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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第二十一話  銀行強盗と御坂さん

 身体検査(システムスキャン)を終えて学校に戻ると、学校内ではまだシステムスキャンの真っ最中だった。まぁ、柵川中学には数百人という生徒が居て、それだけの人数を一斉に検査するわけだから簡単に終わるはずが無い。とはいえ、中には当然システムスキャンが終わっている人も居て、下校する生徒の姿もちらほら見られるといった状況である。

 俺はシステムスキャンの結果を報告するために職員室へ向かうと、大圄先生に書類を提出した。

「はい、確かに。ところで神代、お前、朝来たときは騎龍じゃなかったか?」

 先生は俺から書類を受け取ると、ぱらぱらと何枚かめくって簡単に中を確認している。そして、俺は朝学校に一度来てから研究所へ向かっているので、今の俺の姿についてそのまま先生から質問された。

「あー、システムスキャンに行った研究所で女のほうが良いって言われまして……」

 特に隠す必要がある話というわけでもないので、俺は普通に答えようとしたのだが、あの女性担当者のことが頭をよぎって歯切れの悪い答えかたになってしまった。

「そうか。しかし、良く女子制服持ってたな」

「いえ、それも全部研究所のほうが……っていうか、女性用の服が沢山用意されてて『好きなの選べ』ってな感じで、どうしてもウチに女性の状態でシステムスキャン受けさせたかったみたいでしたね」

 先生が感心したように聞いてきたので、その辺も少し説明しておく。

「なるほど。確かにお前さんは特殊な事例だからなー。まー、システムスキャンの時には向こうの要求に従ってもらうとしてだ。学校のほうは余りその姿で来てないようだけど、やっぱり女子になるのは抵抗あるのか?」

 先生も多少は興味があるのか、俺がそれほど女子にならないのを不思議に思っているようだ。

「え? いえ、別にそんなわけではないですけど……学校側はあまりこっちの姿になってほしくなさそうだったんで……」

 抵抗があるのかと聞かれれば、無くはないといったところか。少なくとも女性化経験が有る分だけ、もし他に女性化できるようになりましたという男子生徒が居たとしても、それに比べたら確実に俺のほうが抵抗は少ないはずだ。俺が余り姫羅にならないのは、学校側から言われている部分が大きいのである。

「そんなことは無いぞ。まー、入学式や卒業式、あとは始業式とか終業式でもだが、男女別で着席するような式典には男子で来てくれっていうだけだからな。さすがに男子が並んでる中に一人だけ女子っていうのはまずいだろう?」

「えーっ! そういう理由だったんですか!?」

 先生が説明してくれた学校側の理由に驚いた。なお、保護者が来ることもある入学式や卒業式などは分かるとして、始業式や終業式まで入っているのは報道関係が入ることが有るからだそうだ。

「そりゃあそうだろう」

「ま……まぁ、そういうことなら……もう少し女子で来る回数が増えるかも……」

 特に姫羅で学校へ来たいわけでもないのだが、これで今までよりも姫羅で登校しやすくなったのは確かだ。

「別に無理する必要は無いんだぞ?」

「はい、分かってます。それでは失礼します」

 先生が気遣ってくれるが、俺には余り必要ないものだったりする。

「はい、お疲れ。気を付けて帰れよー」

 こうして俺は職員室での用事を済ませ、下校することにしたのである。





 校舎から出る時、俺は生体データ識別能力で初春さんと佐天さんをサーチしてみたが、二人とも別々の場所ではあるもののまだ学校内に居るようだ。というわけで、初春さんのスカートめくりイベントは多分まだ発生していないのだろう。それを見るために学校に残るのもいいかもしれないが、イベントが発生するまでどのくらいの時間が掛かるのかも全く分からないのでそのまま学校を出ることにした。

 学校を出て向かった先はクレープ屋『るぶらん』がオープンするはずの場所である。クレープ屋のオープン情報は見つけられなかったが、出店位置は大体把握している。まず、銀行強盗に襲われるのが『いそべ銀行』という名前だったのを覚えていたので、場所を特定するのは簡単だった。いそべ銀行自体は学園都市内にいくつかの支店を持っているが、目の前に大きな広場があって第7学区かそれほど離れてない場所となると、ここしかないのである。

「今日オープンですー。よろしかったら是非いらして下さいー」

 広場の手前でクレープ屋のチラシを渡される。やはり今日、この場所で原作が開始されるのだろう。チラシに目をやりながら歩いていると、ふと気が付いた。

「ら……らぶるん!?」

 そう、チラシに表記してあった名前は『らぶるん』だったのだ。今までずっと俺は『るぶらん』で検索してきたわけだから当然引っかかるはずも無い。

 チラシを見ながら歩いていたのでいつの間にか広場を通り抜けてしまったが、振り返って広場を眺めてみるとクレープ屋の車が止まっているのが見えた。まだ開店準備中のようで、今はちょうど店員の人が看板を出しているところだ。

 俺は取り敢えず近くの自動販売機へ向かい柘榴コーラを購入し、広場のほうへ戻ってクレープ屋の車が見える位置のベンチに腰掛ける。

「それでは、今からオープンです」

 ゆっくり時間を掛けて飲んでいたので10分ぐらいは経っただろうか、柘榴コーラを飲み終わって空き缶を清掃ロボットの前に転がしたところで、クレープ屋が開店することを店員が呼びかけ始めた。もっと開店前から人が並んでいるのかと思っていたのだが、実際には店員が呼びかけてから数人が集まってきた程度でしかなかったのである。

 まだ昼食を取っていないので、昼食代わりにクレープでも食べようかと俺も並ぶ。俺の前には現在6人ほどが並んでいて、それより前に並んでいた数人には既にクレープが渡されていた。このペースで行くとすぐに俺の順番まで回ってくるだろうと思ったのだが、数個を同時に作っているだけでペースが速いわけではなかったようだ。

 並んでから5分とちょっとぐらいは待っただろうか、ごくオーソドックスなバナナ・チョコ・生クリームをベースに、イチゴとパイナップルのトッピングを選んでクレープとゲコ太ストラップを受け取る。確か白井さんが納豆とか入れてたはずだけど、トッピングメニューを見たらキムチや明太子といったものから、どうやって入れるのかが疑問な青汁まで色々おかしなものも並んでいた。流石学園都市だ。

 能力の使用はやはりエネルギー消費にも関係してくるのだろうか、クレープを食べ終わったものの、まだ物足りなかったのでもう一つ買おうと再び列に並ぶ。クレープ屋にはすでに10人以上が行列を作っていて、待ち時間は10分以上になるのだろう。

 列に並んでから少しして、広場の前の道路に黄色い大型観光バスが停車した。学園都市見学会のバスで間違いないだろう、小学生になる前ぐらいだと思われる子供が親と一緒にバスから降りているのが見える。

 学園都市見学会で来た子供達もこのクレープ屋に気付いたのか、何組かの親子がこの列の最後尾に並ぶと、行列の人数が30人ぐらいまで長くなってしまった。

「ご注文は何になさいますか?」

「えーっと、生クリーム・小倉に抹茶クリームと白玉でお願いします」

 俺の順番まで回って来たので注文をする。今回は少し和風にしてみた。今回は俺の4人前から俺の後ろまでが同時に注文を取られたので、6枚ぐらいは同時に焼いているのだろう。

「はい、生クリーム・小倉・抹茶クリーム・白玉です。それから、こちらもどうぞ」

 お金を払ってクレープとまたもやゲコ太ストラップを受け取る。ゲコ太ストラップは2個目だが貰ってもよかったのだろうか? とはいえ、すでに店員さんは俺の後ろの人のクレープのトッピングをしているのでこのまま貰っておこう。

 広場の中心付近のベンチはほぼ埋まってしまっていたので、俺は少し離れた場所にあるベンチに移動する。普通に座れば4人ぐらい座れるはずのベンチだが、離れた場所にあるからか、まだ俺以外の人が座りに来るという事は無いようだ。

「あー、神代さん!」

 クレープをそろそろ食べ終わろうかという頃になって声を掛けられる。この声は初春さんだろう。初春さん達が並んだら分かるようにとクレープ屋のほうばかりに気を取られていたのだが、初春さん達はちょうど反対の方向から来ていて全然気付かなかったのである。

「あ、初春さんに佐天さん」

 振り返るとそこには初春さんと佐天さん、そして御坂さんと白井さんが歩いてきている。

「おっ、もうクレープ食べてるんだ。にしても、今日って姫羅だったっけ?」

「いやー、研究所のほうからシステムスキャンは姫羅でやってくれって言われたからねー」

 あと一口で食べ終わるぐらいの大きさになったクレープを見つけた佐天さんが話しかけてくるが、気になるのはやはり俺の姿らしいので答えておく。

「じゃー、髪をおろしてるのも?」

「それは急だったから纏める物が無くてね」

 俺が姫羅の状態で居る時は基本的にポニーテールにしているので、やはりそこは気になったのだろう。

「初春さん達の友達?」

 俺が佐天さんと話している間に御坂さんは初春さんに聞いていた。

「はい、私や佐天さんと同じクラスの神代姫羅さんです。それから神代さん、こちらは常盤台中学の御坂美琴さんと白井黒子さんです」

「どうも、初めまして」

 初春さんが御坂さんたちに俺のことを紹介する。そして、俺に御坂さん達のことも紹介してくれたので挨拶をする。

「初めまして、よろしくね」

「よろしくですの」

「それで、初春さん達もクレープ?」

 挨拶を終えたところで俺は初春さんに聞いてみた。アニメ通りならこんなところで立ち話などせずにクレープ屋に並んでいたはずで、その状態でも佐天さんでゲコ太ストラップは最後の一個になってしまうのだ。ここで立ち話をして時間を使ったということは佐天さんが最後の一個を手にする可能性が低くなったということになるのではないだろうか。そうでなくても俺が既に二個手に入れているので、その時点で可能性がなくなっているかもしれないわけだが……。

「はい、そうなんです」

「じゃー、初春。神代さんと一緒にそのベンチを確保しといて。私たちはクレープ買ってくるから」

 初春さんが答えた直後、佐天さんが何かに気付いたようで急にその場を仕切ると、御坂さんの手を引いてクレープ屋に走りはじめた。

「お待ちくださいな。(わたくし)も参りますのー」

「初春はいつものでいいよねーっ?」

 ベンチの確保には俺もついているからなのか、白井さんは御坂さん達と一緒にクレープを買いに行ってしまった。そして、遠くから初春さんの注文を確認する佐天さんの声が聞こえたが、どう考えても初春さんの答えなんて聞いてないだろう。

「ところで神代さん。システムスキャン、どうでした?」

「能力開発直後の時よりも制御は上手くなった気がするけどねー。まー、レベル4はレベル4のままだよ」

 佐天さん達がクレープを買いに行って初春さんと二人きりになると、初春さんが話しかけてきた。システムスキャンの結果は初春さんも佐天さんもアニメと同じで、初春さんが言われたという担当の先生からの説教も俺の記憶とほぼ一緒だった。

 それからしばらく初春さんとおしゃべりをして、白井さんがジャッジメントのパートナーであることや、御坂さんがレベル5の第三位・超電磁砲(レールガン)であることなどを聞き出す。特に白井さんの話の時は郵便局強盗の事件で見ていたので、その話をしたら少し盛り上がってしまった。

 しばらく初春さんとおしゃべりしていたところで、広場のほうに強烈な負の感情を確認した。

「あれ、神代さん、どうかしました?」

 どうやら急に強烈な負の感情を感じたためか、俺は瞬間的に体を強張らせていたようで、初春さんが心配そうに聞いてきた。

「あ、いや、別になんでもない」

「そうですか。そう言えば、クレープ屋のほうの雰囲気が変じゃありませんか?」

 特に誤魔化すための嘘も思い浮かばなかったので言葉を濁して答えたのだが、初春さんはそれで納得してくれたようだ。そして、広場の異変にも気付いたようである。当然、この異変の中心人物はゲコ太ストラップを手に入れ損ねた御坂さんだろう。

「そうだねー、なんかどんよりしてるねー」

 負の感情を周囲に垂れ流しまくっている御坂さんを復活させるにはゲコ太ストラップが必須なのだが、佐天さんはストラップをちゃんと貰えているだろうか、もし貰えていなかったら俺の持っている分で何とかするしかないだろう。

「案外、御坂さんがクレープ屋のオープン記念マスコットを貰えなかったのかも知れませんねー」

 何気なく初春さんがつぶやく。俺としては初春さんの鋭さにかなり驚いたが、平静を装ってゲコ太ストラップを取り出す。

「御坂さんってコレが欲しかったの?」

「そうみたいです。神代さんは貰ったんですねー」

「うん」

 俺が答えたところで佐天さん達がクレープ屋のほうから帰ってくるのが見えたが、どうやら御坂さんは佐天さんと白井さんに手を引かれて歩いているように見える。この様子から考えると、佐天さんはストラップを貰えなかったのだろう。

 佐天さん達が戻ってきたところで俺はベンチを御坂さんに譲るために立ち上がった。一応、取り出していたストラップは既にポケットの中に入れてある。御坂さんは俺が座っていた場所に力なく座り、初春さんとは反対側に白井さんも座る。初春さんの隣にもう一人ぐらいは座れるスペースがあるのだが、佐天さんは初春さんの前に立ったままだ。

「はい、初春の分ね」

「ありがとうございます、佐天さん。ところで、御坂さんは……?」

「あ、いや……あははは……」

 初春さんは佐天さんからクレープを受け取り、御坂さんの様子についてたずねているあたり、自分の予想が当たっているとは思っていないようである。

「まったく、マスコットごときでみっともないですわ」

「うっさいわね! アンタに何が分かるのよっ!」

「あー、やっぱり。何となく分かりました。あははは……」

 白井さんと御坂さんのやり取りを見て、初春さんも自分の予想が当たったことには気付いたようだ。

「じゃー、それな……うゎっ!!」

「きゃぁっ!!」

 俺が御坂さんに渡すためにポケットからゲコ太ストラップを取り出そうとしたところで、銀行から爆発音が響き渡る。

「何? 何なの!?」

「初春っ! 至急ジャッジメントとアンチスキルに連絡。それから広場に居る人達の避難誘導をお願いしますわ!」

「はい、白井さんも気をつけて! ……こちらジャッジメント177支部、アンチスキルへ出動要請お願いします。場所は……」

 佐天さんが状況についていけずあたふたとしている中で、白井さんと初春さんはジャッジメントとして着実に仕事を始めていた。

「黒子っ!」

「お姉さま、これは私達ジャッジメントのお仕事ですの。クレープ屋のマスコットが貰えなくて憂さ晴らしをしたいお気持ちは分かりますが、おとなしくお待ちになっていてくださいな」

「なっ、私は別に憂さ晴らしとか……」

 御坂さんが声を掛けるが、白井さんに押し留められてしまう。

 白井さんが爆発のあった銀行の入り口付近に到着するとほぼ同時に、煙の中からいかにも銀行強盗ですといった風貌の三人組が現れる。ここからでは聞き取れないが、銀行強盗達が白井さんに何かを言っている。そして、一番太った一人が白井さんに飛び掛るが簡単に倒されてしまうあたり、全くアニメ通りの展開である。

「すごい」

「さすが黒子」

「おぉー」

 佐天さんは驚いた様子で、御坂さんは当然といった様子で、そして俺は感動でそれぞれ声を上げる。アニメで見た事のある場面とはいえ、やっぱり実際に見ると感動するものである。

「あれ、初春は?」

「広場のほうの誘導に行ったんじゃない?」

 いつの間にか初春さんが居ないことに気付いた佐天さんが俺に聞いてくるが、さっきの白井さんとのやり取りから考えても広場に居るのだろう。

「あ、あそこに居るわよ」

 俺と佐天さんで初春さんがどこに行ったか探そうとしたら、先に御坂さんが見つけて教えてくれた。どうやらアニメ通りに進んでいるようで、初春さんはバスガイドのお姉さんと言い争いをしている。

「どうしたの? 初春さん」

「はぁ、それが、この人が……」

 初春さんのところまで走って行き何があったかを聞いてみると、やはり男の子が一人居なくなってバスガイドさんが探していたようだ。

「それじゃー、手分けして探しましょうか」

「そうね、それが良いわね」

 俺が提案すると御坂さんも賛同してくれたので、そのまま全員で手分けして探すことになった。出来れば怪我をして欲しくないので佐天さんと一緒に行動したかったのだが、手分けして探すということなので一応佐天さんとは別行動を取ることになってしまう。俺が気配の探知能力で男の子を先に見つけ出せば何の問題も無いのかもしれないが、それをすることで男の子の代わりに佐天さんが人質にされてしまう可能性も考えられるし……、などと色々考えている内に結局アニメ通りの展開を迎えようとしていた。

「そっちはどう?」

「ううん、見つからないわ」

 バスの乗降口に居る御坂さんから聞かれて答える。その瞬間、俺はアニメの展開を思い出して佐天さんの姿を探す。すると、佐天さんは銀行強盗に腕をつかまれた男の子に向かって走り出したところだった。

「チッ!(ヘイスト)」

 舌打ちをしながら魔法を使い俺も走り出す。事前に犯人の逃走用の車が駐車してある位置は確認していたのだが、そっち側は取り敢えずバスから離れていて、更に爆発のあった銀行からも遠いということで、先にバスの付近から探すことになった為佐天さんの近くには居なかったのだ。

 銀行強盗に連れて行かれそうになっている男の子に佐天さんがしがみつく。

 佐天さんに気付いた銀行強盗が佐天さんを振りほどこうとする。

 その様子をスローモーションで見ながら俺は広場から生垣とガードレールを飛び越える。

「だめー!!」

 佐天さんは男の子を離すまいと必死になっている。

 銀行強盗が佐天さんを蹴るために片足を上げた。

「間に合えーっ!!」

 銀行強盗の足が佐天さんに向かって蹴り出される。

 俺はその銀行強盗の足に向かって飛び蹴りを喰らわせる。

「どぅわっ!? 何だお前は!?」

 俺の飛び蹴りは銀行強盗の足を捉え、銀行強盗は体勢を崩して倒れこんだ。そして、俺は銀行強盗と佐天さんの間に立って言い放つ。

「女の子の顔を蹴ろうなんて最低ね!」

「くっ」

 俺が言い終わるかどうかの時点で銀行強盗は急に立ち上がると、車に向かって猛ダッシュをして乗り込んだ。

「まったく……」

 そうつぶやくと俺は能力を使って車の後輪軸を持ち上げる。本来ならば前輪駆動の車だったはずなのだが、アニメでは後輪駆動として動いていたので後輪のほうを持ち上げたのだ。車の重量は、人や荷物を載せても1.5トン程度にしかならないはずで、エンジンなどの重量物が前側にあることから後輪軸が1トンを超えることも無く、俺の能力でも充分に持ち上げることが可能なのである。

 銀行強盗はエンジンを掛け車を発進させようとするが、俺が後輪軸を持ち上げていることでタイヤが空転し車が動き出すことは無かった。車の中で焦っているであろう銀行強盗の様子は俺から見えないが、通常ではまず聞くことの無いようなエンジン音から、銀行強盗が何度もアクセルを踏みつけていることが伺える。

 俺は演算を維持しながら車に近づいていき、運転席のドアの横に到着した。

「おいっ!」

 中の銀行強盗に向かって声をかけ、ドアの取っ手に手をかけようとしたその時だった。

「なっ!!」

 車がいきなり急発進したのである。

 どうやら俺の演算は目視している時点で正確に出来ていても、目を離すと微妙にずれが生じているようで、後輪が見えていた時にはちゃんと持ち上げることが出来ていたにもかかわらず、銀行強盗のほうに意識がいった瞬間から少しずつ下降していたらしい。結局、タイヤが軽く地面に接触し、車が少し前に進んだ時点で俺に再演算の対応が出来なかったため、車が急発進してしまったというわけである。

 俺と車の距離は恐らく30cmも無いくらいだったはずだが、車がまっすぐに進んだため俺は無傷で済んでいた。

 車はスピンターンで反転し、俺のほうに向いてエンジンをふかし始めた。このままだと俺の後ろに居る佐天さん達にも被害が及ぶので、俺は道路の真ん中まで歩く。後輪軸だけ持ち上げた時の感じから、車全体を瞬間的に持ち上げることは出来そうなので、車が突進してきた時に投げ飛ばすことを考えていたのだが……。

「ここは私に任せて」

 いつの間にか隣に御坂さんが立っていた。

「もう、お姉さまったら」

 白井さんのため息交じりの声が後ろから聞こえるが、それ以降はアニメと同じ展開で、俺達に向かって急発進してきた車に御坂さんが超電磁砲(レールガン)をぶっ放し、超電磁砲(レールガン)を喰らった車が俺と御坂さんの上を飛んで行き、白井さんの更に後方で墜落。これで犯人達は全員御用となったわけである。

 ついでに言うと、俺の位置からだと佐天さんと初春さんの「すごい……」というつぶやきは残念ながら聞こえなかった。
 
 

 
後書き
お読みいただいている皆様、お待たせしました、やっと原作突入です。
とか言いながら半分ぐらいまで原作キャラが出てこないとか……^^;
クレープ屋さんを見つけて購入する部分を書いている時に、原作突入できなくなるのではないかと焦って少し学校での先生とのやり取りを削ってみたりして調整し、アニメ・超電磁砲の一話の最後を次回に持ち越すことで調整しました。
なので、次回は短いかも^^;
 
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