ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
―Last Battle ―亡国の王女
前書き
二話になりましたw
扉の向こうは大きな広間だった。真紅の床に壁は暗色の地味な色。廊下とは打って変わってどこか上品な赴きがある。
奥行き50m、その先には大きな階段があり、その最上段には黄金の玉座。そこに足を君で座るのは金髪ブロンドのゴスロリ少女。クセっ毛なのかウェーブのかかったその毛を手で弄び、こちらに向かって獰猛な笑みを浮かべている。
瞳は血のような真紅で右目には黒い眼帯。怪しくも美しい、だが、とてつもなく『黒い』その存在に俺は全身が強ばった。
「まずは、『ようこそ』とでも言っておこうか。ゴミ虫共」
少女の成りにしては低い声で辛辣なセリフを言い放った《魔女》はスッ、と立ち上がるとゆっくりと階段を降りてくる。
「応えなくて良い。お前達にあたしは少し、『強すぎる』……動けるはずがない」
仮に、動けたとしても俺は言い返せないだろう。自分で言うのも何だが、俺は相手の力量を見抜くだけの眼力はあると自負している。それに依れば、勝てる見込みはまず無い。
他3人が何を思っているかは推し量れないが、これだけは分かる。圧倒的なまでの力の差、この世界に来たばかりの俺達とそこで襲ってきた怪獣共の戦力差より明確な『存在自体の敗北』……とでも表現しようか。その位の差があった。
「とは言っても自分達を卑下することはない。あたしが異世界から引きずってきた魔獣共を弱らせたとはいえ単騎で撃破するとは中々やるものだ、と思っている。素直に称賛しよう」
階段を降りきり、その場で腕組をした小柄な少女は不敵に笑って言い放った。
「アカシック・レコードを渡せ。お前達とその関連事項の『時』と『場所』に関する記録を書き換えてやろう。元の、正しい状態にな」
「…………解せないな」
俺はようやく動かせた右手を振ってヒースクリフから渡された歯車を取り出し、魔女に投げる。
「ふふ。何が解らないんだ?坊や」
魔女はそれには触れずに手を軽く振って軌道を変えると、(今気がついたが)天井の巨大時計の真ん中にそれを填めた。
「この塔に至るまでの妨害、何よりお前の敵であるはずのヒースクリフの知り合いだぞ、俺達は」
この場の雰囲気に慣れてきたのか、徐々に動かせる部位が増えてきている。リン、レン、ゲツガもゆっくりとだが、調子が戻ってきたようだ。
「ヒースクリフ……。ああ、《魔王》か。『ムッツリ』とか『おまえ』とかしか呼んでないから分からなかったわ。そうねぇ……まず、あたしとあいつは敵対している訳じゃあなくて基本的に相互不干渉よ。だから、お前達が過去に帰りたい、という事で来たのなら必要以上に妨害はしない。要はあたしをどれだけ楽しませられたかが重要だ」
「……ふん。暇潰しか」
気に入らなかったのか、リンが少しイラついた声を出す。飛び掛かっていかないか不安だが、リンの性格からして無計な事はするはずが無い。
「そうさ。何せこっちは何百年と暇なんでね。三界は今や廃れ、あたしみたいな上位種以外の弱小生物共と『世界』は呪われた。永遠の停滞から抜け出そう何て言う輩もようやく出てきたがまだ青い。……っと、関係ないな、これは。……ともかくだ、何の刺激も無いと気が狂って暴走しかねない。少し、付き合って貰おうか」
「「「「…………!?」」」」
魔女が僅かに宙に浮かぶと手に刀身の幅がやけに広い紺色の両刃直剣を取り出した。それを振りかぶって何もない空を切り裂く―――、
「…………ぇ」
「…………ッ!!」
暗黒色の飛んだ斬撃の狙いはレン。まだ本調子ではレンに向かって駆け、突き飛ばす。
―ギャリンッ!!
「ぐぅ……ッ」
とんでもない衝撃が剣ごと体を後方の壁まで吹き飛ばした。壁に半ば埋まるようにして停止した体はあちこち痛み、HPが一気に8割りを切った。
「レイにーちゃん!」
「……大、丈夫だ。余所見するな、次来るぞ」
そう言った瞬間、紺色の剣から第二の斬波が放たれる。次の狙いは、俺だ。
「レイ!!」
ゲツガか、リンの叫び声が聞こえる。それすらも判別出来ないほど弱った体を無理やり動かし、いつの間にか左手に逆手で持った白い大太刀を振るった。
―ギャリンッ!!
押し返される大太刀に紅蓮の大太刀を重ね、思いっきり斜め上へかち上げる。そして―――、
「茶番は止せ」
左の大太刀で思いっきり床を突き刺した。
―ピシッ……パリン……
床のひびが広がり何もない宙まで達すると、ガラスの割れるような音と共に部屋が砕けた。
「「「…………っ!?」」」
「……へぇ?」
驚くリン、レン、ゲツガと未だ玉座の上に座り、面白いおもちゃを見つけたような表情をする《魔女》。ドードーによる『在る幻』が砕かれ、ようやく本当の意味で魔女と対面したのだ。
『ほぉら言ったでしょ、アリス様。すぐバレちゃうって』
「煩いぞ、馬鹿鳥のくせして。……ああもう、いい。去れ」
魔女が煩わしげに手を振ると、部屋にあった重圧がフッ、と消える。……さっきの瞬殺されたドードーは幻体だったんだな。あまりに弱すぎた。
「―――さて、同じ手は効かないんだったな?小僧」
「……ふん」
意地の悪いにやにや笑いを浮かべながら魔女――アリスはレンの言ったことを繰り返す。
「大丈夫か?レイ」
リンがいつの間にか目の前に来ていて埋まっている壁から抜け出すのを手伝ってくれる。
自分の足で立とうとしてグラッとふらついたところを支えられ、そのまま無言で地面に座らせられた。
「……すまん」
「気にするな。まだ地上に居たとき、何度も助けてくれただろ」
「……そ……あ、いや。当たり前だろ、あれは」
一瞬、そうだっけ?と言いそうになるが、そう言えばそんな事もあったかと思い起こす。戦いにおいて貸しは忘れても恩は忘れるな、という何代か前の御当主が残した格言をやたら現当主である祖父が用いるので気にもしていなかった。
「……なら、俺も当たり前の事をしただけだ」
「……そっか」
一番無愛想に見えるが、実は一番仲間思いなのはリンなのかもしれない。最初の頃は(特に)俺を警戒してた感があったが、二層の階段前で俺の不注意を諫めてくれたのはリンだ。結果的に大した事は無かったが、俺の不注意はリンや他の仲間も巻き込んだかもしれないのだ。
そんなリンにこれ以上迷惑を掛けるのは良いことではないが、今動ける中で一番冷静で頭が回るのはリンだろう。だから、あえて頼む。
「……リン、3分で回復する。そうしたら、俺はユニークスキルを使う。それまで、頼めるか?」
「余裕だ。が、そっちに余波行ったら自分で何とかしてくれ」
「お、おう……」
俺の微妙な返事を聞くと、リンは前線へ戻っていった。
______________________________________________
前線では階段上から魔女が俺達を睥睨していた。
「待たせたな」
「レイにーちゃん大丈夫?」
「多分軽い脳震盪か、三半規管にダメージ。だが、本人曰く3分で回復するそうだ」
「……無理じゃないか?」
「さあ?気合いだろ、そこは」
「「えー……」」
ここへ来てまさかの気合いだろ発言。存外、彼も適当なのかもしれない。
「はあ……1人脱落か。まあいい。時回廊と時空記録の同調率を上げるには激しい感情の力が不可欠たが……3人でも4人分位は何とかいけるか」
何やら訳の分からない事をブツブツと言った後に金髪ウェーブを肩の後ろに払うと、本物の重圧を放ち始める。
「…………っ!!」
ギリッと歯を喰い縛ってそれに耐え、得物を構える。
両隣でレンとゲツガが臨戦態勢に入り、準備が整ったのを確認し、目線で合図。
直後、普段の彼に似つかわしく無く、低姿勢で階段を滑るように駆け出した。
「ははは!猛るな猛るな。勢い余って殺してしまうぞ。……だが、それもいいな」
魔女はさっきの幻体と同じく紺色の剣を取り出すと、リンと斬り結んだ。暫しの拮抗の後、軽々と吹っ飛ばされたリン、いや、まるで世界に向かって宣言するかのように魔女は言い放った。
「良いだろう。少し相手してやる。《第4世界アルクトスの王女》にして《夢幻世界の創造主》、《永遠の魔女》アリス=リデル。貴様等の儚い生き様、見せてみろ!」
大きなこの部屋の大気を丸ごと揺らして響いた声の残響が消えた時、宙に居たリンが足元に待っていた感触があった。
「……っ!!」
キリキリと引き絞られる、ワイヤーを足掛かりにソードスキル発動。ドンッ!!空気を破裂させ、リンが流星となって魔女、アリスに迫る。
二刀流単発重突進ソードスキル《メテオライン》
「……はっ!!」
ギィン!!
嘲笑うようにアリスは見向きもせずにリンをあしらう。部屋の奥に(玉座の後ろ)弾かれたリンは宙でジャンプしてアリスの頭上から再び強襲する。
ギィン!!
「ちっ……!」
アリスはそれを再び迎撃するが、重力と体重差の関係で膝を多少折ることになる。そこへ―――、
「せぁぁぁっ!!」
気合い、威力十分なゲツガの横薙ぎが右側面から襲いかかる。アリスはもう一本紺色の剣を生成し、それを受けた。
「……っ!!」
異常な程重い攻撃2つを何とか耐えきり、体を回転させて2人を薙ぎ払う。今度はリンも跳ね返って来たりせずに2人とも階段の中腹に突き落とした。しかし、
バシュッ!!
両肩から迸った鮮血に狼狽し、咄嗟に身を引くと、今度は背に薄い切り傷が付いた。
「動かない方がいいよ~?僕はあんまりこうゆう使い方しないけど、ワイヤーって本来は罠に用いる武器だから」
目を凝らせば、大部屋一帯にアリスを中心としてワイヤーが張り巡らされていた。ワイヤーには薄い黄色のオーラが付与されており、見えにくい。
「リンにーちゃんやゲツガにーちゃんが当たっても大丈夫なように普段とは真逆、《切れない》ように心意加工したワイヤーといつものやつ。……一度に2つって難しいけど、出来なくはなかったね。―魔女狩饗宴―」
これに囚われた者は絶対の切断力を付与されたワイヤーのために動けなくなり、切れないワイヤーを使って縦横無尽に動き回る敵に切り刻まれるだけ。贄となった《魔女》は藻屑となり果てて行く。
レイがリンとレンに出来るか聞いたのはこれだ。
リン、ゲツガが起き上がり、切れるワイヤーを避けながらアリスに向かって行く。
ちなみに、この連携に即興で付いてこれるゲツガも中々すごい。
迂闊に動けなくなった彼女は諦めたように目を閉じ―――開いた。
「なら、触れなければ良いのだろう?」
無造作に掲げられた右手に漆黒の何かが渦巻き、彼女を中心にありとあらゆるものが吹き飛んだ。
「くっ!?」「うわっ!?」
もっとも近くに居たリンとゲツガが部屋の両脇まで吹き飛び、さっきのレイのように壁にめり込む。だけでなく、そのまま地面に落下して大ダメージを食らった。
「……ッ、この!!」
ワイヤーを一旦回収し、再び射出。今度は漆黒のオーラをまとったワイヤーがアリスの頭上から迫る。
弾こうとしたのか、アリスは剣を一本それに向かって投げるが、剣は抵抗なく切り裂かれた。
《攻撃拡張心意技》―魔女狩断罪―
万物を問答無用でぶった斬る理不尽な刃がアリスに届く―――寸前で弾かれた。
「……な!?」
「条理を上書きし、不可能を可能とする……そんなもの、同じ力で相殺してしまえばいい」
「そんな……。この、短時間で!?」
「まあ、中々難しくはあるが……魔力も切り裂かれるんじゃあ仕方ないな」
アリスが掲げた右手を振り下ろすと同時にレンは地面に叩き伏せられた。
(……いい暇潰し―――というか、予想外に手こずったな。……全く、平和ボケとは恐ろしい病気――――ッ!?)
不意に背後に巨大な存在を感知、コンマ数秒で剣を生成し、降ってきた衝撃を受け止めた。
ページ上へ戻る