占術師速水丈太郎 五つの港で
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第十九章
第十九章
「それは」
「そうですか。それではですが」
「はい」
「宿泊場所です」
今度はこのことを言ってきたのである。
「それですが」
「ああ、そうですね」
言われてそのことを思い出した。
「それですが」
「こちらです。第一術科学校の方に用意してあります」
「そちらですか」
「はい。あとですが」
ここでこの一尉はにんまりとしてきて。そのうえで言ってきたのであった。
「私の名前ですが」
「あっ、そうですね」
そのことを言われてふと気付いた速水だった。まだ彼の名前を聞いていなかったのである。
「貴方のお名前は」
「細木といいます」
微笑んで敬礼と共に名乗ってきた。それは狭い、腕を閉じた敬礼である。所謂海軍式の敬礼である。それをしてみせてきたのである。
「細木祐輔といいます。階級はです」
「一等海尉ですね」
「もうおわかりなのですね」
「わかるようになりました」
微笑んで返す速水だった。とはいっても顔の右半分と口元だけである。左目は相変わらずその黒髪によって完全に隠れてしまっている。
「それもまた」
「左様ですか」
「腕の金モールで、ですね」
「はい、これですが」
細木もその金モールを見せて話すのだった。見ればそれは太い二本のラインである。それが黒い制服の袖のところに巻かれる様にして存在しているのだ。
それでわかったのである。そのことを細木に話したというわけである。
「これですぐにわかるようになっています」
「すぐにわかりますね」
「これこそ海上自衛隊の幹部自衛官の証です」
まさにそうだというのである。細木もだ。
「いい色だと思われますか?」
「そうですね。黒に金というのはです」
「よく映えますね」
「その通りです。それではですね」
「はい」
「御案内致します」
細木はこれで話を切り上げてきたのであった。この辺りの話の仕切り方は流石人を指揮する立場である幹部、普通の軍で言えば将校にあたるものであった。
「その部屋に」
「有り難うございます、それでは」
「実は私はですね」
「貴方は?」
「今第一術科学校で教官をしていまして」
それが今の彼の役職だというのである。自衛隊では役職が常に存在しているのである。それがかなりはっきりとするのが幹部自衛官なのである。
「それでそちらに用意させてもらいましたので」
「どうもすいません」
「幹部候補生学校の方も提案されたのですが」
これは内幕であった。
「ですが。結果としてこちらになりました」
「左様ですか」
「そうです。幹部候補生学校の方がよかったですか?」
「いえ、別に」
それはというのである。
「そうではありませんが」
「どうしてもここに来られる方はそちらに行きたがるのですがね」
「兵学校だからですね」
「その通りです。やはりあそこが一番人気ですね」
それは当然と言えば当然のことであった。やはり兵学校の人気は歴史的なものがある。それはまさに海上自衛隊の象徴とも言っていい程である。
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