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銀色の魔法少女

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第四十三話 暴走開始 前編

side ALL

「サバイバーズ・ギルト、それが、今あの子の心を蝕んでいる病名よ」

 フィリーネさんが会議室にいる全員に話し出す。

 ここにいるのはずずか、アリサを除いた小学生組、それとクリムとアリシア、ユーノにクロノ、後はリンディ提督のみだった。。

「これは悲惨な事故や災害から奇跡的に生き残った人々によく現れる病気よ、端的に言えば生き残った人々の罪悪感とでも言うのかしら」

 それを聞いて、リンディ、クロノ、アリシアが表情を歪ませる。

 それに対し、小学生組とユーノには何がなんだか分からないといった顔をしていた。

「悲惨な事故って、遼ちゃんに一体何があったの?」

 代表して、なのはが尋ねる。

「そうね、これは私が説明するべきなのでしょうね」

 そう言ってクリムが立ち上がる。

「今から大体四、五年前の事件、『木原研究所爆発事故』という事件が発生しました」

 そう言うと全員に良く見えるように大きな映像が現れる。

 それには当時のニュース番組で流れた映像や、事故現場の状況が事細かに映し出されていた。

「死者行方不明者合わせて137名、生存者1名と言う悲惨な状況でした」

 そう言って彼女は最後の映像を映し出す。

「「「「「!?」」」」」

 それには、すすで汚れようともその煌く髪と瞳が特徴的な、幼い遼が映し出されていた。

「この事件で彼女の両親とその友達の両親が死に、彼女は天涯孤独になってしまいました、事件の原因は言うまでもなく、私にあります、私が、遼の両親を殺したのです」

 それを聞いて皆、彼女が事故を事件と言っている理由を察することができた。

 彼女は自分が許せないのだ。

 自分ではどうにもならなかったとは言え、遼の両親を殺してしまった自分が許せない。

 そして、なのはとユーノは温泉旅行の時に、遼の両親を見かけなかった理由を知った。

 その時にはもう既に死んでいたのだ。

 けれど、遼はそんな雰囲気を感じさせることはなかった。

 だから、気がつかなかったのだ。

「私が起動すると同時に行われる『選別』、それを彼女は乗り越え、私と契約することで生きながらえることができました」

「けれど、遼はここから歪み始めた」

 説明を引継ぎ、フィリーネが話す。

「彼女はこの事故の後、自分を鍛えることに異常なまでに執着し始めたの、それこそ、漫画やアニメの中にあるような人を超えた技を習得することを目的としてね」

 彼女は右手を動かすと、遼の戦闘シュミレーション時の記録が再生される。

 それには片手で鎧を貫くなど、通常はありえないものまで記録されていた。

「遼はクリムのことを恨んではいない、逆に自分を恨んでいるのよ」

 その言葉に、全員が唖然とする。

「そんな! 遼ちゃんは何にも悪いことなんてしていないのに!」

 誰かがそう言う。

 それは、この場にいる全員の共通の意見でもあった。

「そうよ、けれどこれがサバイバーズ・ギルトの特徴なの、生き残ってしまったこと自体に罪を感じているの、それに、彼女のレアスキルもそれに関係しているわ」

 今度は、昨日の戦闘映像と、温泉街での戦闘が映し出される。

「一つ目は凍結、二つ目はは無効化、とでも言うのかしら、特定の条件が当てはまった相手のレアスキルを無力化してしまうようね」

 これには刃のみ心当たりがあった。

 人たちが持つ特典はこちらではレアスキル扱いになるが、遼はそれらを全て無力化してしまうようだ。

「ただし、それはコントロールができず、発動していると遼自身も魔法が使えないみたいね、まあ、重要なのは三つ目なのだけどね」

 そう言って、温泉街の方の映像を拡大する。

 それは今まさにレイが遼を貫こうとしている場面だった。

「この時、遼は完全にレイを把握できない状況にあったにもかかわらず、彼の一撃を防ぐとこができたわ、なぜでしょうね?」

 そう皆に尋ねる。

 すると、フェイトがゆっくりと手を挙げて答える。

「えっと、あらかじめこうなることを知っていたから、ですか?」

 それはあまりにも非現実的な答えだった。

 レイがあの場にいたのを知るのはレイだけであったし、彼も細心の注意を払って遼に近づいたのを、あらかじめ知ることなどは、普通はできはしない。

 けれど、遼はそれを知っていた。

「そうよ、彼女とその周囲の人物に命の危険が及んだ時のみ発動する三つ目のレアスキル、『危険予知』、彼女はこれで両親の死を予見してしまった、けれど幼い遼が両親にいくら語りかけても信じてはもらえず、彼らは死んでしまったようね」

 それは当たり前のこと。

 小さい子供の言うことを間に受ける人間が全人類の中でどれだけいるだろう。

 考えるまでもなく、そんな奇人は少ないに決まっている。

「だから彼女は自分を責めた、分かっていたはずのことを防げなかった自分を呪ったのね」

 リンディがそう呟く。

「そう、だからこそ今度は誰も失わないように、悲しませないように力を求めたの」

 『日常というものはふとしたきっかけで容易に崩れ去る、何かが起こってからでは遅いのじゃよ』

 『私は平和に暮らしたいの』

 なのは、フェイトの二人の脳裏に、かつて彼女から聞いた言葉が蘇る。

 思い返せばそうだった。

 彼女はいつも、何かを失うことを恐れていた。

(だからこそ、盲信的にジュエルシードを集め、今回の闇の書のことだって――)

 そう考えたフェイトに、天啓とも言える閃を得た。

(ただ闇の書だけなら破壊して転生させればそれで済んだはずなのに、どうして完成まで待つ必要があったのだろう?)

 遼は管理局には属さない。

 だから闇の書を永久封印、もしくは完全破壊するという役目もないはずなのだ。

 危険を遠ざけるだけならば、破壊すれば転生機能が働き別の世界へと移る、これでいいはずだ。

(なのに、わざわざ彼女は封印という面倒な手段を取った……、そこまでして守りたい相手がいたということ?)

 それはただの仮説で、ほかにも可能性はあった。

 けれどフェイトには、これが真実だと思えて仕方がなかった。

 そんな時だった。





 side ALL

「もうそろそろ、頃合だな」

「ああ、十分にページが集まった、あいつらの目がブリュンヒルデの子にいっているうちに実行するとしよう」





side 遼

「ふふふ、遼ちゃん~~」

 ベッドに寄りかかり幸せそうに呟くすずか。

 彼女は私の最後の心残り。

 ブリュンヒルデの転生はとある人の協力を得られれば、解決する目処が立った。

 まあ、彼女なら大人(?)だし最悪の可能性くらいは覚悟しているだろう。

 けど、すずかは違う。

 何も知らない一般人(?)。

 ただの小学三年生。

 彼女にどうやって私のことを伝えよう。

 いっそ、黙ったままで逝くのもいいかもしれないが、それではあまりにも冷たいのではないだろうか?

 そんなことを考えていた時だった。





『緊急事態発生! 闇の書の暴走が確認されました、局員は所定の持ち場につき、事態に対処してください、繰り返します、闇の――』





 
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