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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§3 現世を満喫する魔王

 
前書き
ごめんなさい若干修正です






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「つ……詰んだ、だと……」

「マスター無様ですね」

 道端で冷や汗を流す水羽黎斗、ただいま絶賛迷子中。




 猫軍団に振る舞ったキャットフードの残骸を始末し黎斗が向かった先はラーメン屋。都会では目立つであろうエルはリュックの中に潜ませる。腹が減ってはなんとやら。醤油らーめん大盛り(学生は無料らしいので思わず大盛りにしてしまったが学生証がボロボロであったため学割は泣く泣く諦めた)を貪るように食べて会計を済ませる。1000年の時を越えて食べるラーメンは格別だった。何せ放浪していれば美味しい食文化を得る機会なぞあまりない。感動に震え泣きながら食べたら店主のおじさんにチャーシューをオマケしてもらえた。万々歳である。

「ふひぃ〜…… 食った食った」

 宝石を換金した時に調べてみたことだが保険証は黎斗が現在所持している物と形が同じ為使えそうである。もちろん、きちんと調べられれば「データ上では存在しない」保険証であることはすぐにわかる。が、そこまで調べられることは滅多にないだろう。つまり控えを取られない範囲で身分証明書を入手したことになる。鼻歌を歌いながら駅前商店街へ歩き出す。
 しかし、これが運の尽きだった。浮かれていた彼は「住処の確保」という最大の問題点を失念していた。アパートの空き部屋を調べるどころかどこにアパートがあるかすらわからない。木々や動物に聞いてみたが彼らにとってアパートとビルの区別は難しいらしい。ビルまで案内される事が多かった。アパートに案内してもらえても軒並み満室。

「ネットカフェに住む神殺しとか絶対バカにされるよぅ……」

 絶望に染まる黎斗の瞳。かくして冒頭の場面となる。





「冷静に考えりゃ住所なきゃ携帯電話って買えなかったかも……」

「携帯電話とやらを買えないのではマスター目的果たせませんね。私はネットカフェなるものを知りませんがカフェと名の付く建物に私みたいな狐入れるんですか?リュックの外に出られない、なんてバカな展開は勘弁してくださいよ?」

「……あ」

 いよいよもって万事休す。ディオニュソスの権能を使えば他人の家で生活することは出来る、がそれを良心が許さない。第一いずれボロが出る。他の権能はこの局面ではどうしようもない。時刻は午後3時を少し回ったところ。早く寝床を決めなければエルを連れている以上野宿になってしまう。野宿の神殺し(笑)と言われる自分を想像し落ち込む黎斗。

「なぁ、そこのあんた。どうしたんだ?」

「ちょっと護堂、私とのデート、という自覚がないの?」

「デートって…… とにかくへこんでいる相手を見て、放っておけないだろ」

「まったく…… まぁいいわ。お人好しな面は大目に見ましょう。またの機会を楽しみにしてるわよ」

 ……カップルか。カップルなのか。しかもラブラブの。
 妬ましく思いながらも優しき男性にお礼と相談をしようとして振り向く。

「イケメンカップルがおる……」

 相手と自分の容姿の差に愕然。ついでに生で見た金髪美少女に呆然。結果、第一声は情けない物になった。

「は?」

「あぁ、ごめんごめん」

 我を取り戻した黎斗は事情を説明する。エルはリュックの中で丸まって動かない。

(強大な魔力……神殺し?マスターの御同胞かな?彼女は……魔術師? 私じゃ相手になりそうにないですね。おそらく逃げるだけで精一杯)

 おそらく見られたら一発で妖狐とバレるだろう。厄介事を増やさないためにも、彼女は気配を押し殺した。




「ありがとー!」

「気にすんなって」

「うん!エリカさんも、デートの邪魔してごめんねー?」

「だからちが「あら、殊勝なのね」……エリカ、お前…… まぁ、また夜にな!」

 2人が、帰って行く。幸運な事に護堂の家の隣にマンションがあり、運良く部屋が空いていた。2階の端で日当たり良好。トイレ、キッチン、風呂ありで窓を開ければ外は綺麗。お買い得である。手続きをサラッと済ませ住所を手に入れた彼はエルと共に家を出た。目指すは携帯電話の購入及び護堂の通う高校への編入である。日本に来て初めての”人間の”友人だ。でも神殺しの魔王だから人間ではないのだろうか? 夕食を招かれているので用事はサクサク済ませたい。

 護堂の家の前で木々を眺める。

「ねぇねぇ、護堂ってどこの高校かわかる?」

…………

「ふむ、わかった。ありがとっ」

……

「ん?あぁ、その高校に転入しょうかな、と」

………………

「だいじょーぶ。これからよろしくね」

 木から高校名を聞いて歩き始める。迷ったら鳥に聞けばよい。まず入学手続き、それから携帯電話購入。須佐之男に友達ができたことを自慢し新居を伝えよう。そんな事を考えながら黎斗はのんびり歩き始めた。まず目標は携帯電話の復旧だ。




「ありがとうございましたー!」


 携帯電話を買い、転校手続きを済ませた黎斗は意気揚々と校舎を飛び出し早速須佐之男命に電話をかける。

「スサノオー!友達出来たんだよ!!あと住居も決まった!」

 嬉しそうに話す黎斗。彼からかけているせいか、須佐之男命が通話相手であるにも関わらず天候は晴れそのものである。

「うん、うん、まぁだいじょーぶでしょう。多分。第一、僕を神殺し——あぁ、カンピオーネだっけ? カンピオーネと知ることは出来ないよ。相手が本気になりゃ別だろうけど、一般人にしか見えない相手に本気にゃならんだろうさ。もっともお前やアテナ辺りだったら顔バレしてるから話は別なんだけど」

 笑みを浮かべて、彼は続ける。

「それに神の1人や2人で負けはしないよ。そんなヤワな人生送ってきてないって。……うん、油断はしないから大丈夫」

 関係者が知れば戦慄するであろう会話を続ける2人。夕方の商店街でそんなことが話されていることを知るのは、当事者のみ。

「ん、じゃあこの辺で。みんなによろしく」

 通話を切る。

「……!?」

———ふと、懐かしい、気配がした。
 平静を装い、周囲を見渡す。少し離れたところに居た。
 千年近く前に戦った顔。その力の前に逃走を余儀なくされた銀の髪を持つ美少女。
 だが、どこかがおかしい。

「アテナ……!!」

 彼女はこちらへ気づかず通り過ぎていく。僅かな違和感を残して。

「なんだ……? だいたいなぜ彼女が日本へ……?」

 アテナと昔戦った時はボロ負けしたものだ。結局、ディオニュソスの権能を限界以上に酷使して精神攻撃を行い逃亡したのだけれど。

「僕を追ってきた? いや違う。それならば幽世に殴りこんでくる選択肢だってあった筈」

 違和感が恐らく鍵だ。あの女神に何があったのだろう?

「マスター、アテナ様を気にするのは結構ですが六時になりますよ?」

「うわっ!? ヤベ!?」

 慌てて走り出す黎斗。戦いの日々から離れ平和に慣れきっていた彼は、アテナの事をすぐに頭の片隅から追い払った。





「お、おじゃましまーす……」

「ははは、いらっしゃい」

「嘘!? お、お兄ちゃんが同性の友人を連れてきた……」

 なんかすごい発言を聞いた。コイツはやはり非モテの敵か。

「静花、お前は俺をなんだと思っているんだ……?」

 草薙家はとても賑やかだった。一人っ子である黎斗には、兄妹のじゃれあいが少し羨ましい。

「護堂が珍しく男の子の友達を連れてきたからね。少しいつもと変えてみたんだ。お口に合うと良いのだけれど」

 そう言って朗らかに微笑む護堂の祖父は、やっぱりイケメンだった。

「草薙家のイケメンは遺伝か……っ!?」

 草薙家のスペックを改めて思い知らされ、絶望する黎斗。

こーん。

 自分を無視するな、とばかりにエルが飛び出してくる。もし妖狐云々を聞かれても、ごまかしきる。2人でそう結論を出したため、黎斗はエルの存在を大っぴらにする。

「きゃー!! この子可愛い!!」

「おやおや、これは小さなお客さんだね」

「黎斗、コイツどうしたんだ?」

 三者三様の反応。狐はやっぱり珍しいらしい。護堂の反応ばかりはエルが「妖狐」であることに対してなのかは判断がつかないが。

「あぁ、地元で怪我してるトコを手当てしたら懐いちゃってさ。昼間はリュックの中に居たんだよ?」

 ……嘘は言ってはいない。嘘は。出会ったのが恐ろしく昔であるだけのことだ。

「名前!! 名前はなんて言うんですか!?」

 テンションがMAX状態の静花の発言に自己紹介をしていないことを思い出す。

「僕は水羽黎斗、コイツはエル。よろしくね」

 エルもまた挨拶するかのように、こーん、と鳴いた。






「ふひぃー。ご馳走様でした……」

「すげぇ食べっぷりだったな…… 腹壊すなよ?」

 千年振りの豪華な食事。ここでも黎斗は昼間のラーメン屋よろしく感激の嵐だった。口を開けば「おいしい」「うまい」「おかわり!」である。

「後半泣きながら食べてたよね……」

 静花など途中から箸を止めこちらを見ていたくらいだ。

「……あ゛」

 自らの所業を思い出す黎斗。

「ご、ごめんなさいぃ……」

 穴があったら入りたい、とはまさにこの事だ。友達になったばかりの家に来て五、六杯もおかわりをして泣きながら食べる。やりすぎである。

「いやいや、ここまで喜んでもらえると冥利につきるねぇ」

 そう言って笑う護堂の祖父に思わずジーン、とくる黎斗。

こーん。

 ごそごそエルが荷物を漁る仕草をする。

「あ、そうだった。エル、ありがと」

 思い出した黎斗は持ってきた荷物から一リットルのペットボトルを取り出す。中には透明の液体が並々と入っている。

「あの、これ。家から持ってきたお酒なんですけど。もしよろしければ、どうぞ。未成年は無理だからおじさんしか飲めませんけど勘弁してください」

 例によって権能で作ったものだ。少名毘古那神の権能の一つ。一週間に一リットルだけ液体から酒を生成でき、アルコールの濃度や味を自在に変えられる。好みの味を作れるが数量制限のせいで須佐之男命と2人で酒盛りをするときくらいしか役に立たない能力。メタノールなどを作り出しても、神との戦いに有効か、と言われれば疑問符がつく。エル曰く「微妙すぎる能力」である。こういう時には役立つのだが、贈り物をするような相手はここ数百年いなかったので使った記憶があまりない。

「おや、これは随分と美味しそうなお酒だね。ありがとう、あとでいただくよ」


「あ、そう見えます? よかったー」

 護堂の祖父の言葉に何故か自信げな黎斗。能力で作ったくせに偉そうに言うな、と言わんばかりにエルが飛びかかってきた。
 笑い声に包まれる食卓。夜は更けていく。







「みなさん、いい人達でしたね」

 時刻は9時を回り、黎斗とエルは草薙一家にお礼を言って帰路についた。黎斗は包みを抱えている。

「こっちに越してきたばかり、それも一人暮らしは大変だろう? 余り物で申し訳ないが、もしよかったら明日の朝食にどうだい?」

 護堂の祖父のその言葉に甘えさせてもらい、朝食を用意してくれた彼に何回もお礼を言った黎斗は、包みを落とさないよう慎重に階段を登る。

「マスター」

 どことなく張り詰めたエルの声。

「わかってる。誰だろうね。スサノオくらいにしか住居教えてないんだけどな」

 自分達の部屋の前に、何者かの気配を感じる。須佐之男命の神力を僅かながら感じるので恐らく彼の子孫だろう、と適当に予想する。

「んー…… あなたがれーとさん?」

「……今日は美少女とよく会うなオイ。しかも巫女さん? 刀持ち? あー、なんかもうどーでもいいや……」

 巫女装束の美少女が、見覚えのある太刀を持って体育座りでうつらうつら船をこいでいた。予想外の光景に黎斗は一瞬固まってしまう。鍵をかけていたから入れなかったのだろうが、いつから居たのだろう?

「そうです。僕が黎斗です。誰から聞いたんですか? あと、女の子が外で居眠りは危ないと思うのですがそれは」

 誰かわからないのでとりあえず会話を試みてみた。仮に敵なら倒せるように、臨戦態勢に移りながら。

「良かったー、あってた! いやー、留守で帰ってくる気配ないからどうしよう、って悩んでたら眠くなっちゃって」

 あはは、と笑う彼女に毒気を抜かれる。

「……とりあえず中にどーぞ?」

 夜は冷える。風邪をひかれたらたまらない。黎斗は昼間買ってきたココアを早速使おう、と思いながら客人を部屋に招き入れた。

「うん、改めましてれーとさん。恵那は清秋院恵那っていいます。とりあえずこれからお世話になるかもしれないけどよろしくっ」

「まって、意味が分からない」

 自己紹介したらコレである。黎斗はフリーズ状態だ。

「えー、おじいちゃまから聞いてない?」

「おじいちゃま?」

 まるでおじいちゃまとやらが黎斗の知り合いであるかのような口ぶりだ。しかし悲しいかな、彼に知り合いと呼べるのは草薙家を除けば須佐之男命達しかいない。そこまで考えて、ふと思い出す。眼前の少女からは須佐之男命の神力を僅かながら感じるとれる存在であることを。

「……もしかしてスサノオのこと?」

 適度に冷めたココアを飲みながら尋ねてみる。

「おじいちゃまが親友が越してきたから挨拶しとけ、って。……そもそもれーとさんって何者? 気配は一般人。魔力も無いみたいだし。部屋見渡しても呪術的な道具無いみたいだし。でもただの人がおじいちゃまと知り合えるもんなの?」

 あ、ココアおいしいね、と飲みながら恵那は続ける。

「それに”他の人達にバレないように”挨拶してこい、ってのも気になるんだよね。れーとさんってもしかして危険人物でいろんな人から追われてたり?まさかその狐さんが原因ってわけじゃないだろうし」

 ……おいおい、この巫女。鋭すぎだろう。黎斗は内心舌を巻く。正体がバレればいろんな所から追われそうなプロフィールの所持者である気もするが自分では危険人物ではないと思う。まぁ一撃で都心を無に帰すことの出来る力を持っている人を安全人物とは言えない気もするけれど。
 どうする自分。まず須佐之男命に関しては将棋仲間……無理だ。絶対信じてもらえない。

「えっと……」

 いっそバラすか。一人二人バレても黙っていてもらえれば問題ないし。護堂にもいずれは話すわけだし。もう妖狐とバレてるんだし対して変わらないだろう。そう考えて口を開こうとする。

「昔ある事情がありまして。須佐之男命様と私でマスターのサポートをしています」

 「ナイスアシスト、エル!」と黎斗は心の中でエルに感謝した。しかし問題はここから。果たしてこの直感巫女から隠し通せるか。

「あ、そーなんだ。それにキミ、喋れるんだね。お名前は?」

「私はエルといいます。あ、術とかは使えませんよ? 感じとれるだけですので」

「あ、あら……?」

 巫女と妖狐の会話は瞬く間に話題を変え誤魔化し方を考えずにすんでしまった。黎斗はほっとひと息つきながらココアを口に入れる。とっても、おいしかった。
 巫女の隣には懐かしい剣。須佐之男命と打ち合った時に散々苦戦した神代より伝わる神剣だ。彼女が継承したのだろうか?

「どうしたの?」

 どうやら天叢雲劍を見ていたのがバレたらしい。笑って誤魔化す。

「ん。いや、ちょっとね。剣だなーって」

「恵那さん、マスターが変なのは昔からです。あまりお気になさらず」

 あんまりと言えばあんまりなエルの言い分に思わず苦笑いせざるを得ない。エルを軽く小突き外を眺める。
 先ほどまで月が見えていたのに、今は見えない。風雨が突然襲ってきたようだ。窓を雨が叩くのとほぼ同時に、携帯電話が鳴る。無論、黎斗のではない。

「あ、おじいちゃま?」

 どうやら須佐之男命との会話らしい。通話の度に嵐とは、相変わらずはた迷惑な神様だ。恵那と会話している須佐之男命を想像して顔が少しにやけた。彼はどんな顔をして彼女と会話をしているのだろう?

「えーっ!?」

 恵那の声に、意識を室内に戻す。どうやら須佐之男命と揉めているらしい。こっちを恵那がチラチラ見ている。もしかしてトラブルに巻き込まれるのだろうか? 黎斗の背筋に嫌な汗が流れる。

「バレないように、ってのが大変なんだけどなぁー……」

 聞こえてきた「バレないように」のフレーズで嫌な予感がビンビンくる黎斗。

「うん、わかった。やってみる! 祐理のためだもんね!」

 どうやら解決したらしい。恵那の張り切り具合がすごい。背景に炎がメラメラと燃え盛っているのが見えるようだ。

 「恵那さん、今のスサノオ?」
 
分かりきっているけれど一応確認。

「恵那でいいよー。 ってワケで、これからよろしくお願いします」

 そう言って三つ指をつき、深々と頭を下げる恵那。

「……へ?」

「恵那さん、須佐之男命様は何と仰られたのですか……?」

 突然の事態に硬直する主従。

「私の友達のお手伝いをしなきゃいけなくなっちゃってさ。この近辺に居た方が都合が良いんだって。で、れーとさんの住んでるココを当面の住居にしろ、ってことなんだ。おじいちゃまからさっき聞いたけどれーとさん寂しいと死んじゃう性格なんでしょ? エルちゃんもいるし恵那もいるから寂しくないよ」

 確かに寂しいのは嫌な性格だけれどさ、という黎斗の呟きはアッサリ流され恵那の爆弾発言は続く。

「こっから見つからないよう動かなきゃなのが問題なんだけどおじいちゃまが認識阻害の呪を込めた服を送ってくれるらしいからなんとかなるかな、って。だからこれから荷物とりに一旦帰るね」

 それだけ言って、恵那は部屋から出て行った。黎斗は荷物運びを申し出たものの「黎斗さんが動くと色んな人にバレちゃうからダメだよ」と言われたため自宅待機中だったりする。

「……人生初の同棲ですよ」

「須佐之男命様に見事に利用されつつからかわれてるカンジですけどね。女の子の頼みなら断らないだろう、的な」

「……ごもっとも」

 冷静なエルの発言に、黎斗はぐうの音も出ない。

「……手を出したらスサノオにロリコン呼ばわりされるんだろうなぁ。手を出すつもりはないけどさ」

 美少女なんだから男の家に泊まらせるなよ、とも言いたくなったが千歳を越えている彼が十代の少女に手を出したらロリコン扱いされそうで怖い。

「全てはスサノオの手のひらの上、か。多分僕の精神年齢二十いってないと思うんだけどなぁ」

 黎斗の溜め息はエルの付けたニュース番組の声にかき消された。荷物がかさばるから、と主に置き去りにされた天叢雲劍が反射を受けてキラリと光る。笑われた、と彼は思った。
 
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