未来の為に
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第一章
未来の為に
古い歴史を誇るエジプトだがこの国では今問題が起こっていた。
イスラム原理主義者がテロ活動を活発化させていたのだ、彼等はこう主張する。
「アッラーは偶像崇拝を否定しておられる!」
これはコーランにもある、イスラム教では最も厳しく守られていることの一つでありムハンマドの絵すら殆どない程だ。
だがここからだ、彼等はこう主張するのだ。
「ピラミッドもスフィンクスも破壊せよ!」
「あれこそ偶像崇拝の象徴だ!」
「しかも異教のものだ!」
「異教はジズヤを収めてはじめて認められる!」
これもその通りだ、だがイスラムの寛容さを示すこのジズヤも彼等にかかれば極めて狭量なものになってしまう。
「エジプトはムスリムの国だ!」
「だからピラミッドもスフィンクスも破壊せよ!」
「完全にムスリムの国になるのだ!」
こう主張する、だが。
エジプト国民の殆どは彼等の主張に呆れていた、そしてこう言うのだった。
「馬鹿を言え、エジプトは観光で成り立ってる国だぞ」
「観光客はピラミッドやスフィンクスを観に来るんだぞ」
「どれもなくなったら国が成り立たないぞ」
「原理主義者の連中はそんなこと考えているのか?」
「考えてないから言えるんだろうな」
こう呆れた顔で話される、そして。
彼等のテロに反発していた、市民は反発するだけだが軍や警察は違っていた。
どちらも彼等を取り締まる立場にある、軍のテロ対策部隊になると尚更だ。
彼等は今はテロの報告がなく事務所でデスクワークを行っていた、その中で。
指揮官であるアブダル=フザイファ大佐は自分の書類にサインをしていた、その中で直属の部下であるミダール=ガッサーン大尉に尋ねた。見ればガッサーンも己の席で彼の書類に黙々とサインを続けている。
「大尉、最近の動きだが」
「はい、今のところはです」
「奴等の動きはないか」
「イスラエルに向かっている様です」
原理主義者の最大の敵の一つだ、彼等は今はエジプト国内でのテロ活動よりイスラエルを攻撃しているというのだ。
「ガーニムは特に」
「あの連中が最近一番厄介だな」
「原理主義者の組織の中でも一番過激ですね」
ガッサーンはサインをしながら言う、見れば細長く引き締まった浅黒いアラブの顔をしている、目は横の長方形で強い光を放っている。短く刈った黒髪の量はかなり多く長身を軍服に包んでいる。
その彼に彼より三センチ程小柄で口髭のあるオールバックのフザイファが言う。
「それならいいがな」
「はい、ですが」
「油断は出来ないな」
「連中はすぐに攻撃対象を変えますからね」
「本当にすぐにな」
フザイファはサインをしながら応える。
「そうしてくるからな」
「だから油断は出来ないですね」
「そうだな、まあイスラエルを応援する訳じゃないが」
この辺りは個人的な感情である、実はフザイファはイスラエルが好きではない。
「それでもな」
「イスラエルには頑張ってもらってですね」
「あの連中を壊滅させて欲しいものだ」
こう言うのだった。
「そうすれば厄介ものが一つ減る」
「ですね、そうなれば」
「だからそうなって欲しいがな」
「ですがそれはですね」
「ああ、あまり期待しない方がいいな」
自分達がやるものではない、イスラエルがやるものだ。それではどうなるかわかったものではないからである。
「それにいないからといって何もしない訳にもいかないからな」
「情報収集を続けてですね」
「それで何をしてきてもいいようにしておくか」
「そうですね、テロだけは放っておけないですからね」
「連中は本当にピラミッドやスフィンクスを狙って来るからな」
フザイファは目を顰めさせて窓の方を見た、そこからそのスフィンクスやピラミッド達が見える。彼はスフィンクスの鼻、ナポレオンが大砲で吹き飛ばしてなくなったその鼻を見つつ言った。
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