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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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時宮遭遇
  Trick47_早く!! 美雪お姉様!! 逃げて!!!



8月某日。長点上機学園において

「どうしたの、美雪。元気ないじゃない」

「そういうシノブちゃんだってテンション低いよ?」

「私がテンションが高かった事ってあったかしら? equal いつものこんな感じよ」

「アハハハハ・・・そうだね」

「何を悩んでいるか知らないけど、親友にくらい相談しなさいよ」

「うん・・・少し特殊な内容だから相談しづらいかも。

 そういうシノブちゃんだって、悩みがあるでしょ」

「私も特殊だから相談が難しいのよ。

 but お互いに相談できる心境になったら、必ず言ってね」

「・・・そうだね♪」

「それじゃ have a nice summer vacation」

「ん、良い夏休みを」




2才上の親友との短い会話を終え、一人で帰路の途中に美雪は後ろから声を掛けられた。

「あら、美雪お姉様。こんなところで会うなんて奇遇ですの」

「・・・・こんにちは白井さん」

声を掛けたのは風紀委員のパトロール途中であった白井黒子だった。

「ど、どうしましたの!? 元気がありませんが何がありましたの!?」

美雪は人見知りだが、知り合いの中では比較的明るい性格をしている。
同姓の目から見ても(白井の百合属性を差し引いても)和む明るさを持っていた。

それが今、全くと言っていいほどない。白井はその姿に本気で心配した。

「ちょっと疲れているだけだよ」

「(信乃さんが美雪お姉様と冷戦状態だと言ってましたが、
 お辛いのは信乃さんと同じですのね)

 美雪お姉様、よろしければわたくしに相談して頂けませんか?
 微力ながら解決のお手伝いが出来るかもしれません。

 それに話すだけでも楽になるとも言いますの」

「・・・うん、そうだね。

 気付いているとは思うけど原因は信乃なんだ」

それから美雪は信乃の怪我について話した。

幻想御手(レベルアッパー)の入院、白井達が知らない入院までには至らないが
それでも重傷といえる怪我を何度も負って帰ってきたことを。

始めは美雪も喜んで治療した。信乃の役に立てる事が嬉しかった。

だが、同時に最愛の人が傷ついて美雪も苦しさが溜まっていった。

そして今回の入院で我慢の限界がきた。

3日も眠り続けてようやく起きた信乃に美雪は怒鳴り泣きついた。

本当であれば今日も起きるのが精一杯な状態。
松葉杖なしでは絶対に歩けない体調だ。

「・・・・信乃さん、そういった様子は全く見せませんでしたのに」

「戯言遣い(うそつき)を自称してるからね。

 それに、信乃の問題は自分の体を気遣うことがない事なの。

 飛行機事故で自分だけ助かった。だから何時も無意識に、
 自分が生きていていいのか考えて、それが他人を
 思いやる気持ちと同時に捨て身の行動に繋がっている。

 昔から優しかったけど、自分が大怪我してでも
 助けようなんてしなかったはずなのに・・・」

飛行機事故により、助かったのが自分ひとりだけ。

これは≪サイバーズ・ギルド≫と呼ばれる心理状況だ。

戦争や災害、事故、事件、虐待などに遭いながら奇跡の生還を遂げた人が周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して感じる罪悪感。

信乃の勇気あると思える行動は、この罪悪感による重圧(プレッシャー)から引き起こされていた。

「ありがとう、白井さん。話したら随分楽になった」

「申し訳ありませんの。本当に話を聞くしかできず・・」

「謝らないで。本当に純粋に感謝しているから」

「・・・・わかりましたの」

自分が落ち込んでは美雪を余計に落ち込ませてしまう。
納得はしていないが、白井は美雪へと笑い返した。




「ちょっとすみません。あなた、風紀委員ですよね?

 道を聞きたいんだが」

美雪と白井か話していると声を掛けてきた男がいた。

「あ、はい。どうかなさいましたの? っ!?」

「ッ!?」

いつも通り風紀委員として困っている人を助ける、当たり前の気持ちで振り返った。

当たり前のことだった為、当然心構えもしていなかった。

だから振り向いた白井、美雪の2人は驚きのあまり息を飲むしかなかった。


顔の造りはこれといって特徴はない。

驚いたのは男があまりにも表情がなかったからだ。
無表情と呼ぶにしても何かが足りなさすぎる。
何が足りないかは分からないが、足りないものが人間として必要なものだと理屈抜きで解ってしまった。

「み、道ですか?どちらに行きたいのですの?」

長点上機学園(ながてんじょうきがくえん)

「「っ!?」」

男の目的地は美雪の学校だった

得体の知れない男が自分の関係ある場所に行く。
たったそれだけのことで、2人を体験したことのない悪寒が襲った。

「そそそれでしたらこの道をまっすぐ、
 そして突き当たりを右に曲がられたら・・・」

理性を総動員して答えたが男は聞いていなかった。

「・・・・」

ずっと美雪を見ていた。

ギッ

見つめられた美雪は我慢するように強く歯を噛みしめる。

「あの!? 聞いていますの!?」

美雪を庇うように男との間に白井は割って入った。

「うー、聞いていた。真っ直ぐ行って右だろ?」

「ええ。それで学校が見えますの」

「わかった。・・う~? 電話か」

男は白井にお礼も言わずに携帯電話に出た

「では私たちはこれで」

一応断りを入れてから離れていった。

「なんですのあの人は。

 言っては失礼ですが気持ち悪かったですの」

「うん、何だかよく解らない感じが嫌」

まだ近くにいる男に聞こえないように2人は小声で話した。

そう、まだ3人の距離は近かった。
だから普通の大きさで話している男の声が白井達には聞こえた。

「うー、連れて来ればいいんだな、時宮(ときのみや)

「「っ!?」」

はっきりと聞こえた電話先の人物名。

それは信乃が絶対に近付くなと警告した6人の内1人と同じだった。

偶然であると片付けるにしては珍しい名前。

それになにより、気味悪い男と警戒人物(ときのみや)が関係していると考えた方が納得がいく。

「美雪お姉様、行きましょうか。」

「う、うん」

男に背中を向けていたから驚いた表情は見られていないはずだ。
白井と美雪は逃げるようにして交差点を曲がり、男の視界から離れた。

そしてすぐに建物の影から覗いて男の様子を窺った。

「白井さん、今の人が言っていたのって・・・」

「美雪お姉様もお気付きの通り、信乃さんが言っていた注意人物ですの」

「・・だよね」

「わたくし、これからあの人の後を追ってみたいと思いますの」

「き、危険だよ! 信乃だって追ったりしたらダメだって言ってた!」

「ええ。ですが風紀委員として放ってはおけませんの」

「で、でも・・」

建物の影から男を見張ってると、歩き出したのが見えた。

「では行ってきますの」

「・・・・わかった。その代わり私も行く」

「!? 危険だと言ったのは美雪お姉様ですの!

 それをわかっててなぜ!?」

「私は知りたい。

 信乃が生きている世界がどうなっているのか、
 なぜそこまでして戦うのか、それを知りたい。

 ほら白井さん、早く追わないと見失っちゃうよ?」

「説得する時間はないようですのね。分かりましたの。

 ただし、わたくしの言うことを絶対に聞いていただきますの」

「うん」

「では、行きましょう」

風紀委員で学んだ尾行術を使い、気付かれないよう配慮して男を追った。


2人は気付くべきだった。

自分たちが向かっているのが死地だということに。









男が路地の奥へと進む。

その方向は男が向かうと言っていた長点上機学園(ながてんじょうきがくえん)とは全く違う。

白井と美雪はさらに警戒を強め、気付かれないように注意しながら男の後をつけた。


そして行き着いたのは路地の行き止まり。

男が電話していた事を考えると待ち合わせの可能性があるが、そこには誰もいなかった。

「連れてきたぞ、時宮(ときのみや)

「(ヒソ) 誰に話してますの。
 それに連れてきたって誰を・・・」

行き止まり、誰もいない。それにも関らず男を誰かに話しかけている。

「ご苦労だったな、視極(しごく)

「「!?」」

声は白井と美雪の後ろからだった。

反射的に前に逃げ、離れて振り返った。

視極(しごく)と呼ばれた男とは真逆の印象の男が君臨(・・)していた。

顔は誰もが美形と認める顔立ち。

だが優男のような弱々しさはない。

一言で表すならば“王”

圧倒的な存在感を放つ男が、否、圧倒的な存在そのものがいた。

「で、そいつがターゲットの女か?」

「ああ」

「連れてきたって、わたくしのことでしたの!?」

「当然だ」

肯定の言葉が後ろから聞こえた。

当初は長点上機学園(ながてんじょうきがくえん)に向かっていたのは嘘ではない。

だが目的があって向かっていたのであり、目的が移動、または目の前にいたら向かう必要はなくなる。

目の前の目的を路地(ここ)に連れてくるため、2人に聞こえる大きさで『時宮』のキーワードを出してわざと追跡させたのだった。

後ろからの声で反射的に時宮から離れたが、それが不味かった。

入ってしまったのは行き止まり路地。

時宮と視極の間、完全に挟まれた形となった。

「美雪お姉様! いったん逃げましょう!」

白井は美雪に手を伸ばす。

白井の能力は空間移動(テレポート)。能力を使い、この場を離脱しようと考えた。

だが届くことはなかった。

美雪が離れたわけでも白井が吹き飛ばされた訳でもない。
2人の間に邪魔な物体が割り込んできたわけでもない。


白井の伸ばす腕が急に動かなくなっていた。


「え・・・? な、なんですの体が!?」

「白井さん! どうしたの!?」

「体が急に動かなくなって!!」

「相変わらす見事な能力。さすがの死配(しはい)だな」

「君の前で支配なんて言葉、恐れ多くて使えないよ。

 俺はただの傷配人(しょうばいにん)だ」

そう言って路地の男、視極(しごく)と呼ばれた男は両腕を広げて大の字のポーズをとった。

同じように白井は持っていた鞄を離し、両腕を広げたの状態で動けないでいた。

「精神操作の能力!?

 ですがレベルが高くてもここまで短時間で前触れもなくできるなんて!!」

風紀委員としてある程度冷静で的確な答えを出した白井。

だが、それはあくまで科学の街での話だ。

「ふん、俺達が裏切り同盟と知っていて着けていた割には科学(のうりょく)
 物事を考えているとは、貴様馬鹿か?」

「う、裏切り同盟?」

「なんだ? 碧空(スカイ)の奴は言っていなかったのか?
 まさかお前、もしかしてただの科学(おもて)の人間か?」

「先程から何を訳の解らないことをいってますの!?」

「は、はははははは! これは愉快だ!

 たかが表の人間程度が俺達を着けてきた?
 身の程を知らない馬鹿はどこにでもいるものだな!」

「時宮。そろそろ目的を・・・」

「・・そうだな」

そう言って時宮は近付いてきた。

ゆっくりと。その遅い速度が2人の恐怖を加速させた。

「美雪お姉様 お逃げ下さい!目的はわたくしですから早く!!」

「身の程知らずの上に自意識過剰か。ここまで来るとウザいぞ、表の女」

「ど、どう言うことですの?・・・まさか!?」

目的は自分達にあることは間違いない。最初の会話で視極も認めた。

だが、白井(じぶん)ではない。
ならば残された答えは、子供でも分かる。

「俺達の目的はそこにいる長点上機学園(ながてんじょうきがくえん)1年特待生、西折美雪だ」

「「!?」」

白井の答えは完全に当っていた。

「美雪お姉様! 早くお逃げください!! 早く!!!」

「あっ・・・」

元々人付き合いが得意でない上に男性恐怖症の美雪には限界を超える恐怖だった。

恐怖で固まった体は思い通りに動くはずもなく、一歩下がるのがやっとだった。

「ふふふ、いい、すごくいい。恐怖に染まった顔。興奮する」

ジュルリ、と舌なめずりをしながら一歩、また一歩と近付いてくる時宮。

「いや・・や・・めて・・・来ないで」

「おいおい。何も命を取ろうとしている訳じゃないんだぞ?

 それなのに拒絶の言葉はひどいではないか?
 ショックで倒れてしまったら大変ではないか。
 
 だから  ダ ま レ   」

「「!?」」

時宮は美雪に触れてはいない。路地にいる視極も同じだ。

だか美雪が急に静かになった。恐怖の言葉も嗚咽も全く出さなくなった。

いや、正確には声が出せなくなった

操想術師(そうそうじゅつし)時宮(ときのみや)

以前にビックスパイダーの蛇谷を痛みも意志もない操り人形に変えたのは
この男、時宮(ときのみや) 時針(じしん)であった。

その能力は簡単に説明をすると視角を使い、恐怖を司る催眠術。

だか根本的な正体は不明。科学(ちょうのうりょく)でもなく、魔術でもない未知の力。

美雪の声は一瞬で封じられた。

「美雪お姉様! 早く逃げ・・・ど、どうなさいまし・・・たの!?」

白井が見たのは自分の喉を押さえて必死の顔で口を開閉している美雪の姿。

「どうなさいましたの、だと? まさか解らないとでも言うつもりか?
 これだから表の人間は・・・」

心底呆れた、心情を全く隠す気のない顔で時宮は白井を見た。

「まあ、どうでもいい。ターゲットはそこの女だ。
 誘拐、最低でもしばらくは能力を使えない状態にすればよかったよな?」

「うー。だだし殺すことや大怪我はだめだぞ?
 学園都市から注目されている人間だからやりすぎてはいけない。

 学園都市が本格的に動く理由を作ってはいけない。

 奇野の対策のため、しばらくの間動けない状態であれば問題ない」

美雪の能力値は高くない、たかがレベル3程度だ。

しかし学園都市からは重要視されていた。

その理由は美雪の薬剤師としての能力の高さが大きく評価されていたからだ。

昨年発表された新薬の内、50%は美雪が開発に携わっており、個人研究では能力開発の際に投与する薬を、従来の1.5倍の確率で能力を発動させるものがあった。

それほどの人物を学園都市が注目しないはずがない。誘拐などでも大騒ぎになるだろうが、死亡や大怪我などの事件が発生したら大規模な力で犯人を潰すだろう。

時宮たちはそれを警戒していた。しかしそれでも裏の世界の人間。誘拐でも躊躇無く実行してきた。

「ふむ。殺し、大怪我を避ければいいのだな? ならば少々遊ぶのは問題なかろう。

 “奴”の関係者だからな」

空気が凍るような一言だった。

遊ぶ。その意味を視極を含め、白井と美雪も分かってしまった。

世間一般的に言う遊びでは絶対に違う。

人間をおもちゃにした遊びだ。

それが性的なことなのか、暴力的なことかまでは分からない。
だが、非人道的であることは間違いなかった。


「早く!! 美雪お姉様!! 逃げて!!!」

「うるさい表の女。視極、黙らせろ」

「うー、まったく君は好きだね・・・」

視極はため息をつきながらも行動に移った。

右手の拳を握り、思い切り、躊躇無く、遠慮無く、淀み無く、“自分”の喉を殴った。

そして

そして傷配人(しょうばいにん)の配下にある白井の体も同じ動きをした。右手の拳を握り、思い切り、躊躇無く、遠慮無く、淀み無く、自分の喉を殴る。

「か、はっ」

あまりの出来事に起きく目を見開いた白井だが、声は出せなかった。美雪と同じように、声を封じられた。

痙攣して足に力が入っていないように震えるが、それでも白井は傷配人の配下にある限り倒れることすら許されずに立ち続けさせられた。

「ふむ。これで静かに楽しめる。

 西折美雪、君は知っているかな?

 人は目が見えないだけで恐怖が数倍に増す。
 そして視覚以外の感覚が鋭くなり、痛みをより強く感じるんだ。

 こんな風に、な」

目の前の位置にまできた時の宮は、右手の人差し指と中指を、美雪の両目に近づける。


「   ミ る ナ   」


宣言した。

指で目潰しをしたわけではない。

だが美雪の目は声と同じく役割を果たせなくなった

理解不能の能力。許容量を越えた恐怖は、彼女の心を壊し始めた。

「時宮、さすがそれはやりすぎじゃない?」

「気にするな、“奴”には苦汁を舐めさせられているんだ。これぐらいは許される」

そして美雪の首筋に触れ、爪先をゆっくりと皮膚へと喰い込ませる。

皮膚が破けるか、ギリギリの力加減で徐々に強くしていく。

「時宮、視極、いいかげんにしろ」

と、そんな時宮を止める声が聞こえた。

視極ではない。
そんな声に姿は見えず、どこからともなく届く。

「なんだおまえも邪魔をするのか、拭森(ぬくもり)

「遊びの時間はここまでだ。結果的に視力を奪ったのだから目的は達成だろう。

 それよりも“奴”が来るぞ。

 “弐栞”が来るぞ」



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。

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