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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第一章   [ 胎 動 ]
  十一話 崩壊の足音…

 月の新帝都。
 そこにある建物の一室で永琳は資料の整理をしていた。移住そのものは順調に進み、新帝都の調整にも問題は起こっていない。報告では例の妖怪を封印する事に成功したと聞いている。これでもう何も心配する事もなくお兄様を待つことが出来る。
 永琳はまだ地上にいる虚空に思いを馳せた。もう少しで今までのような新しい生活が始まる。この新帝都なら妖怪の脅威は無い。そうすればお兄様が危険な目に会うことも無い。
 折角庵さんに頼んで守備隊への入隊を遅らせてもらっていたのに結局間に合わなかった。
 でもあと少し、あと少しよ。永琳は祈るように心の中でそう繰り返した。





□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■





 光を感じ僕は目を開けた。最初に見えたのは、

「…知らない天井だ」

「…何言ってんだお前?」

 そんなツッコミしてきたのは隣のベットで寝ていた紅だった。

「とりあえずおはよう。…どういう事?」

 紅に状況の説明を求める。

「あ~、お前倒れた、そのまま病院搬送、俺帰ってから病院搬送、そして『アレ』もついでに搬送、そして絶賛ウザイ空気放出中……以上」

 紅が指差した先には確かにウザイ空気放出中の庵さんがいた。

「えーと、おはようございます。庵さん」

「……………」

 返事がない。ただの屍の様だ。なんて事は無くなんかブツブツ言っている。なんとなく何を言っているのか解ってしまった。

「ねぇ紅、あれってもしかして…」

「あぁ多分想像通りだと思うぞ…」

 正直ウザイのではっきり言わせてもらう。

「庵さん、奥さんや娘さんが見舞いに来ないからってウジウジしないでくださいよ。鬱陶しい」

 そう言い放つ僕に庵さんが鬼の様な形相で咆哮した。

「テメー!!この状況で愛しの嫁さんやマイエンジェル達に会えないって事がどんだけ辛い事か分からねーのか!!!!!!」

 建物を揺るがす程の大音量が迸る。この人入院する必要ないでしょ。

「テメー等もな嫁さん貰って子供ができりゃ俺の今の気持ちが理解できる筈だ!!!」

「…言いたい事は分かりました。でもご家族はもう月ですよ。諦めてください」

 庵さんの奥さんも少し前に月に上がっていた。

「そぉっすよ、しっかりしてくださいよ」

「はぁ、いっそ残りの仕事全部迦具土に押し付けて月に行くか?」

 そんな事をほざく庵さんに紅のツッコミが入る。

「いやさすがに洒落になんねーよ」

 紅の言うとおり洒落にならない。迦具土さんは今防衛任務のすべてを任されている。実戦経験不足の守護団と守備隊の渡し役もしているのでかなり大変らしい。そこでこの人まで居なくなったら死ぬな。間違いなく。
 『守護団 総団長まさかの過労死!犯人はあいつだ!<錦月 庵>』帝都最後のビッグニュースになるな。

「まぁ冗談だが」

(( 本当かなー? ))

 僕達がそんな疑問を浮かべていると扉をノックする音が聞こえた。

「ん~どこのどいつだ?」

 庵さんがそんな風に声を掛ける。そして部屋に入ってきたのは予想外の人物だった。

「失礼するよ」

「「 !?!?劉禅様!?!?! 」」

 庵さんと紅は劉禅さんの姿を見た瞬間にベットから飛び起き敬礼する。

「あ、おはようございます。劉禅さん」

 僕はそのままの状態で普通に挨拶をする。それを見て二人が、

「「 ちょっ!おまっ!何普通にしてんだ! 」」

「いや、構わんよ。それに君達もベットに戻りなさい。怪我人なのだから」

「いえ、しかし…」

 劉禅さんの言葉に多少抵抗があった二人だが渋々ベットに腰掛ける。

「突然すまんな。あまり時間が取れずに急な訪問になってしまった」

「そんな事はありません。しかし劉禅様自らどうなさいました?」

 庵さんがそんな疑問を口にする。劉禅さん自身かなり忙しい身のはずだ意味も無くここに来る筈も無い。

「今回の戦いの功労者達に一言でも礼が言いたくてな」

「そんな礼だなんてとんでもないです!」

「そうです、我々はただ己の職務を全うしただけです。礼を頂くような事はしておりません!」

「そうですよ。お礼ならお菓子のほうがいいです」

「「 お前何言ってんの!?空気読めよ!? 」」

 何故か二人に怒られた。

「ははは!そうだな、確かに見舞いに菓子を持ってくるべきだった」

「申し訳ありません劉禅様!この馬鹿の言った事は無視してください!」

「馬鹿って非道いな」

「「 黙れ!! 」」

「まぁまぁ、私は気にしていなよ。それより傷の方は大丈夫かね?」

「はい、大丈夫ですよ。もしかしたら輝夜が貸してくれたお守りのおかげかもですね?」

「輝夜のお守り?」

「これです。後で絶対返せって脅されてるんです」

 そう言って劉禅さんに輝夜から預かったペンダントを手渡す。

「…なるほど」

 劉禅さんは一言呟き僕にペンダントを返すと、

「無事に月に着いたら返してやってくれ。それは妻の形見であの子が肌身離さず持ち歩いていた物なんだ」

 輝夜にとってかなり大事な物だったのか。無くしたりしたら大目玉だな。

「分かりました」

 僕の返事に小さく頷くと劉禅さんが庵さんに、

「錦月君。移住完了までもう暫く掛かる。君達には悪いと思っているが君達に頼るしかないのだ。最後まで帝都を守ってくれ」

 劉禅さんはそう言って僕達に頭を下げる。

「劉禅様、先ほども言った様にそれが我々の成すべき事です。頭など下げないでください」

「本当にすまんな」

「劉禅さんそんなに気にしないでください。お礼ならお菓子で」

「「 いい加減にしろ!! 」」

 部屋に二人の怒声が轟いた。


 ・

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「実は君達に言っておかねばならない事がある」

 劉禅さんが少し困った様な顔でそう言い出す。

「なんでしょうか?」

「これから言う事は他の者には内密に頼む。杞憂かも知れんのでな」

「解りました」

「実はな……」



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 穏やかに日々は過ぎて言った。シャトルは順調に帝都の民を月へと送り続けている。事の元凶にして最大の脅威が居なくなった事で人々には余裕が戻っていた。このまま何事も無く計画は完了すると思われた。
 最初は小さな変化だった。その後もほんの少しずつの変化だった。
 帝都に対しての妖怪の襲撃。今までも散発的には在ったが数えるほどだった。日が進むにつれ少しずつ襲撃は増えていった。それでも紅髪に比べれば大した事の無い脅威。
 だが計画完了まであと3日まで迫った時、予想外の事態が帝都を襲う。大量の妖怪による襲撃。組織的なのか本能的なのかどうかは解らないが徒党を組むようにして帝都に襲い掛かって来た。
 それにより守備隊と守護団の混成部隊は未だかつて無い大規模な防衛戦を強いられる事となった。戦線は徐々に妖怪に押され帝都を守る外壁近くにまで迫った。もはや背水の陣の如き戦いは昼夜問わず続き遂に計画最終日を迎えた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 一閃。目の前の妖怪が塵になって消えていく。もう何匹目かも憶えていない。倒しても倒してもキリが無い。一体どれ位の妖怪がここに集まって来ているのか?考えても仕方ないか。
 後1時間程で最後のシャトルが出せるらしい。本当にあと少しなんだ。なんとしても守り抜く。3日間の防衛戦で隊員の体力的、精神的疲労は限界に近かった。
 特に実戦経験が無い守護団の隊員達の消耗は目に見えて濃い。僕達を支えているのは本当に“あと少し”という希望だけだ。

「うわあああああ!」

 誰かの悲鳴で振り返ると隊員の一人が百足の様な妖怪に襲われていた。咄嗟に僕は百足妖怪に霊弾を放つ。霊弾は百足妖怪の頭に直撃しその隙に襲われていた隊員は援護に来た他の隊員が助け出す。

「今だ!撃て!」

 この部隊の分隊長の号令で百足妖怪に一斉射撃が放たれ、無数の銃弾を受け塵となって消えていく。

「大丈夫か?」

「あ、ああ、すまん。助かった…」

 そんな会話が聞こえる。どうやら怪我は無いらしい。だけどこのままじゃ妖怪に包囲されるかもしれない。

「分隊長どうします?本部に連絡を取って他の部隊と合流しますか?」

 そんな進言を分隊長に伝える。

「そうだな…確かにこのままでは包囲されるのも時間の問題か。よし本部に連絡を取るか」

 そう言い通信をしようとしたその時、戦場に轟音が響き渡る。その轟音に戦場にいた全ての人間と妖怪が動きを止める。音の発生源を探そうとして周りを見渡した僕はある一点に目を奪われた。
 巨大な土煙が空に向かって上がっていた。問題はその場所だった。記憶に間違いが無ければあそこはあいつを封じた場所だ。つまり状況から考えてあの土煙と轟音は……。
 おそらく僕以外の隊員達も同じ答えに辿りついたはずだ。僕の脳裏にいつかの庵さんの言葉がよぎる。『この世は理不尽』まさにそうだ。本当にあと少しなのに、周りからそんな嘆きが聞こえてくる
 そして僕達に再び脅威が降り掛かる。
 
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