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戦国異伝

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第百三十七話 虎口を脱しその十二

「全くな」
「しかし皆殿を慕ってのことです」
「そう考えますと」
 池田と森はその苦笑いする信長にこう伝える。
「よいことかと」
「苦笑いになられることではないのでは」
「そうか、では勝った時はじゃ」
「次ですな」
「次の戦の時にですな」
「うむ、勝って都に帰りじゃ」
 そしてだというのだ。
「よりよい迎えを受けようぞ」
「そうされますか、次は」
「次の戦の時は」
「猿達が戻って来れば休んでから一旦岐阜に戻る」
 二人にもこの考えを述べる。
「そうする」
「ですか、猿達が戻れば」
「それからですか」
「猿は絶対に戻って来る」
 間違いなくというのだ。
「あ奴は死ぬ奴ではない」
「だから後詰も任せたのですな」
 奥村がここで言った。
「左様ですな」
「その通りじゃ、あ奴は並のしぶとさではない」
 生き残るという意味でだというのだ。
「だからじゃ」
「あそこで任せましたか」
「必ず戻って来る、そしてじゃ」
 その戻った時にだというのだ。
「休んでから岐阜じゃ」
「そこでまた兵を整えてでございますな」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「そうするぞ」
「ですな、退いてもそれで終わりではありませぬ」
 奥村も確かな顔で信長に応える。
「むしろ仕切り直しですな」
「そうじゃ、それだけのことじゃ」
「ではまずは都にいてですか」
「帝の御前に参上し公方様にもな」
 会うというのだ。
「やることは多いわ」
「では」
「さて、この者達じゃが」
 民達を見る、彼等は今も信長を笑顔で迎えている。
「ここは素直に受けるべきか」
「それでよいかと」
「退いて戻って来てもな」
「仕切り直すだけと思えば」
 別にいいだろうというのだ。
「それがしはそう思います」
「ではこのまま帝の御前まで行くか」
 奥村の言葉に頷く、そうしてだった。
 信長は馬を進める、青い兵達がそれに続く。彼は無事に都に戻った、そのうえで再び戦のことを考えるのだった。
 信長が都に戻ったと聞いてだ、長政は無念の顔で家臣達に述べた。
「致し方ない」
「ですな、それでは」
「今より」
「小谷まで戻る」
 その城にだというのだ。
「そうするぞ、そしてじゃ」
「そしてとは」
「まだありますか」
「すぐに次の戦の用意にかかる」
 それをするというのだ。 
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