BALDR SKY
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02シュミクラム
目覚めると同時にぼんやりとした視界に茶色の長い髪の毛をした女性が映し出され、何かを喋っている。
「それじゃあ、本当にこれを植え付けるんだな?」
「ああ、問題無い。我々が奪取して来た物だが、ノインツェーンの遺産だが、このままでは奪われる可能性がある。それなら、さっさと使ってしまえばいい」
「アイツの遺産など、壊してしまえといいたいのだが、依頼者の命令では仕方無いな。では、私に任せろ」
誰かと会話しているようだが、誰かはわからないし、身体も動かない。金縛りのような状態だな。なんとか声をだそうにもおぎゃあ、おぎゃあという声しか出せない。
「それと、すまんないが……」
「わかっている。しばらく預かってやる。その分の値段は貰うがな」
「了解。養育費に必要そうな金額は指定口座に入金した」
「確かに入っているが、お前の全財産じゃないか……」
「追ってが悪名高きフェンリルでは、生き残れるかわからんのでな」
とんでもない連中に追われているな。フェンリルは歴戦の傭兵達で構成され、情報戦や電脳戦にも極めて長けている。そして、営利組織である為、基本的には中立的存在なのだが、金次第でどの組織、陣営にも就くPMC―いわゆる民間軍事会社だ。少人数の一会社ながら、軍隊と渡り合える一騎当千から一騎当百のような連中が所属している。
「それより、ヘイゼル。もう時間がないんじゃないか?」
「わかった。それでは、ノイ。悪いが、息子を頼む」
「ふん。さっさと行け」
「ああ、またな」
母親の様な女性が俺の頭を撫でた後に姿を消し、静寂が訪れた。そして、俺を覗き込んでくる茶髪に緑色の大きな瞳をした幼い少女。確か、公式設定で身長144cm、体重33kg、B68/W50/H76、血液型B型、誕生日5月29日だった気がロリ闇医者だと思う。
「さて、セカンドにする訳だが、どうせなら色々と弄るか。せっかくの実験台だしな。ナノマシンによる自己進化も混ぜてみよう……イム君、手術を開始するぞ」
「了解」
麻酔を打たれ、意識が無くなっていくが、とんでもない言葉が聞こえて来た。
「ドリルとか付けたら面白いかもな?」
不穏な言葉に不安になりながらも意識を失った。
改造手術を受けた後、数年は普通に過ごしていた。といっても、下の世話から始まり、何から何まで全部少女の様なノイ先生にお世話されるのだから、凄く恥ずかしい。ただ、驚いた事に甲斐甲斐しくお世話してくれたのだ。
「全く、ヘイゼルに押し付けられたせいで……私が規則正しい生活をする事になるとは……ちっ、偽装の為にアダルトショップを経営するのはじばらく無理か。いや、そもそも私にまともな子育てなど無理なのだから、アダルトショップは構わないか」
何時もの通り、ゴスロリに白衣という姿のノイ先生。ノイ先生は闇医者だがその腕は確かなもので、医療に関する技術や知識は高く、裏世界では名医として名を馳せている。特に人体改造やサイボーグ手術を得意とし、金次第でどのような改造でも施してくれるという評判を得ており、電脳に関しても詳しい。
「ああ、ミルクの時間だな。しかし、子育てというのも以外に面白い」
と、こんな感じだったのだ。御蔭で5歳になるくらいにはこの環境もなれ、お姉ちゃんやお母さんといった感じになった。この頃になるとアダルトショップに偽装した診療所が完成している。
「シャル、何をしているんだ?」
ノイ先生の声が聞こえて来たので返事を返す。シャルというのは俺の名前で、シャルトスというのが正式な名前だ。
「シュミクラムの開発」
「そうか。欲しい物が有れば何でも言ってくれ。買っておくからな。それと、こないだ頼まれたシュミクラムの電子書籍だ」
「ありがとう、ノイ先生」
「うむ」
母さんは数年に1度か2度くらいしか会いにこない。生きている事は生きているようだ。あのフェンリルから生き残れただけでも大したものだ。なので、もっぱら俺の母親はノイ先生だ。ノイ先生からは電脳など様々な技術を教えられた。御蔭で樹形図の設計者と合わせて俺の技術力はかなり上がっている。特級プログラマ(ウィザード)クラスにはなっている。流石は樹形図の設計者と言った所だ。
「シュミクラムはどんな感じだ?」
テーブルに膝を乗せて、両手に顎を乗せながらニコニコしつつ聞いてくるノイ先生に俺は素直に答える。
「一応、出来てきたかな」
「そうか。どんな感じだ?」
「これ」
俺が作ったのシュミクラムはバンシィだ。ただ、背中にはストライクフリーダムのドラグーンシステムを搭載しているが。ちなみに大きさは普通のシュミクラムサイズだ。
「一応、他にも作ったんだよね」
「そうか。そっちはどんな感じだ?」
「これをノイ先生にあげようと思っている」
ノイ先生に用意したのはユニコーン。背中にはストライクフリーダムのドラグーンシステムを搭載している。
「嬉しいが、私はシュミクラム戦闘などしないのだがな……それより、ヘイゼルにはないのか?」
「そっちも当然あるよ。これ、シナンジュ」
母さんの名前から連想して赤いシュミクラムという事で、シナンジュを樹形図の設計者で作成したのだ。どれも自己修復のナノマシン付きだ。ちなみに母さんはまんまサモンナイト3のヘイゼルだった。今も前に居たPMC赤き手袋が解散して新たに作られたPMC深紅の虐殺者に所属している。構成人数は少ないらしいが。
「それじゃあ、ヘイゼルに送ってデータ収集をするといい」
「わかった」
俺は母さんに秘匿回線の通信を送る。すると、直ぐにチャント(直接通話)が返って来た。チャント(直接通話)は軍用ツールのひとつで、インストールしている者同士で秘匿性の高い直接的な通話ができるようになり、軍人の基本的な装備だ。俺もインストールしている。
『何かあった?』
『うん。今、大丈夫?』
視界に母さんの顔が映し出される。母さんの背後からは悲鳴が聞こえてくるが気にしない。
『相手は雑魚だから平気。それでどうした?』
どうやら、片手間に戦闘を行っているようだ。まあ、問題なさそうなので、要件を告げる。
『母さん用のシュミクラムを作ったんだ。だから、そっちに送るね。できれば使って欲しい』
『わかった。ノイから聞いている。期待させてもらう。ありがとう』
『うん。それで、今度はいつ戻ってくる?』
『この仕事が終わったら戻る。お土産は何がいい?』
『なんでもいいよ』
『わかった。それと、身体には気をつけるように』
それだけ言ってチャント(直接通話)が切れた。俺はシナンジュを送りつけたので楽しみだ。
「それで、ヘイゼルはなんだって?」
「今の仕事が終わったら来るって」
「そうか。シャルの学校の事とかも相談しないといけないから丁度良いな。さて、ご飯にするか」
「わかった」
資源が枯渇している現在、前時代的な料理……前世での普通の料理は高級品だ。庶民に手が届くのは化学合成で作られた完全合成食料だ。本物の食品は上流階級の住んでいるミッドスパイアぐらいでしかお目にかかれず、値段は2桁違うはずだ。見てくれは肉や魚、野菜を使った料理と変わらないが、食べると非常に味気ない。栄養素だけを似せた別物だ。だが、これの対策として、調整済みナノマシン……ナノの素にプログラミングして食べるのだ。プログラミングを間違えると意識が吹っ飛んだり、最悪死亡する場合もあるが。
「シャル~まだか~」
「ちょっと待ってて」
大量に作ってあるデータから、作る料理のプログラムコードを呼び出して調理をしながらナノの素に味付けを行う。程なくして、カレーライスが出来上がった。蜂蜜入りで、ふくしん漬けやらっきょうも置いておく。
「はいよ」
「うむ。頂きます」
2人でカレーライスを食べる。激ウマだ。樹形図の設計者でかなりの旨さに仕上がっているので、パクパク食べられる。
「午後から診察の予定が入っている。シャルは好きにしているといい」
「なら、シュミクラムで遊んでみるよ」
「ホームエリアだけにしておけよ。出るにしてもシュミクラムをちゃんと動かせるようになってからだな。それと、リミッターがある場所以外は動けるようになっても行くな」
「……わかった」
心配してくれるのは分かるので大人しく従っておく。食べ終わったら洗い物をして、地下室にあるベットで横になって神経挿入子(ニューロ・ジャック)にワイアード(有線)で接続する。これは他者による外部からの強制離脱が可能なため、リミッター・オフ・エリアではワイアードでの没入が望ましいとされているからだ。いかないにしても、ワイアードにするよう、口を酸っぱくして言われている。
俺が入った場所はホームエリアにある訓練所だ。ここはリハビリなどでも使われる。脳内から思考でシュミクラムへと身体を変化させる。
【移行】
電子体の身体が作り変えられて、ロボットの姿、シュミクラムになる。その姿は本来よりはかなり小さいが、バンシィに間違い無い。
武装はリボルビング・ランチャーと呼ばれる回転式の弾倉を持つ4連グレネードランチャーが装着されたビーム・マグナムを始め、60ミリバルカン砲×2、ビーム・サーベル×4、アームド・アーマーDE(メガ・キャノン)×1、アームド・アーマーVN×1だ。
「どれもオールグリーン。問題は……あった」
やっぱり、エネルギー効率が悪い。割り当てられた演算能力だけじゃ足りない。長時間の戦闘ではシステムダウンの可能性がある。シナンジュは既に実戦投入されているんだから、そのへんも考えないとな。そうなるとプラグインを作って強化するしかないか。
「どっちにしろ、先ずは動かすかな」
インストールしたての場合は歩行訓練だけで一日潰れてしまうらしい。俺自身の膨大な演算能力と自己進化のナノマシンでさっさと動きをマスターするためにシュミクラムを動かしていく。男の子の夢、人型ロボット……実に素晴らしいじゃないか!
御蔭で歩行訓練から武装の確認。プラグインの作成とどんどん更新していける。気がつけば夜も遅くなって、晩御飯の時間だった。でも、プラグインは完成したので母さんに送っておく。これでシナンジュも大丈夫だろう。
取りあえず、離脱を行って食事の準備をしようと思ったのだが、取り込み中のようだ。
「シゼル、こっちの服はどうだ?」
「しかし、いや……これはこれで……」
見たら駄目だと思って、キッチンで料理を作る。その後は適当に食べてから、ノイ先生のを置いてまたダイブを行い、仮想世界で訓練をする。ちゃんと動けるようになったら、無人化されたドローンと呼ばれるシュミクラムの無人機を呼び出して、軽く戦っていく。だが、母さんが持っている無人機では直ぐに相手にならなくなってきた。解析して予測すれば直ぐなのだ。それに、この世界は難易度がVERY EASYからVERY HARDまである5段階のうち、どれかもわからない。それによって強さが全然違うのだ。
「これはドローンから作るしかないか」
新たにシュミクラムを用意するのは面倒なので、バンシィ・ノルン、シナンジュ、ユニコーンのドローンを作成して自己進化プログラムとアップデートシステムを搭載しておく。もちろん、セキュリティは考えうる限りの強固な代物を取り付ける。
「さて、取りあえず……バンシィからだな」
同じ機体を使いながらの戦闘になる。先ずは距離をとって、アームド・アーマーDE(メガ・キャノン)を放つ。相手はARMEDアーマーを盾にして防ぎながら、ビーム・マグナムを撃ってくるのが分かったので、瞬時に軌道を計算して回避行動にをとって回避する。それと同時にグレネードを放ち、接近する。バルカンが瞬時に放たれるが、その軌道を予測し、こちらもビーム・マグナムを放ってやる。それで撃破出来た。
「弱いな……だが、アップデート」
俺のさっきの行動をアップデートしてやると、今度は回避しながら撃ってきたりとマシになってくる。それでも、勝てるのでドローンの数を増やす事にする。バンシィのデータを書き換えてユニコーンとシナンジュにも適応させる。今度は一度に3機を相手にする事になる。だが、未来予測すら可能な俺はそれでも足りない。ひたすらアップデートを繰り返して四日後になればまともだと思える程度には成長したので、未来予測を行わずに自力で戦いだした。すると、1体は勝てる。2体は苦戦。3体は負ける。それに勝つために大戦を繰り返す。しかし、勝ってもアップデートで直ぐ強化するので鼬ごっこだ。しかし、実戦経験にはなるので続ける。
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