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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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星屑の覚醒
  8 弾ける殺意

 
前書き
テストにテストと休日もテスト三昧で更新出来ない日が増えております...
気長にお待ちください(・∀・) 

 
時刻は午後9時。
デンサンシティの海沿い、ディーラーの養護施設内はパニックを起こしかけていた。
そんなことも知らずに孤児たちは自室でゲームをするなり、テレビを見るなりして寛いでいる。
だがディーラーの人間は気が気でない。
数分前にデンサンタワーのすぐ近くにある自分たちの管轄していた施設の1つがValkyrieによって占領されたらしい。
表向きは広告代理店で高さ23階の一流企業のような立ち振舞をしているビルだ。
キング財団もその会社でCMなどの広告によって恵まれない子供たちへの支援を呼び掛けるようなことをしている。
だが裏ではディーラーのあらゆる情報を保管しているサーバーなど重要極まりないものを管理しているのだった。

「マズイですよ...このままだとValkyrieにディーラーの機密情報が漏れてしまいます」
「...タイミングが悪すぎるわ。シンクロナイザーは消えるし、街中に武器が出回るし...」
「落ち着けよ、姉ちゃん。らしくないぜ?」
「でもハートレスの報告からすれば、シンクロナイザーは自分の意志で姿をくらましているはず...偶然?でも何か仕組まれている...」

報告を受けたクインティアは苛立ちを隠せずにいた。
いつもは感情が表れないクインティアにしては珍しいことだ。
それも普段、本性むき出しのジャックに指摘されるなどあり得ないことだった。
だがクインティアはそれも耳に入らず、思考をまとめていた。
この2つの偶然を結びつけるもの。
Valkyrieと彩斗。
今まで殆どの時間を施設で過ごし、ディーラーによって育てられていた彩斗にそんなPMCとの繋がりがあるとは思えない。
実際、偽名で学校に通っているとしても、たかが中学校と世界的に軍事産業を率いる会社に繋がりなどあるわけがない。
だが全くの偶然とも思えない。
何らかの悪意を感じていた。

「何だか...こうなることを仕組まれているような...」
「?誰にだよ?」

自分たちがパニックを起こすような状態を意図的に起こしている存在がいる。
それもディーラーの人間でもなく、Valkyrieの人間でもない第三の立場にいる存在。
だがそれに関しても全く思い浮かばないのだった。
ガラス製の机の上にValkyrieの資料を並べる。
今まで彼らが行ってきた暴かれること無い悪行の数々だ。

武器を売るためのニーズを作るために自ら紛争の火種を作る。
予め用意していた供給という油に、需要という火をつける。
人は言うまでもなく戦争だ。
自分たちが殺させるという恐怖に駆られた人々は自ら武器を手に取る。
それでこそ爆発的にValkyrieの武器は売れ、彼らの懐は満たされていくのだ。

もちろん今から占領された施設は奪還する。
しかし武器商人だけあって、もはや近づくだけで蜂の巣にされてしまうような要塞と化しているのは間違いない。
マシンガンなどの武器を携えても全く役に立たない程に。
だとすればノコノコ現れたところを一気に攻めるしか無い。

「次に連中が取引する場所を押さえるわ。それなら防御線が張られずに一気に制圧できる。そして目的を吐かせる」
「でもよぉ...何処に現れる?」


クインティアとジャックは黙り込んだ。
全く検討もつかない。
この数日でValkyrieから買った銃で事件を起こす市民が後を絶たない。
だとすれば間違いなく大々的に取引をしているはず。
しかし最悪の可能性に突き当たった。
転売をするために大量に購入している街の人間がいる可能性がある。
もしそちらの人間を捕まえれば、確実にValkyrieに勘付かれるのだった。

「1つだけ手がかりがあるわよ」
「!?ハートレス」

ミーティングルームにメリーとハートレスが入ってきた。
街で彩斗を探した後、彩斗の学校の身辺で情報を探した。
そして幾つかの情報を得たのだった。

「シンクロナイザーと同じ学校の不良連中。シンクロナイザーが襲った時に銃を向けられたって言ったから、少し調べた。結果、連中は2週間前に銃を購入してる」
「...サイトさんがミヤさんと出会って...ミヤさんが文科省に訴えると脅して先生たちに不良に処分を求めてすぐです。多分、2人に仕返ししてやるつもりで...」

メリーは唇を噛んだ。
当然の罰を受けながら、それに対して逆恨みするというのは不条理だ。
そして先日の彩斗と聞いてしまった教師がその不良たちに加担しているという話。
彩斗とミヤを犠牲にすることで自分たちの欲と保身を優先していた。
悔しかった。
込み上げてくるのは激しい怒りと殺意だ。
連中は彩斗を殺そうとしたのだ。
自分たちが殺されることに文句など言う資格はない。
そう思いながら拳を握った。

「そして彼らはこの1週間の間に銃で脅す手口で何度もカツアゲを繰り返してる。教師たちはそれを野放しにし、警察は証拠を掴めず、彼らは毎日のように夜はパーッと遊び回って、デンサン港の廃工場を根城にしてる」
「Valkyrieはもしかしたら、また彼らに銃を売るかもしれません...。武器を持ち込むには空輸か海運しかありません。デンサン港の近くなら...接触する可能性はあると思います」
「...分かったわ。今からその廃工場を張り込む。もし不良たちがいるようなら、多少、銃で手足を撃ち抜いてでも連中の情報を聞き出すわ」
「行こうぜ、姉ちゃん」

ジャックとクインティアはその情報を聞くなり、すぐさま机の上の無線を腰につけ、ペアリングされたヘッドセットを耳に入れた。

「今からValkyrieと取引をしたと思われる少年たちの居所に向かう。銃を使って撃ってくるようなら殺害しても構わないわ。マシンガンとスタンガン、あとネイルガンを用意してガレージに集合しなさい」

クインティアは無線で指示を出すと、ジャックとハートレスとともにミーティングルームを出ていこうとする。
だがメリーはハートレスの腕を掴んだ。

「!?」
「私も...連れて行ってください」
「...ダメ」
「お願いします。連れて行ってくれないなら...私はディーラーの機密情報をネットに流します」
「...何を言ってるか解ってるの?」

ハートレスは若干、冷や汗を流した。
実際、ディーラーの秘密が流されるのはマズイことだ。
もちろんメリーの知っている秘密とは孤児たちの能力を開発する実験を行っていることや、偽装された戸籍で人間を自由に存在させたり、消したり出来るということくらいで、実際のディーラーの正体とは程遠い。
しかしこのタイミングで晒されるのは、商売敵のValkyrieにも弱みを出すことに他ならない。
それにメリーはハートレスにとっては大切な存在だった。
もしValkyrieと戦闘になり、流れ弾でも当たれば、死ぬ確率は高い。
だがこの場で拘束させるのも、ただでさえ少ない人員と時間を削ることになる。

「分かったわ。ついてきなさい」

ハートレスは10秒程、深刻に考え込み、苦渋の決断をした。

















「ふぅ...さてと今から客が来るけど、その後はまた小遣い稼ぎに行くんだよな?」
「あったりまえだろ!だってよぉ、俺らとは比べ物にならねぇくらい、親からもらってる連中だぜ?俺らはそれを平等にしようとしてるんだから、むしろ褒めてもらいたいくらいだよなぁ」

デンサン港の廃工場ではそんな会話が飛び交っていた。
薄暗いが十分な明るさの照明の中、40人近い人数の同じ学校の不良たちが集っては博打をしたり、ただ群れて集まっている。
1週間前に彩斗とミヤという存在をこの大人数で仕留めてからというもの、人生が薔薇色だった。
今まで彩斗をサンドバッグにすることで、理由も分からず面白かった。
ただ人が苦しんでいるのを見ているだけで快感だった。
しかし転機はミヤが間に割って入ってきたことだ。
元から融通の効かない正義感を持っていた上に、一緒に殴ろうと誘っても断り続けた。
ただそれだけでムカつく存在ではあった。
だがまさか教師たちを脅してまで自分たちの自由を束縛したことで殺意へと変わった。

「てかさ、高垣の奴、まだ死んでないんだってさ。しぶといよな」
「でもそのうち死ぬだろ?あんだけバットで殴ったんだ。足も折ったし、頭もぶっ叩いてやったし、胸骨が折れて内臓に突き刺さってるらしいからな。それでこそブラック・ジャックでも来ねぇと治んねぇって」
「ああ、そういや沢城は行方くらましたんだってよ。病院抜け出して、今頃、海で魚の餌にでもなってたりしてな!」
「はっはっはは!!そりゃいいや!!自業自得だっての!!俺らを貶めようなんてさ!!」
「じゃあ高垣が残り4日で死ぬのに3000ゼニー!」
「じゃあ俺は5日!!8000ゼニー!!!」

自分たちが神にでもなったくらいにのぼせ上がっていた。
自分たちの行いが間違っているのを指摘され、当然の罰を受けただけで、自分たちに逆らう者は殺す。
だが自分たちが臆病であることには気づいていなかった。
40人近いこの集団で行動を起こしたからこそ、うまく行ったのだ。
もし1人や2人だったら、ビクビクして何も出来ない。
群れなければ、何も出来ず、ただグレることがステータスだと勘違いしているゴミクズに他ならなかった。
ミヤや彩斗の生きている時間を適当に想像し、賭け事を始める。
だが自分たちの生きていられる時間を勘定に入れることは出来なかった。

「!?何だ!!」
「おい!!誰だよ!!!電気落したの!!!?」

ブチッという音とともに、廃工場内は一斉に真っ暗になった。
証明が全てダウンした。
そしてすぐに出入りに使っていた大きな鉄の扉が閉じていく音がした。

「!?おい!!!誰だよ!!」

相当な重量のある扉は数人がかりでようやく開閉できる物だ。
よって数人の招かれざる客が侵入していることは瞬時に理解出来る。
数人は既にポケットに入っていた携帯端末の画面から発せられる僅かな光を頼りにこの異常な原因を探りに掛かった。

「ちょっとブレーカー見ていくるわ」
「おう。じゃあ、ついでに入り口も見てきて」

青いシャツを着た不良はブレーカーへとゆっくりと歩き出す。
それは数年前まで従業員のデスクワークの場であった事務室のパネルの中だ。
前にふざけていじったことがあった。
だがそこに辿り着く前に足が止まった。

「!?グァァァァァァ!!!!!!」
「!?おい!!誰だ!!!」

目の前で悲鳴が響いた。
その場にいた不良は確かに感じた。
誰かが自分の目の前を猛スピードで通り過ぎた。
そして体に熱い飛沫が掛かった。

「何だよ...これ」

自分の体を汚した液体に触れる。
だがその正体を知る前に目の前にいた青いシャツの不良が倒れた。

「!?何やってんだよ!!さっさとブレーカー.......うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

うつ伏せの状態から起こすと、死んでいた。
ケータイの明かりで照らすと首のあたりから未だに真っ赤なものが噴き出している。
「血」だ。
それこそが自分の体に掛かった飛沫の正体だと理解した。
鉄の匂いが若干する体においては重要極まりない液体だ。

「死んでる!!!死んでる!!!」
「え!?なになに!?」
「!?誰だ!!おい!!誰かいる!!!この中に誰かいる!!!」

その悲鳴は辺りに響き、同じくいきなり暗くなったことに驚いていた不良たちは動揺を起こす。
真っ暗な中で自分たち以外の誰かがいる。
闇に紛れ、一瞬だけ気配を現すも、すぐに消えることで恐怖心を煽っている。

「ウゥゥゥゥ!!!!!!」
「ギャァァァァァ!!!!!」

次から次へと悲鳴が上がり、その度に不良は鋭利な刃物で殺されていく。
不良たちは震えた。
次は自分の番かもしれない。
この真っ暗な世界で逃げ道を探すには、光を出すものを使わなければならない。
だがこの状態では光源を持つことは自分の居場所を、正体不明の侵入者にアピールするようなものだった。
そんな時、あからさまな殺意を感じた。

「!?誰だよ!!!」
「何処にいる...何処だ...何処だよ!!?ウワァァァァァ!!!!!」
「イヤァァァ!!!!」

皆が悲鳴を上げ、正気を失い始める。
しかしそんな中、甲高い声が聞こえてきた。
声の主は間違いなくこの奇怪な状況を作り出している侵入者に間違いなかった。
まるで一人ひとり殺すのを楽しんでいるようだった。

「!?ぎゃぁぁ!!!やめろ!!!やめてくれぇぇぇぇ!!!!!」

暗闇を味方につけ、1人、また1人と楽しみながら殺していく。
まるでライフワーク、趣味で釣りを楽しんでいるのと何ら変わらない。

「ヤバイって...早く逃げないと!!え!?キャァァァァァ!!!」

もはや40人近くいた不良は残り10人を切った。
全員、凄惨な殺し方で殺された。
腕が無いなど当たり前だ。
全身が粉々と言ってもいい。
腕はちぎられ、足は折られ、喉笛を掻っ切られている。
もはや人の殺し方ではない。
残った10人は恐怖に駆られ、パニックを起こしていた。
相手は自分たちのように群れなければ、人を殺すことの出来ない人間ではない。
いやむしろ人間であるかどうか怪しい。
全く人殺しを躊躇っていない。
まるでハンターだ。
今ではもはや忘れ去られそうになっているSFホラー映画があった。
宇宙からやってきた狩りを趣味とするエイリアンが、ジャングルに入った特殊部隊の精鋭たちを相手に狩りをするというものだ。
ジャングルに身を潜め、人類を超える科学力の結晶とも言える武器、光学迷彩を身に纏い、1人1人狩っていく。
所詮は作り物の世界だと思っていた。
だがその光景が自分から10メートルもしないところで起こっているのだ。
正気を失うのはむしろ普通のことと言えた。

「グアァァァァァ!!!!!」
「ウワァァァァァ!!!」
「やめろォォォ!!!!!!」

そう考えている間にも次から次へと殺されていく。
気づけば自分の体に凄まじい激痛が走り、自分が殺される番を迎えている者もいた。
そしてとうとう残りは自分だけになっていることに気づく。
もう相手の正体などどうでもいい。
どうやったら自分だけでも助かるか。
それしか頭にはなかった。
だが皮肉にも、知るのを諦めた瞬間にそのハンターの正体を知ってしまうことになった。

「!?ウワァァァ!!!」

いきなり顔面に骨のような突起物が思いっきり激突した。
鼻の骨が折れるのが分かった。
肘のような小さな力でも大きなダメージを生み出す部分だ。
そして足を払われ、胸ぐらを掴まれ、その場に倒れた。

「...僕が死ぬまでいくら賭ける?」

「!?...そんな...お前...」

真っ暗な中、天窓から入る僅かな灯台の光が薄っすらとこの異常な殺人鬼の姿を映しだした。
見覚えのある顔だった。
男か女かはっきりせず、いつも無表情で何を考えているか分からない。
殴られているときはまるで人形のように生気を無くしたような顔をしていて気持ちが悪いが、殴るとスッキリするという公共のサンドバッグとして扱っていた男。
沢城アキこと彩斗だった。
飼い犬に手を噛まれるとはこの事だった。

「沢城...お前...何で!!!?何でみんな殺しちまったんだよぉぉぉ!!!」

両手に持っている黒と白の刀のことなど全く気づくことなく、大声で彩斗に言った。
激しい怒りが湧き上がっていた。
自分たちがなぜタダのサンドバッグ同然の人間に殺されねばならぬのか?
それが理解出来なかっただった。
だがそれ以上に彩斗の怒りは収まることを知らなかった。

「...お前らなんか死んで当然だ...ミヤや僕をこれまでさんざん苦しめてきたお前らなんか!!!」
「何だと!!?テメェなんざ、俺らの足元にも及ばねぇ糞野郎だろうが!?そんなの当たり前なんだよ!!!う!?ウワァァァ!!!」

彩斗は顔面を蹴りつけた。
ただでさえ強すぎる殺意を抱えていたというのに、全く反省の色が無いことに更に殺意の塊が黒い勾玉でも形作るように磨かれる。
何度も何度も、体重を込めて鼻の骨が手術でも治らぬ程に。

「悪かったって!!!やめてくれ!!!!やめろって!!!?」

彩斗は再び甲高い笑い声を上げた。

「アッハ...アハハハハハハハ!!!誰が一番、情けなかったと思う!?ズレたことしてカッコイイと勘違いして、自分たちから社会の輪から抜けだしたゴミクズだって気づかずに!!?」

「悪かった!!!やめて!!!殺さないで!!!もう!!やらない!!!お前のことも!!高垣のことも!!!だから許してくれ!!!」

彩斗の足元に縋り付く。
だが彩斗はそれを軽く蹴り飛ばした。
そして仰向けで倒れると、見下ろす彩斗の顔が見える。
完全に狂った笑顔を浮かべている。
自分たちが苦しんでいるのを見て心から心の喜びが浮かんでいるのだ。
今までここまで感情豊かなのは彩斗も自分で驚きだった。
最初は狂った演技で恐怖を煽るつもりが、本当の愉悦に酔いかかっている。
そしてとうとうとどめを刺す時が来た。

「せいぜいあの世で...意気がって見せろよ...1人じゃ何も出来ないゴミクズだって理解できるまで!!!」

「もう分かったって!!!十分!!!十分だ!!!オレたちはクズだった!!!もうどうしようもないくらい!!!だからやめろ!!!!ヤメテェェェェェェェ!!!!!!!」

「アァァァァァァァァ!!!!!!!!」

彩斗は大声を上げ、右手で握っていたナイフを振り下ろした。
一瞬で首に滑り込み、筋肉や血管、骨を何の抵抗も無く切り裂く。
頭部を体から外れた時点でもはや人の形をしていない。
所詮、死んでしまえばタダの物だ。
更に臓器移植などの有用性も無ければ単なるゴミだ。
火葬するなり、埋めるなりして処分するしか無い。
そして気づけば、彩斗の足元に噴水のように血しぶきを上げなら、自分より数段、不細工な顔をした頭部が転がった。
こいつこそが不良の中でも特に彩斗に対してはひどい扱いをしており、ミヤを殺すという計画を立案した張本人。
もっともと言えば、もっともな最後だった。

「....終わった...」

彩斗はため息をついた。
自分の目的を果たすことが出来て安堵している。
今までにないくらいの快感だった。
今まで自分の人間としての価値を否定し続けていた連中が自分の力で人としての価値を奪われていくのだ。
自業自得だと思った。
もちろん世間一般から見れば、無抵抗の少年少女の命を軽々と奪った殺人鬼かもしれない。
だが今までにそれに相応することをやってきている。
文句など言われる筋合いはなかった。

「ミヤ...僕、やったよ...もう...君を傷つける奴はいない...」

だが反面、激しい後悔が込み上げていた。
結果として殺人鬼になってしまった。
自分の行いが間違っていたとは思わないし罪悪感など微塵も無いが、これによって社会的な地位は無くしたも同然だ。
もう『沢城アキ』としては生きていけない。
ミヤとも会うことも出来ないだろう。
そう思うと気づけば、ナイフをその場に落としていた。
マテリアライズしたナイフはそのまま消滅する。

「...帰らないと...メリー...」

残っているのはメリーだけだ。
たとえどんなに自分が堕ちても、メリーだけは味方でいてくれる。
だがこれも後悔を強める。
メリーに嫌われてしまったら?
恐ろしくて血の海と化した地面に膝をついた。

「........」

深呼吸をして落ち着こうとするも落ち着けない。
もうどうしたらいいか分からない。
怒りが再び込み上げてくるが、ぶつける対象を自分の手で殺してしまった。
もう怒りを自分でどうにか出来ずに絶望する他なかった。
だがそんな彩斗の事情など知ることもなく、彩斗が閉ざした廃工場の鉄の扉が開く音が響いた。

「.......何だ...」

彩斗は開いた扉から入ってくるデンサン港の灯台の光を見た。
影がいくつか見える。
数人の男たちが扉のところに立っていた。
だが男たちは驚きの声を上げていた。

「なんだこれは!?」
「うっわ...オエェェェ!!!!」

血の匂いにやられたのか、吐きそうになっている様子が伺える。
光で照らされ、ようやく工場内の現状が明らかになった。
あちこちに単なる"肉片"が転がり、血の海が広がっている。
これはその元凶である彩斗にとっても吐き気をもたらすには十分過ぎるものだった。
だが彩斗はそんな中、驚きつつも無表情でいる1人の男を見た。
身長は175センチメートルといったところに黒のスーツ、紫のネクタイ、縁無しの眼鏡、少し長めの髪が垂れている。

「これは君がやったのか?」

男は彩斗と20メートル程距離を開けたところで止まった。
彩斗は頷くことも返事をすることもせずにただ男を見ていた。
真っ暗な廃工場、沈黙に包まれた世界。
10月26日午後9時34分。
これが光彩斗とこの男『安食空夢(あじきそらむ)』の出会いだった。
 
 

 
後書き
とうとう復讐は終わった...のか?
商売敵の顧客を皆殺しにしてしまい、これからどんな展開になるのかお楽しみに! 
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