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占術師速水丈太郎 五つの港で

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第二十九章


第二十九章

「ここは我が国にとって極めて重要な場所であります」
「国防上ですね」
「そうです」
「そうですね」
 速水は前を進みながら周囲を見回した。見れば海はリアス式に緑豊かな山に覆われて複雑な地形になっている。まさに守るに易く攻めるに難い、そうした場所であった。
 そうした意味ではかなり確かな場所であった。その場所を見回りながら速水は後藤に対してさらに言葉を続けたのである。
「ここは確かに」
「寒く雪や雨は多いですが」
「雨もですか」
「不思議な場所でして」
 後藤は舞鶴をこう表現した。不思議な場所であるとだ。
「何か大事なことをする時にこそ雨が降るのです」
「大事なことをですか」
「そうして作業をする者達を困らせます」
 いささか苦笑が入った言葉だった。
「本当にです」
「本当にですか」
「はい、そうです」
 まさにそうだと速水に説明するのだった。
「まことに不思議なことにです」
「余計な時に雨が降り降って欲しい時に降らない」
「どう思われますか?」
「巡り合わせですね」
 こう述べた速水だった。それについてはだ。
「人はまだ天候を支配することはできません」
「それはそうですね」
「そう下意味でまだそうしたものに振り回されています」
 さらに表現を続けていく。
「人ならざる自然の力にです」
「結局はそういう存在ですね。所詮は」
「そうですね。しかし」
「しかし?」
「今度の事件はです」
 話は事件に関するものに移った。
「またかなり奇怪な事件なのです」
「奇怪ですか」
「速水丈太郎さんですね」
 後藤は彼の方を振り向いてその名前を問うてきた。
「そうですね」
「はい、そうです」
 名前についてはそのまま答えた。
「速水と申します」
「職業は探偵でしたね」
「その通りです」
 このことは真実ではなかった。占い師であり本職とは別にこうした怪奇事件の捜査及び解決を請け負っていることはあえて言わないのであった。
 そうしてである。そのことを隠しながらさらに言うのであった。
「それはです」
「そうでしたね。探偵さんなら」
「探偵なら」
「どう思われるでしょうか」
 事前にこう前置きしたうえでの言葉であった。
「人がです」
「人が」
「袈裟斬りに近い形で引き千切られている事件については」
「袈裟斬りですか」
「しかも引き千切ってです」
 言葉にこうした条件が加えられる。
「奇怪な事件だと思われますか」
「人をそういう風に引き千切るとなるとです」
 速水はこのことから話した。
「異常な、そうですね」
「人間の力では無理ですね」
「絶対に無理です」
 これは断言であった。言うまでもなかった。
 
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