占術師速水丈太郎 五つの港で
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第十六章
第十六章
「馬刺しですか」
「意外ですか」
「ここは馬刺しが多いのですか」
「はい、飲み屋に行けば多いです」
そうだというのである。
「美味しいですよ。ですからどうか」
「そうですか。わかりました」
少し戸惑ったが結果としてその話を受け入れた彼であった。そのうえでまた応えるのであった。
「後でそれを」
「そうされるといいかと」
「そしてお酒はやはり」
「ははは、それは言うまでもありませんね」
一曹は顔を崩して笑いながら彼に述べてきた。
「あれです。日本酒です」
「そうですか。やはり」
「広島ですから」
その崩した笑顔での言葉であった。
「それです」
「そうですか。それではそれを」
「日本酒は大丈夫なのですか?」
「はい、いけます」
それは大丈夫だと返す。これは本当のことである。速水は酒もかなりいける方であり日本酒も飲めるのである。そうした得な体質なのだ。
「それもです」
「そうですか。それは何よりですね」
「ではそのお店は」
「これは実に多いです」
見せは多いというのである。
「どれかと言われましても一概には」
「そこまで多いのですか」
「海軍からの伝統と広島ですから」
この二つが混ざり合った結果であるというのである。居酒屋の類が多いのはだ。
「それでどれがいいとは少し言いにくいのですが」
「左様ですか」
「まあそうですね。感性ですね」
「感性でその店を探せと仰るのですね」
「ええ。店が何分多いので」
とにかくそれに尽きるというのである。
「ですからお好きなお店に」
「わかりました。ではそうさせて頂きます」
「はい、このことでは御力になれなくて申し訳ありません」
「いえいえ、それは」
このことはいいと返す速水だった。謙虚な物腰が自然と出ていた。
「お気遣いなく」
「左様ですか」
「とりあえず何処かのお店に入ります」
そうするというのであった。
「では。また」
「はい、それではまた」
こうした話をした後で一曹と別れそのまま学校を出た。そうして外に出てみるとそこは、であった。坂道になっていて左右に飲み屋が並んでいる。そうした場所であった。
「ふむ」
速水はそうした場所を見てまずは口元に自分の手を当ててだ。そうして言うのだった。
「ここはですね」
とりあえず先に進んだ。そのまま暫く行くと寂しい道になり下り坂になった。港が見えてそうして下りきるとであった。左手に民家を思わせる店があった。
そこにメニューは店の前に出されているオーダーに書いてあった。牡蠣と馬刺し、それに日本酒もあった。彼が丁度聞いていたものが三つ共あった。
「そうですね」
それを見て決めたのであった。店の中に入る。すると和風の民家であった。畳であり箪笥も見える。そして和風の金魚鉢や人形も見える。ガラスの青と透明の金魚鉢の中には水があり底にはビー玉が敷かれている。ビー玉の中は青であったり緑であったり赤であったりする。その上を金魚が二匹泳いでいる。その金魚達と小さな女の子の人形を見てからである。速水は店の中に入り木のテーブルの上の座布団に座るのだった。
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