北京ラプソディー
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第四章
「やれやれだな」
「まあそんなこともあるさ」
王はその李を笑顔で宥めた。
「気にするなよ」
「また買わないといけないのにな」
「今度は中古で買ったらどうだよ、俺みたいに」
「そうするか、じゃあ壊れない時計な」
そうした話をしたのだった、そして。
王はだ、自分のその時計を見て李にあらためて語った。
「まあ時間はまだあるからな」
「どうするか、か」
「飲むか?」
これが王の提案だった。
「何処かでな」
「そうだな、それじゃあな」
「何処で飲むかだけれどな」
「適当な店でいいんじゃないのか?」
李は特に考えることなく王に返した。
「そうするか?」
「適当な店?やめとけよ」
「ぼったくられるからか」
「それで文句つけてきたら怖いおっさんが出て来てな」
そのうえで殴られたうえで有り金を全て巻き上げられるというのだ。
「そういうのあるからな」
「じゃあ知ってる店に行くか」
「そうしようぜ、まあ羊の焼肉でも食いながらな」
「老酒でも飲んでか」
「そうしようぜ、店はな」
羊と老酒、その組み合わせならというのだ。
「乾隆にするか」
「あそこか」
「ああ、あそこに行こうな」
「あそこ安いし美味しな」
だから二人も通っている、そうしているのだ。
しかしだ、ここで李はその乾隆という店について王にこう尋ねた。
「なあ、ところでな」
「ところでって何だよ」
「ああ、あの店っておっさんが言うには乾隆帝がお忍びで来たっていうよな」
店の宣伝文句について尋ねたのである。
「そんなこと言ってるよな」
「あの話か」
「あれ本当か?だから乾隆っていう名前だって言ってるよな」
「あの店そんなに古いかっていうとな」
「違うんだな」
「そうだろ、あのおっさんほら吹きだからな」
店のおっさんの性格からの分析だった。
「精々あれだろ、江沢民が来たとかな」
「まだ生きてるぜ、あの人」
「それ位だろ」
「乾隆帝じゃないか」
「絶対にそれ程古くはないさ」
そこまではだというのだ。
「大体乾隆帝ってどれだけ昔なんだよ」
「そういえばそうだな」
「そうだよ、二百年位前だろ」
それだけ長く続いている店かどうかというのだ、そして。
王は李にこう言った。
「まあいいだろ、ほらも半分で聞いてな」
「それでか」
「ああ、酒の肴にして飲もうぜ」
「そうするか、それも肴にしてな」
李も王の言葉に頷いた、こうした話もして。
二人でその店に入った、店はお世辞にも綺麗とは言えずあちこちにがたが見えた、客は多いが皆市井の人達だ。
二人は店のカウンターに並んで座った、そして羊の串焼きと老酒を注文してだった。
そのうえで飲みながらだ、そのおっさんの話を聞いた。
「この店は古くてな」
「ああ、康熙帝が来たんだって?」
「凄い話だね」
二人はここはあえてこう言った。
「凄いね、そんな人が来たなんて」
「それもお忍びだったね」
「いやいや、乾隆帝だよ」
おっさんも流石に店の看板は誤魔化せない、康熙帝とは言わなかった。
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