必死なのだ
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第二章
「それに嫁さんの中にいるな」
「女の子よ」
小百合は笑顔で答えた。
「お医者さんに今日そう言われたわ」
「三人目の為にもな」
やはり強い声で言う。
「生きないとな」
「そうよね、あの国に行っても」
「仕事の予定は短いんだよ」
支社を閉鎖するだけだ、確かにそれはすぐに終わりそうだ。
「けれど時間がな」
「何か例の国が今日も言ってたわよ」
「無慈悲などうたらこうたらってだよな」
「そう、無慈悲な無制限攻撃とか」
「下手なライトノベルの煽りか?」
「私特撮かと思ったわ」
殆どそんな感じになっていた、実際に。
「それかしらって」
「相変わらずだな、あの国は」
「本当に戦争するつもりかしら」
「普通はしないけれどな」
これはあくまで普通、という限定の中での結論だ。
「けれどあの国はな」
「普通じゃないからね」
「あそこは何をするかわからないからな」
「だから戦争が起こる前によね」
「撤退するんだよ、それもすぐにな」
「出来るだけ早くよね」
「そう、早くね」
逃げるというのだ、それでだった。
彼は妻にあらためてこう言った。
「時間との勝負だな、今回の仕事は」
「若し遅れたら」
「本当に死ぬな。核ミサイルが落ちてくるとかな」
「それしてくるかしら」
「するんじゃないのか?あの国だけはな」
普通の国だからではないからだ、世襲制の共産主義というそもそもが有り得ないシステムでしかも戦前の日本が目を剥くまでの軍国主義であり非常識を極めた恐怖政治を敷いている。
そんな国家が普通か、言えるとしたらおかしいであろう。
「だから社長も決めたんだよ」
「撤退ね」
「それで人事部長は俺に白羽の矢を立てたんだ」
「大変な話ね」
「一応この仕事が成功したらな」
「何かあるの?」
「ボーナスが出てな」
まずはこれだった。
「それで総務部長が役員になるらしくてな」
「あっ、繰り上げもあって」
「課長も約束されたよ」
出世の話にもなる。
「帰って来られたらな」
「見返りはあるのね」
「ちゃんとな」
それはあるというのだ。
「流石に頼む方も何もなしじゃ悪いって思ってくれたみたいでな」
「まあそれが普通よね」
「だから行って来るな」
こう妻に言う。
「何とかしてくるからな」
「戦争にならないといいけれどね」
「普通はならないけれどな、あの国もう燃料もないらしいからな」
近代戦を行なうべきそれすらなくなってきているのだ、燃料がなくては戦車も戦闘機も何も動きはしない。
「それでどうして戦争するんだろうな」
「工作員を送り込むとかじゃないかしら」
「それいつもだしな」
本当にいつもだ、恒例行事の様にしている。
「それもな」
「じゃあ本当に核ミサイル撃ってくるのかしら」
「まさかと思うけれどな」
「あの国だけはわからないからな」
「そうよね、わからないわよね」
「とりあえず何かが起こる前に逃げて来るな」
「大急ぎで戻って来てね」
こう言ってそうしてだった。
赤穂はその国の首都に入った、もう国中騒然としていた。
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