久遠の神話
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第五十話 政府の判断その十四
「この時代、そしてこの国でも」
「ですか」
「しかし貴女もですね」
「そうするしかないのです」
沈痛な声だった。声の今出すものは。
「彼の為にも」
「愛ですか」
「貴女は愛は」
「知っています。ですが」
狙いを定める手が震える。だがだった。
それを必死に抑えて狙いを定めなおしてから放った。その矢もまただった。
的の中央を射抜いた。それから言うのだった。
「私の愛は」
「それは運命でしょうか」
「そうかも知れません」
聡美の表情も声の色も沈痛な、痛さを思い出すものになっていた。それは彼女があまり見せないものだった。
しかしそれを声には見せながらこう返した。
「そしてそれは」
「私もでしょう」
「私達の想いは悲しい結果に至ります」
「しかし私はそれでも」
「受け入れられませんか」
「貴女は受け入れられてきましたか?」
「いえ」
今は弓矢を構えない。的を見たままで述べるだけだった。
「それは」
「幾度起こってもですね」
「受け入れられはしません」
そうだと。聡美は述べた。
「ただ。受けるだけです」
「そうですね」
「受けるだけしかできません」
受けると受け入れるは違う。受け入れるということは克服するということだ、だが聡美も声もそれはできないというのだ。
聡美はこうも言った。
「幾度受けても。それで」
「ですから私は今度こそ」
声の言葉には覚悟、それに意地さえあった。
「適えたいのです」
「そうなのですか」
「何を思ってもいいです」
聡美に対してこうも言った。
「罵っても」
「罵ることはしません」
聡美はそれはしないと答えた。
「私はそうしたことはしません。特に」
「特にですか」
「お姉様に対しては」
そうだというのだ。
「お姉様は私にとって最も掛け替えのない方ですから」
「それ故にですか」
「そうです、例え何があっても私は」
また構えに入っての言葉だった。
「お姉様は私にとって掛け替えのない方の一人です」
「私もです」
そしてそれは声もだというのだ。
「私も貴女は」
「そうですね。私達はお互いに」
「はい。ですが」
しかしだった。
「私にとって掛け替えのない方はあの人もなのです」
「眠り続けているあの方もまた、ですね」
「そうです」
こう聡美に答える。
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