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変わった鯨

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第三章

「そして諸君等も見たな」
「はい、間違いありません」
「今も見ています」
 今その瞬間もだった、その謎の生物は船の横を泳いでいる。だが彼等に気付かないのか悠々と泳いでいるだけだ。
「あれはシーサーペントです」
「それです」
「見たものは書かなければならない」
 その日誌にだというのだ。
「だから書いておく」
「ですか、それじゃあ」
「俺達が今見ているものは」
「事実だ」
 それで間違いないというのだ。
「我々が見たものだ」
 軍人である彼等がだというのだ。
「しかも一人ではない」
「はい、俺見ました」
「俺もです」
 水兵達も口々に言う、そして士官達もだ。
 責任ある彼等も真剣そのもので語る。
「今実際に見ています」
「この目で」
「軍人は真実を語らねばならない」
 そうでなければ勝てない、艦長は確かな顔で断言した。
「だから日誌に書いておく」
「では日誌に書かれてですか」
「それを報告されるのですね」
「無論だ、今すぐ書いておこう」
 こうして艦長はその航海日誌に船員達が見たものを記録した、そしてこのことを実際に海軍の上層部に報告した。
 最初にその報告を聞いた上層部はまずこう思った。
「何かの見間違いか?」
「虚偽の報告ではないのか?」
「シーサーペントを見たなぞ」
「大航海時代の船乗りの法螺話の様だ」
 こうした言葉も出ていた。
「流石に海にそんなものがいるなぞ」
「シーサーペントは伝説の存在だろう」
 産業革命で科学がこの世に出てからこうした存在を伝説として片付ける風潮が出来ていた、それでこう話されるのだった。
「幾ら何でもな」
「そんなものを見るのか」
「幾ら何でもな」
「有り得ない」
 こう話す、しかしだった。
 上層部は同時にこうも考えたのだった。
「だがディーダラス号の艦長は確かな人物だ」
「そうだったな、彼は私も知っているが」
 彼等は日誌を報告した艦長のことも考える。
「嘘を報告する人物ではない」
「ましてや見たと言っているのは艦長だけではない」
 その報告をした彼だけではないというのだ。
「他の士官や下士官、水兵達も見ている」
「誰も嘘ではないと言っている」
「細部まで詳細に報告されている」
「それなら嘘ではないか」
「間違いなくな」
 こう考えられもした。
「ロイヤルネービーの士官、しかも館長にまでなった者が嘘や見間違いを日誌に書く筈もない」
「ではやはりか」
「この報告は嘘ではないか」
「間違いなくな」
「真実なのか」
「ではこのシーサーペントは何なのだ?」
 その報告が真実だとしてもこの疑問があった。
「恐竜なのか?よく言われている」
「プレシオサウルスかエラスモサウルスか」
 恐竜の時代に海を支配していた首長竜なのか、まずはこの仮説が出た。
「もしやと思うが」
「我が国にはそうした話が昔から多いがな」
 イギリスの湖にはそうした話が多いのだ、これは昔からである。だから彼等もこのことから考えて言うのだ。 
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