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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第73話 少年たちは現状を打破したいようです


Side ネギ

「うぅ………いったた。あれ、ここは……?」

「ネギ!良かった、気づいたのね。」

「明日菜さん。あ、そうでした……僕は………。」


僕が目を覚ましたのは、見慣れないベットの上だった。横に椅子には明日菜さんが座っていて、心配そうに

僕を見下ろしていた。・・・そうだ、僕は小太郎君に負けたんだった。それも、完膚なきまでに。

まさか、こんな差がついちゃったなんて思わなかった。


「………明日菜さん、僕はどれぐらい気を失ってましたか?」

「えっと、この中の時間でなら丸三日よ。小太郎君の攻撃でお腹に穴開いて内蔵もアレだったらしいわよ?

愁磨先生が瞬間回復魔法で治さなかったら危なかったらしいわ。」


丸、三日・・・?瞬間回復魔法は傷の重度によって被術者への負担が変わるから、少なくとも重症。

でも、明日菜さんの言い方だと即死レベルだったのだろう。

いい加減目が冴えて起き上がると、頭から濡れたタオルが落ちた。


「あ、まさかその間明日菜さんが?でしたら、ありがとうございます。」

「あ~、私は偶に変わってただけよ。もう少しで休憩時間終わりの筈よ?

全く、いつの間にそんな事なってたんだか………。」


明日菜さんが頭をポリポリ掻きながら、こっちをジトっと睨んで来る。な、何の事だろう?

まさかとは思うけれど・・・。と思ったその時、部屋の扉が開いて、僕の願望も若干入った想像が叶った。


「ね、ネギせんせー………?」

「の、の、のどかさん……!?え、あの、のどかさんが?」


水の入った洗面器を落とし、両手で口を押え目に涙を溜めるのどかさん。

僕がベッドの上で手をわちゃわちゃさせていると、のどかさんは走り寄って来て―――


ガバッ!
「よ、よかった………よかったですー………。もう、もう目を覚まさないかよ、思っ………。」

「へ、あ、や、あの!?す、すみません。その………ありがとう。」

「いえ、いいんですー。私が、好きでやった事ですから。」


顔を上げると、泣きながらもとても嬉しそうに微笑むのどかさん。

自然と、見つめ合って・・・。


「あー!あー!ウォッホォン!そう言うのはもう少し人がいなくて雰囲気いい所でやってくれんかね?

流石に我が家でラブコメられるのは困るんだが。」

「うひゃぁう!?しゅ、しゅ、愁磨さん!?ノワールさんにアリアさんまで!?

いえ、これはその違うと言うかいえ違わないと言うか!?あ、その……ありがとうございました。」

「・・・・すけべ。」

「「うっぎゃぁぁぁああああああああーーー!!///」」


まさかのアリアさんの一言に、僕とのどかさんは頭を抱え顔を真っ赤にして転げまわる羽目になる。

くっ・・・駄目だ、駄目だ。いい加減どうにかしないと永遠にこの会話が続く事になる!


「と、とにかく皆さん出てってくださーーーい!!」

………
……


「で、ネギ。あんたが寝てた間にみんなで考えたんだけどさ。」

「部活を作るアル!!」

「………………………なんでですか?」


騒ぎから暫く。学園祭の時のメンバーが集まり、大事な話があるからと言うから聞けば・・・。

部活?まぁ作るには部員が5人以上と顧問、あとは学生らしい活動内容があれば創設は可能だ。


「ネギ、あんた悔しくないの?」

「え………………はい、悔しいです。このままではどうにも収まりません。で、それと何の関係が……?」

「あんたらが偶に言ってる『魔法世界』ってのがあるでしょ。夏休みにそこに行く為よ!!」


皆さんの考えは単純。この先愁磨さん達が何をやらかすか分からないけれど、力は必要になるだろう。

かと言ってこのまま愁磨さん達だけに教えを乞うて居ても、今回の二の舞になるだけ。

なら、魔法の本場に行けば何かしらの成果が挙がるだろう、と。

その最有力候補は、ズバリ僕の父さんとその仲間の人達。それを探しつつ武者修行、と言う事だった。


「……確かに学園長先生、いえ、愁磨さんでも直ぐに部費として旅費を用意してくれるでしょうね。」

「あー、そこは考えてなかったけど、確かにその通りね。と言う事は、問題解決よね!!」

「ええ、"こっちの世界"での問題はありません。」

「分かってるアル、"あっちの世界"での問題はあるって事アルね。」


当然です、と後を続ける。

魔法使いの世界は皆さん散々見て来たから分かるだろうけれど、その原初のルールは"弱肉強食"・・・

いや、"殺しが肯定されている"世界だ。


「その最前線……頂点も頂点の愁磨さん達と関わって、僕達の誰も死んでいないなんて奇跡以外の

何物でもありません。いえ、その頂点の人達が要所で僕達を助けていたからです。」

「………それは理解しているです。私は実際に戦った訳ではありませんので、本当の所は分かっていないの

でしょうが。」

「そ、それでも、私たちはネギせんせーの力になりたいんです!

これ以上、ネギせんせーが傷つくのを黙って見てるなら、猫の手にくらいなって戦いたいんです!」


のどかさんの言葉に、思わず抱きしめそうになる。・・・いけないいけない。僕のキャラじゃない。

それに、そんな事を考えて良いような話題でもない。


「………分かりました、学園長先生と愁磨先生に話をしてみましょう。」

「うげ、愁磨先生にも?」

「仕方ないでござるよ。どうせ耳に入るだろうし、通らなければいけない道でござるよ。」


・・・元々、夏休み中に行こうとは思ってたんだ。だけど、そこまで皆を巻き込む訳にはいかない。

碌な事にならないだろうけれど、それでも連れて行くよりは万倍安全だろう。

Side out


Side 愁磨

「いいぞ。」 「良いぞ。」

「えぇぇえぇぇえぇぇええぇぇぇぇぇぇええぇぇえええええええ!?」

「えぇええ、って何よネギ。まさか断られると思ってたんじゃないでしょうね。」

「あ、いえ、その………。」


ネギーズに連れられ学園長室に来ると、まさに危惧していた問題を解決してくれた。

喜んでイエスすると、ネギはアテが外れたらしく悲鳴を上げた。まぁ、ここからが本番なんだが。


「まぁまぁ、待ちたまえネギ君明日菜君。ワシらが許可したのはクラブ創設の方だけじゃ。

その君たちの目的は理解も出来る。しかしのう、二つ問題がある。

一つ、魔法世界に行った所で目的は果たせんじゃろう。二つ、その目的を果たす為には街を出んといかん。

その場合、必然と魔獣や賞金稼ぎ・犯罪者共が相手な訳じゃが………。」

「ネギは気付いた筈だな、あと図書館組も見たよな?学祭開始時のパレードに居た浮いた虎と人魚。」

「は、はい。みましたです……が………ま、まさか!?」

「そう、旅人や魔獣から竜種までをも魅了し湖に引きずり込む魔女と呼ばれた人魚"引き摺りゾフィ"、

そしてその相棒の虎系と霊種の亜獣人で賞金首でありつつ賞金稼ぎの"吠神(ワータイガ)ロキ。」

「……彼らはB級賞金首で、僕が逆立ちして勝てるかどうかと言うレベルです。

ちなみにその上にA・S・SSと続き、L、つまり"伝説(レジェンド)"が最高位です。」


俺達三人が突き付ける事実に、顔を青くしたり呆然としたりと十人十色のネギパーティ。

ネギの次に出来る長瀬でもC級に勝てるかどうか、その他は雑魚魔獣にも食われるだろう。


「さて、そこでだ。君達が魔法世界に行くに差し当たっての最低条件はズバリ、お前等のリーダーである

ネギに一発でも攻撃入れりゃ合格。旅費は全て部活動費として学園が出すし、魔法世界へ行く手筈も

整えてやる。それさえ出来ないようなら、お前らは夏休み中学園から出さん。」

「そ、そんな事でいいの?」

「フォォーーッフォッフォッフォッフォッフォ!!出来るならのう!」


明日菜の愉快な発言に、ジジイが珍しく爆笑する。俺だって笑い転げる寸前だ。

まぁ、こいつらの前じゃこいつ割と負けてるからな。だが、その方が効果あるだろう。


「それじゃあ、始めようか。」(パチンッ


指パッチン一つ、ダイオラマ内の海岸へ全員を移動させる。

ネギと長瀬・古菲は既に構えている。・・・明日菜が構えていないのが妙だが、構えを変えたか?


「時間制限は………そうじゃのう、10分にしようかの。ネギ君が移動してよいのは左右5歩のみ。

戦闘方法は任せるぞい。君らは好きに攻めるとよい。」

「………若干納得いかんでござるが、手段を選んでもいられない。行くぞ!!」
ドゥッ!!
「そいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいそいっ!!」


長瀬は戦闘開始の合図も待たず、至近距離のネギにいきなり16身分身で気弾と朧十字を叩き込む。

が、気弾全てを未強化のまま迎撃し、突っ込んで来た八人を投げ捨てる。

続いて突っ込んで来た古菲も投げ飛ばされ、いつの間に習得していたのか、図書館組が撃った『魔法の射手(サギタ・マギカ)』は

しかし、放たれている気の圧でネギの50㎝程手前で掻き消える。


「………えっと、まだやりますか?」

「な、何のこれしき!アル!」

「まだまだ拙者も本気でござらんぞ!」

「良いわよ、皆。ちょっと私に任せて。」


俄然やる気になって気を漲らせた長瀬と古菲だったが、今まで突っ立っていた明日菜が前に出た事で

若干肩が落ちた。肝心の明日菜を見ると、既に"咸卦法"を纏った状態で俺がやった例の剣を持っている。

考えたな。対象が傷ついている時あれを使えば全快させるだけだが・・・。


「やぁぁああああ!!」

「大上段……!?そんな見え見えの攻撃!」


明日菜の隙だらけの上段斬りを、ネギが『銀龍』を腕だけ召喚し右手に宿して剣を殴りつけに行く。

当然の如く弾かれる、とほぼ全員が思った初撃の勝敗は―――

ザンッ
「な……!?くぁっ!!」

「おぉ!何が起こったアルか!?」


明日菜の剣がネギの龍の手を全くの抵抗なく切り裂き、ネギは紙一重で躱す。

あの剣は、明日菜の能力である『魔力無効化』を変換する魔具だ。魔力による傷を判別し"回帰"させる。

治せるのは魔力による傷のみだが、打ち合う場合は別だ。気・魔力は勿論、神力でさえ軽減する。


「成程、明日菜殿が先陣を切ってくれれば行けそうでござるよ!」

「そー言う事!任せろとか言ったけど一人じゃ無理!」

「最初からそう言っとけばいいアルよ!」

「成長していたのは小太郎君だけじゃなかったと言う事ですか………。」


長瀬・古菲をネギの背後へ、明日菜を正面にその後ろへ『魔法の射手(サギタ・マギカ)』が使える三人。

朝倉・長谷川は相変わらず遠くで観戦し、佐々木はリボンを構えている。

・・・残念。その布陣で最初から行けば油断し切っていたネギに一撃入れられただろう。


「「「行くよ!!」」」

「"プラクテ・ビギ・ナル!"『魔法の射手(サギタ・マギカ) 光の三矢(セリエス・ルーキス)』!!」

「………"ラステル・マスキル・マギステル 久遠の空よ来たれり 敵を撃て戦神の矛"。」


突っ込んで来た三人の猛攻と魔法の矢を上体を反らすだけで避け、ゆっくりと詠唱を始める。

最近のネギは、何と言うか・・・得意の光・雷・風魔法を度外視して殲滅特化型になって来ている。

今詠唱中の魔法とてそうだ。固定砲台としては優秀に育っているが、これでは何の意味も無い。


「このぉぉぉおおおおお!!」
ブォン!
「"集え星の欠片 地より出でよ砂の鉄 空に伴え御使いの剣"!」
ザフッ

明日菜が再度大上段で斬りつけるが、空を切り砂浜へ剣が突き刺さる。

その瞬間ネギの詠唱が完成し、隙だらけの明日菜、殴りかかって来た古菲と長瀬を空中へ放り投げる。

そこへ、天からの一撃が落ちた。


「『熾使よりの天剣(シュワルト・ヴァンヒンメル・ファーレン)』!!」
ドッズゥン!!
「「「にっぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」


地上100mに形成されていた全長20mの大剣が隕石かの如く落ち、その余波で三人は吹き飛びダウン。

明日菜も魔法による直接攻撃では無い為、防御不可と言う訳だ。

後ろにいた図書館組三人は白旗をパタパタさせており、これで決着。


「そこまで!勝者、ネギ・スプリングフィールド!」

「ふぅ……ありがとうございました。」

「はい、ネギはノワールと近右衛門について行って修業の続き。その他はこちらへどうぞ。」


再度ダイオラマ球内を移動し、今度は来客用の別荘へと移る。

待機していた茶々子・茶々音・茶々奈が気絶中の三人をそれぞれベッドへ担いで行く。

残った六人が所在無さ気にワタワタしていたので、別荘内を案内し、自由にさせた。

なんとも困った事に、ネギと明日菜がいなければ話が進まない上にする事が無い。


「……刀子。」

「ハッ。刹那の様子……ですか?」

「ああ、あれからずっと籠りっぱなしだろ?そろそろ限界かと思ってな……。」


する事も無い―――と言うか流石に心配が上限を超えた事もあり、刀子を呼んで刹那の様子を報告させる。

"アンサラー"撃破時に気を失った刹那は、起きるやいなや、俺が遊び半分で作った『剣の塔』へ突撃して行った。

そこは名の通り、階が上がるにつれ立ち塞がる剣豪の力が増して行く試練の塔。

全1000階ある内、刹那は昨日120階程度だったが・・・。


「今は、節目の200階の剣豪と対峙しています。ですが、そろそろ………。」

「そうか、僅か半日で80階も上がったか。……今なら本気の松永ともそこそこ戦えるだろう。

急いで戻ってくれ、今の刹那では間違いなく負ける。」

「はい、分かりました。………随分気にかけますね、刹那には。」

「………俺が悪いんだ、そりゃ気にかけるさ。お前にも苦労をかけるな、ありがとう。」

「何を今更、我が王。では、行ってきますね。」


刀子は微笑んだ後、現れた時同様影溶けて行く。・・・全く、黒子に徹していい女だ。

いつかあいつの言う事を二つくらい、何でも聞いてやらないとな。

Side out


Side 明日菜

「まだまだぁ!!…………あれ?」

「まだもこれからも何も、とっくの昔に終わってるアル、明日菜。」


ネギにぶっ飛ばされて起き上がった―――夢を見て飛び起きた。

今朝のネギみたいにベッドに寝かされてて、隣りに古ちゃんと楓ちゃんが腰掛けていた。

・・・私も必死に修業したんだけど、ネギは遥か先を行ってた訳ね。少しでも敵うと思ったの間違いだったわね。


「あーあ……これでまたあいつは一人で行っちゃう訳ね。」

「あら、そんな簡単に諦めてしまうの?貴女らしくないわね。」

「うわぁぁ!?ノワ、ノワ、ノワ!?」

「…………私、そんな驚かせる事したかしら?」


私がズドーンと落ち込んだ所で、いつの間にか横に来ていたノワールさんに話しかけられまた飛び上がった。

諦める・・・ね。確かに、諦めたって仕方ない力の差だったわよね、アレ。

そのネギが勝てない奴がゴロゴロいる世界に私達が行ったってどうしようもないわよね。


「……って、そんな簡単に諦められないわよ!!」

「そうよねぇ、そうに決まってるわ、そうこなくちゃねぇ。」

「あ、拙者はもう大丈夫なのでそろそろお暇「何か言ったかしら?」……何でもないでござるぅ……。」


およよよ、と楓ちゃんが涙を流した所で、私達三人はノワールさんに連れられて他の皆の所へ。

そして皆と一緒に魔法陣に乗って、今度は一転して山の中に来た。


「さて、負け犬の皆さん。あなた達は本当に坊やと一緒に行きたいのかしら?」

「……………も、もちろんです!それが火の中だろうと水の中だろうと!」

「水の中、に関しては言い得て妙ね。人間如きじゃどうしようもなく抗えない、浅い所でさえ危険が伴う。

魔法世界って言うのはそう言う場所よ。」


愁磨さん達に言われた事を再度ノワールさんに言われて若干ウンザリしそうになったけど、この人達が

何回も注意するその意味。本当に危険で、そこに行くなら今度こそ自分の身は自分で守れって事なんだろう。


「そう言う事。そんな訳で、明日菜・楓・古ちゃんは最低でも坊やの未強化状態以上の強さに。

まき絵ちゃんは楓くらいになって貰うわ。さて、あとの文系の皆は体力強化と魔法習得に専念ね。」

「フハハハハハハハハハハハハ!漸く貴様らを苛め抜き貪り尽し、地平の彼方へ埋められると言う訳だ!!」

「え、エヴァンジェリンさん!?えーっと、魔法の先生って言うのはまさか……。」

「そう、私だ!フゥハハハハハハハハ!あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


ノワールさんの"影"からやたらとテンションの高いエヴァちゃんが現れて、五人を攫って行った。

・・・あ、あんな状態のエヴァちゃんに魔法なんか習いたくないわ。

良かったわ、こっちはノワールさん・・・で・・・。いや、待って。何かがおかしい!!


「それじゃまき絵ちゃんにアリカ、楓にはしずな、古ちゃんにネカネ、明日菜にはアリアで行きましょ。」

「あ、アリ、アリ、アリアリアリ!?」

「・・・アリーヴェデルチ?」

「ちっがぁーーう!!いやしたいけどさ!?したいんだけども!ああもう、こうなったらやってやるわよ!

かかって来なさいアリアちゃん!!」
ゴッ!
「・・・・・・やる気なのは、いい事・・・。」


"咸卦法"を使って強化して、ペンダントを剣に変える。アリアちゃんも何時ぞやの虎、『神虎(シェンフー)』を四頭

呼び出して、私の剣の二倍もある鉄扇を二本広げる。

魔力の寒気とは違う、何か神々しい圧迫感を感じる。やっぱり、本物は違うわね!


「せやぁぁぁぁああああ!!」

「・・・直線的。」
どべっ!
「ふべしっ!」

「・・・・・・"アリア・カデンツァ・ヒム・レクイエム かみのらいこう りゅうのいぶき ちりのやま

すべてやきつくす えいごうのほのお"。」


虎の前足で吹っ飛ばされた隙に、アリアちゃんが詠唱を始める。なんか可愛いんだけど、やばい!

急いで剣に力を注ぎ切ると同時に、手のひらから真っ白な炎が広がる。


「『うちゅうそうせいのこくてん(アースメソッド・ランド・サクリメルト)』・・・!」

「そぉぉぉぉりゃぁ!!ぁああああっちゃちゃちゃちゃちゃ!!」

「……おばか。」
ザバー

一旦炎(?)を斬ったまでは良かったんだけど、何故か消えずに剣に纏わりついた上、剣を伝って私にまで

燃え移った。転げまわってる所に、予め用意されていたっぽいバケツの水を被せられ、炎は消えた。

・・・な、なんでただの水で消えるのに私の剣じゃ消えないのよ・・・!


「・・・明日菜、そこそこ出来る。でも、おばか。」

「うぐっ………わ、私が馬鹿なのは重々承知よ……。」

「ちがう・・・。考え方が、おばか。それじゃ、絶対負ける。」


その後は、暫くお説教とアドバイスが続いた。詰まる所私の戦い方は突っ込み処満載で、駄目駄目らしい。

まず、最初から相手に突っ込む戦い方。・・・これは自分でも分かってるんだけど、どうしてもね。

そして相手が詠唱し始めた時に中断させる方法が無い事。これは剣の能力で消せるとばかり思ってた報い。

で、その上律儀に相手の魔法とぶつかっちゃう所も駄目らしい。後ろに仲間がいる場合はそれでも

正解らしいけれど。


「・・・じゃ、始めはこの三つから。」

「は、始め……?まぁ良いわ、了解よ!」


再度剣を構えて、アリアちゃん式修正特訓に入った。・・・この子達を超えて行く為に、まずはこの子達の

足元に立とう。その為にまずは―――


「生き残らないといけないのよおぉおおおおおおおおお!!」

「・・・ちゃんと、やりなさい。」

Side out


Side エヴァ

「フン……全く、何を遊んでいるんだかな。」

「まぁまぁ、そう言わんでやりなさいな。」


私の言葉に、兄様は生暖かい目で四組を見守っている。・・・気に食わんな、色々と。

こちらもあちらも、程度の違いはあれど中学生の小娘共だ。それを私達の世界に突き落とそうなど。

まぁ、兄様は昔から遊びが過ぎる人だったからな・・・。付き合うのにも慣れたさ。


「さて生徒諸君。貴様らの出来に合わせてカリキュラムを作ってやったぞ。

ノルマ熟せん奴は後で補修だからな?こ・じ・ん・て・き・に♪」

「「「「はいぃぃぃぃぃ~~~!!」」」」


私が小娘共を料理する為の献立を渡してやると、悲観に暮れながらもワイワイ練習し出す。

尤も出来が良いのは宮崎・綾瀬か。一番出来ない・・・と言うかやる気が無いのは長谷川か。

・・・だが、こんな空気も良いのかも知れない。少しだけ―――


「―――救われる。」

「……ああ、そうだな。こんな毎日だけが続けば良いのにな。」


若干疲れた様子の兄様に、自然と手が伸び頭を撫でてしまう。すると、珍しい物を見たかのように

目を見開いてこちらを向く。そして、直ぐに柔らかく笑う。

・・・起きている時にやったのは初めてかもしれない。だが、こんな風に笑って貰えるのなら悪くない。


「あーーー!愁磨せんせーとエヴァちゃんがイチャついてるーー!!」

「ウヒヒヒヒ、これは夏休み明けの新聞用に撮影しとかないとねぇ!!」

「き……貴様ら………いい度胸だ!カリキュラム放棄、弾幕避けに変更だ!!」

「ちょ、ふざけんな早乙女、朝倉!被害被るならお前等だけにしろよ!!」


早乙女と朝倉と長谷川で、ギャーギャー言い出す。綾瀬と宮崎は・・・うん、話を聞いてはいないが

真面目だから勘弁してやろう。あいつらは伸びそうだ。・・・さて!


「人に文句を言う暇があったら避けろよ、貴様らぁ!!」

「「「ギャァァァァァァァァアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」

………
……


「よし!これで当初の予定通り、貴様らは全員中級試験合格だ!小娘にしてはよくやった!」


内部時間にして一か月、やる気のなかった長谷川さえ『魔法の射手(サギタ・マギカ)』の無詠唱を習得。

早乙女・朝倉は肉体強化魔法を習得して肉弾戦が可能になった上、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を50以上出せるようになり、

綾瀬・宮崎に関しては綾瀬は火、宮崎は水の中級魔法をも使えるようになった。

・・・と言っても、一発で気絶するがな。そんな功績を労ってやったと言うのに、兄様と来たら―――


「「「「「きゅぅ…………………………………。」」」」」

「ふぅむ……やりすぎた?」

「当たり前だ!!こいつらに兄様の『魔法の射手(サギタ・マギカ)』が一本でも相殺出来る訳無いだろうが!」


テヘッ☆とふざけた兄様を思いっきりどつく。最終試験だ!とか抜かして撃ったのが風の矢だったから

良かったものの・・・。いや、そんなヘマするとは思ってないんだが。


「そうだそうだ。ついでだから、お前達も仮契約しておかないか?」

「仮、契約……って、あ、あのー……。」

「ふむ、成程な。宮崎以外はしていなかったな。修学旅行でお前が坊やとブチューっとやったのがそうだよ。」

「へぅ………///」


兄様の提案で一段階、私の言葉で真っ赤になる宮崎。相変わらず可愛い奴め。

まぁ兄様の言う通り、基礎が出来た以上それぞれの武器を持った方が伸びも良いし、何より戦術に幅が出る。


「はーい、と言う訳で今なら絶対に動かない、と言うか動けないネギ君を連れてきました~。

キスするも手を握るのもナニをにぎ(スパァァン!!)ゲフンゲフン。まぁ何をするも自由!

要は触ってさえいれば仮契約可能だ!」

「と言うか、貴様らに選択肢は無いぞ。」

「へぇ……要は役に立つ道具が貰えるってんだろ?なら迷う必要も無いわな。」

「そうね、じゃあ私は折角だから、ネギ君のくちb「パル、何か言った?」何でもありません宮崎軍曹!

サー!!自分は額に触れさせて頂きたく存じます!!」


以外とノリ気な長谷川を先頭に、早乙女が坊やの唇を奪おうと発言しようとしたその瞬間。

宮崎の黒い、それはそれは真っ黒い素敵な笑みを受け、早乙女は最低限の接触に留めた。

・・・こいつ、坊やをダシにすればあっちの戦闘組をも凌ぐんじゃないか?

とふざけた事を考えている間に、宮崎以外全員分(と言うか全員一気に)仮契約を終わらせた。


「ハイハイハイハイ、と。マスターと従者カードは本人に渡しておくから、こいつの目が覚めたら渡しとけ。

さて、宮崎だが……お前一人だけ仮契約済んでる為、少々手続きが変わる。

少々待つか、ネギにキスすれば終わる話だが、あ、はい、そうですか。無理ですよね。」


兄様が宮崎に(ニヤニヤ笑いながら)どちらにするか聞くと、再び顔を真っ赤にし、ただ首を横に振った。

・・・大胆なんだか、臆病なんだか。独占欲は強そうだがな。

まぁこれで私もこいつらも晴れて自由の身。あとは―――


「二泊三日海の旅ぃー!ついて来る奴はこの指とーまれ!!」

「「「ハイハイハーイ!!」」」


―――あとは、このふざけた修学旅行もどきだけだ。

あぁ、何故真夏の太陽の下に出ないといけないのか。まぁ"家"で寝てればいいか・・・。

全く、面倒な事だ。


Side out


Side ―――


飛行機の降り立つ音と、飛び立つ音が幾度と聞こえる。

"成田国際空港"、普通の人間が利用する普通の施設に、新たな問題児が現れた。


「全く……あいつ、来る来るって言うだけで、全然来ないんだから。

ネカネお姉ちゃんも帰ってこないし、共々連れ帰ってやるわ!」


唾広のトンガリ帽子にローブ、そして長い赤い髪。場違いな魔法使いが、そこにいた。


Side out
 
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