占術師速水丈太郎 五つの港で
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第三章
第三章
一枚のカードだった。それは運命の輪であった。タロットカードの大アルカナのうちの一つである。
それを見たうえでだ。彼は述べた。
「わかりました」
「お受けして下さるのですね」
「はい」
こう答えるのであった。
「今それをお約束しましょう」
「有り難うございます、正直ですね」
「正直?」
「若し速水さんに断られたらです」
「どうされるおつもりだったのですか?」
「順番待ちでした」
それだというのである。
「どなたかが空くのを待つしかありませんでした」
「まるでタクシーですね」
「ですがそうするしかない状況でした」
官僚の言葉は切実だった。その言葉の色から今言っていることが本気だとわかった。
「本当に」
「そんなに大変なのですか」
「はい、とにかく人がいないのです」
それでお手上げといった様子であった。ジェスチャーこそなかったが。
「全く以ってです」
「宮内庁の方は」
「あそこはまた特別です」
こう言ってそれについては首を横に振るばかりであった。
「宮内庁は宮内庁で」
「お話ができませんか」
「あまりにも特別な場所ですから」
「防衛省からお話はできませんか」
「全くです」
その通りだというのである。
「できればそれに越したことはありませんがね」
「しかし無理だと」
「宮内庁の陰陽師はどなたもかなりのものです」
これは速水達にしかわからない話であった。そして決して公にはされない部類の話でもあった。そう、宮内庁の奥深くの話なのである。
「それこそあの方々なら」
「安倍の方々にしても賀茂の方々にしても」
「相当なものですので」
「しかし動けませんか」
「あの方々にはあの方々のされることがあります」
だからだというのである。
「ですから」
「こちらはこちらで、なのですね」
「そうです」
まさにその通りであった。速水の言う通りであった。
「それで速水さんにと思いまして」
「防衛省も大変ですね」
「大変なのは何処もですがね」
「こうした事件には何もできませんか」
「防衛省の相手は外敵です」
官僚は先程の話よりはおおっぴらに話せることを口にした。とはいってもこれもあまりおおっぴらには話せないことではあったが。
「それとテロリストですので」
「それも現実の世界の」
「そうです。ですからああした存在にはです」
「私達でなければ、なのですね」
「その通りです。それでなのですが」
「はい」
話が動いたのだった。
「それでまずは」
「まずは?」
「横須賀です」
最初の港はそこであった。
「そちらに行ってもらえるでしょうか」
「まずはあそこですか」
「はい、そしてです」
官僚はさらに言ってきた。
「移動の経費ですが」
「ええ、それは構いません」
速水はまた右目だけで笑って彼に返したのだった。
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