ。どこへ、どのようにして行くか。わしは楽しみにして見てるぞ...」
「.......はい。」
それだけ言うと、ユーラは渋々家を出た。
「でも...このことを話すってことは...」
ユーラは少し嬉しかった。
きっと長老は自分に何かを託してくれた。
「...よしっ!」
彼の心に迷いはなかった。
彼は真実を知りたかった。
そう思う彼の足は自然と彼を洞窟の入り口へ運んだ。
「結局...ここなんだよなぁ...」
恐る恐る、一歩一歩、洞窟の中へと入ってゆく。
不思議なことに、洞窟は普段の嫌な感じをまとっていなかった。
まるで彼を待っていたかのように、何の障害もなく彼を迎え入れているようだった。
ところどころ天井が抜け落ち、光の筋が洞窟の中を照らしていた。
それは道を示していた。
最深部まで来たとき、広間の天井は抜けていて、そこには瓦礫で出来た階段があった。
ユーラは覚悟した。
「もう後戻りできない...」
一段ずつ、ゆっくりと上がる。
上がりきったそこは、先日の広場だった。
だが、何かが違った。
「草が.....ない....」
一切の植物はなく、石で囲みが出来ているのが一目瞭然だった。
「やっぱり来たんだね」
「っ!」
少女の声がした。
「大丈夫、怖がらないで。」
振り向いてみると、そこには人の形をした光の集合体があった。
「なっ、何!?」
「私はここを長い間守ってきた。」
「でも何でだろう、君は何も意識せずここを見つけ出した。」
「この洞窟に人が気づかない理由、知ってる?」
「...うん。」
「そっか...ようこそ、私達の祠へ。」
そう少女が言った途端、周囲の景色が崩壊した。
「なっ...?!」
「驚かないで。君に私達の歴史を”見せて”あげる。」
まるで空を飛んでいるような状態で、彼は島の歴史の全てを見た。
「どうして私達があなたにこれを見せるか、分かる?」
「いや....」
ユーラは未だ何が起こってるか分からなかったので、頭の中で出来事を淡々と整理していた。
「それはね。」
そう言うと光の集合体は実体を持った。
その少女はユーラの頬に右手を当てて言った。
「あなたが歴史を創るから。」
「えっ...?!」
正直本当に何がどうなっているかなんて分からなかった。
「ずっと君を待ってたんだ。」
「歴史を創るって...僕は何をすればいいの...?」
「あなたは...好きにしてていいよ」
「え?」
「いつか分かるよ。」
気づくと、そこは洞窟の入り口だった。
「何かあったら、ここへおいで。」
「....」
「じゃあね。」
そう言うと、実体は光となり、光は空へ溶けた。
「....え?」
ユーラはほとんど何も理解できないまま家へ帰った。
「ただいま...」
「おかえり~...早くない?」
「えっ?」
「まだ日は昇りきってすらいないよ?忘れ物?」
「え...えっ...?」
そういえば外はまだ明るかった。
「何で...」
「ん~...よく分からないけど、とりあえずおかえりっ」
「う、うん...」
ライサは不思議がっていた。
2階に上がると、ユーラは石版を見つめた。
「これも...その夫婦が書いたものなんだよね...」
『あなたが歴史を創るから』
彼女の言っていたことが頭の中を巡る。
「僕が...歴史を...」
ボーっと石版を眺めていると、ユーラは突然何かを思いついた。
そして凄い勢いで外へ飛び出し、海岸から石の板を持ってきた。
「これで...」
ノミを取り出し、石版にある文字を使って直感だけを頼りに彫り続けた。
この文字は何を意味するのか、これは何か、そういったことを考えながら文字を選び、彫った。
気づけば日は一度落ち、再び昇っていた。
ユーラは石版に昨日のことを掘り込んだ。
それを完成してから再び元の石版を見る。
「あっ....!」
読めた。
少しおかしな部分もあるが、感覚的に大雑把に読むことはできた。
そこにはほほえましい、夫婦と子供の生活の様子が書かれていた。
「やった....やったよっ!」
そこでドアのノックの音が聞こえた。
「は~い」
下でライサの声がする。
「あの~...ユーラ君いますか...?」
「ああ、ユーラなら上だよ、ちょっと待っててねっ」
「エレーナかぁ...」
久々に友人と会う気分で、ユーラは1階へと降りた。
「あっ、ユーラ!」
「久しぶりだね。」
その言葉にエレーナは違和感を覚えた。
「久しぶりって...ほんのちょっとだけしか間空いてないよ?」
「ああ、そっか...」
「どうしたの?」
心配そうにユーラの顔を覗き込む。
「なんでもないよっ」
ユーラは目を少し逸らす。
「そう...ならいいんだけど...」
「で、今日は何の用?」
「あ、えっと...」
聞かれると、エレーナは俯いた。
「ひっ、久しぶりに...一緒に...泳ご...?」
消え入りそうな声だった。
「うん、いいけど...」
「けど...?」
「ううん、じゃあ着替えてくるね」
「海岸で...待ってる...!」
そう言うとエレーナは逃げるように走り去っていった。
「騒がしいなぁ...」
ユーラはそんなことを考えつつ、水泳用の服に着替える。
着替えを済ませると、急いで海岸へ向かう。
「おまたせ~」
「ユーラ、遅いっ!」
「ごめんごめんっ...」
それから少し、2人は海で遊んだ。
水を掛け合ったり、潜ったり...単純で、幸せな時間だった。
気づけば時刻はすでに夕刻。
2人は海から上がり、ユーラはエレーナに連れられて近くの岬に登っていた。
そこからは夕陽が綺麗に見える。
「こんなところに連れてきて...どうしたの?」
「あのね...ユーラ...」
エレーナは俯きつつ言う。
「ん?」
「私達、ずっと昔から一緒に遊んだりしててさ...」
「楽しかった...よね...?」
「突然どうしたのさ...楽しかったよ。すごく楽しかった。」
「だからね...私、これからもユーラとずっと一緒にいたいんだ...」
「え...?」
エレーナはゆっくりと視線を上げる。
そしてその両目にユーラの姿が映る。
その顔は夕陽のせいか、うっすらと紅みがかっていた。
「私....ずっとユーラのこと...!」
その瞬間だった。
「うわっ?!」
岬の近くで爆音がした。
「何っ!?」
それから数十秒して、爆音は止んだ。
「これは一体...」
ユーラが沖の方を見ると、たくさんの船がこの島に向かってきていた。
上陸艇だ。
「なんだあれっ!」
後ろの方で島民が叫ぶ。
2人は沖の方の様子を観察した。
すると、海岸近くで船の縁にいた6人程度が海へ転がり込む。
「何なの...?」
そして上陸した数十人の中で、整列した隊を指揮していると思われる人物が空に向かって銃を1発撃った。
「うわっ?!」
ここの島は外部との交流がなかった。
即ち戦争の経験がないのだ。
まして小さな島のため、野生動物を狩ることもなかったので銃の存在も知る者はなかった。
海岸では何か叫んでいる。
「どこか...隠れられる場所...」
ユーラは真っ先に洞窟が思い浮かんだが、そこへ行くには海岸を横切らなければならなかった。
「あるの...?」
エレーナは心配そうな眼差しを向ける。
ユーラは決意した。
「あるけど、そこに行くまでに海岸を横切らないといけない。」
「だから...泳いでいこう。」
「そんなっ...!?」
距離はかなりあったし、海まで降りるのですら一苦労だった。
「でもここにいると何か危ない気もするでしょ....?」
「そう言われればそうだね...」
彼らは崖を壁伝いでゆっくりと降りていった。
慎重に、それはユーラが先導する形になっていた。
切迫した空気の中、一刻の猶予もなく感じられた。
2人が海についた瞬間だった。
また大きな爆音がし、建造物の崩壊する音と人々の叫び声とがこだました。
「どうなってるの...!?」
「いいから...今はいこう...」
ユーラはエレーナの手をとる。
「いいかい、僕から離れないで。僕の手を離さないで。合図をしたら息を止めてついてきて。」
「うん...」
不安や恐怖でエレーナは震えていた。
「僕を信じて...。」
その一言に彼女は無言で答えた。
「いくよ...っ!」
そう言うとユーラは息を深く吸い、海へ飛び込んだ。
強く握られた手は2人を何者たりとも裂くことができないということを具現化しているようだった。
感覚的には恐ろしく長かったその移動を、2人はやり遂げた。
「ここに隠れよう!早くっ!」
「う、うん...」
ユーラに手を引かれエレーナも洞窟へと入った。
「ここは...安全なの...?」
「大丈夫、大丈夫だよっ!」
「ならいいけど...」
そういうとエレーナはあたりを見回す。
「暗くて何も見えないね...」
そう言われればそうだ、とユーラは思った。
「あはは...今何も持ってないや...」
「そうだよね...」
「うん...」
「ユーラ...」
「ん?どうしたの?」
「怖いから...」
その言葉とともに、ユーラの体に重みと温かみが伝わった。
「うわっ...!?」
「離れないで...!」
エレーナは泣いていた。
「...エレーナ.......」
ユーラには、ただ彼女を抱きしめてあげることしかできなかった。
そうして一夜が過ぎ、翌日の明け方になった頃。
ユーラは外の様子が気になったので、眠ったエレーナをおいて一人外へ出た。
恐る恐る海岸の方へ足を進める。
そして海岸から街を見ると...
酷い有様だった。
海岸への石造の門は跡形もなく崩れ去り、島の至る所から煙が上がっていた。
「な...なんで....」
少しずつ、街の方へ行ってみる。
門をくぐるとますます酷いものだった。
地面に転がる島民の残骸、もはや形をほとんど残していない建物たち。
恐怖で足が動かなかった。
死臭が鼻をつつき、粘り気を持った血溜まりがユーラの足を奪おうと絡みつく。
そこは...地獄だった。
苦悶の表情で焼けただれた焼死体などいくらでもあった。
「そうだっ...お姉ちゃんは...!!」
急いで家へ走る。
その時彼の頭の中には姉のことしかなかった。
家の形は比較的綺麗だった。
勢い良く扉を破る。
「お姉ちゃんっ!!」
玄関に人はいなかった。
「お姉ちゃん...どこっ...?!」
しかし姉の姿は意外にすぐ見つかった。
「っ....!!」
キッチンで、死んでいた。
「お姉ちゃっ...」
「動くな!」
突然後ろから声をかけられる。
「誰っ?!」
「動くなと言っている、動けば殺すぞ!」
「お前達か...」
ユーラの拳は固く握られていた。
「お前達が...お姉ちゃんをっ...!!」
「そいつは餌だよ...」
「何っ...?!」
別の男の声がしたと思ったその瞬間。
後頭部に激痛が走り、ユーラの意識は凄まじい早さで消えた。
「...隊長、良かったんですか?」
「ああ、これでいい。」
「こちら第一特殊派遣隊、ターゲット捕獲。抵抗はなかった。」
『了解、厳重に搬送してこい。』
「ミッションコンプリート、か。」
「よし、撤退するぞ。」
「この島はどうします...?」
「いいさ。どうせ誰も知らなかった。」
「焼いておきましょうか...?」
「無駄なことはするな。帰るぞ。」
「了解!」
―――Operation "Capturez le bombardier tombe." est terminee.―――
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