リリカルなのは~優しき狂王~
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第四十七話~結末の為の幕開け~
前書き
お久しぶりです。
ここしばらく色々、忙しかったり、充実していたりで中々執筆できません。
それでもなんとか書き上げたので、少しでも次の話に期待をもてて頂ければと思います。
ではどうぞ。
機動六課・自室
この日、機動六課の敷地内はいつもとは違う空気と雰囲気を発していた。六課のスタッフもどこかピリピリしている。
というのも、六課が警備に当たることになる公開意見陳述会の開催が明日に迫っているからであった。開催自体は明日であるのだが、警備は前日の夜から行うことになっていた。
特に六課の立ち上げ理由の真実を知っている隊長陣は他のメンバーよりも真剣な表情をしている。
そして、なのは達から六課の立ち上げ理由である管理局崩壊の予言について聞かされていたライも彼女たちと同じようにピリピリしていた。
「……」
そのライは今、自室で軽く瞑想をしていた。もう日が落ちて、暗くなってしまっているのに明かりもつけず、床に座り目を瞑る彼がそこにいた。
瞑想をしている理由は自分の感情を落ち着かせるためである。なぜなら、今回の警備任務について正式な依頼が降りてきた際にライははやてに「民間協力者として協力する」と上申したのだが、これの許可が降りなかったのだ。
ライの今の立場はかなり微妙になってきている。市街地でのSランク砲撃の迎撃やら、ナイトメアフレームの情報の保持など上げるときりがないのだが、ライは今管理局の一部から目をつけられているのである。
そんな中、ライを警備任務につかせるのは少々まずいのである。
更に言えば、今回はホテルアグスタの時とは違い建前となる理由がないのである。アグスタの件はライが「ホテルで行われるオークションに参加するために六課のメンバーと同行していた」という建前があった。だが今回は公開意見陳述会に参加することはもちろん、警備任務に同行する理由もないのである。
そこで近頃の事件で使われている、ガジェットやナイトメアフレームの襲撃を理由にしようとも考えたライであったが、機動六課の所属である陸のメンツがそれを突っぱねたのである。
ライの意見の回答はこうである。『陸の部隊が警備する地上本部は、設計面でも人員面でも民間人に協力してもらわなければならない程ヤワではない』というものであった。
ライが今回の警備任務に参加しないことが決定した時点で、六課の隊長陣はある意味安堵していた。彼女たちはライを事件に巻き込んだことを後ろめたく感じていたことと、今までライが事件に関わることで、ライ自身が自らを顧みない行動をとることが多かったからだ。それを裏付けるように、ライが六課の医務室を利用する頻度はフォワードメンバーよりも高いことが記録として残っている。
ライは自分が今回参加できないことを理解はしていても納得はしていなかった。なので、今自分を抑えるために自室にこもって瞑想しているのである。
時間が流れると同時に気持ちを落ち着かせていく。
本来なら、これぐらいの自己のマインドコントロールはライにとっては簡単であるのだが、ルルーシュやスザクの時の様に自分が何もできずに最悪の事態が起こってしまうかもしれないと考えると、いつもどおりの冷静さは保つことが出来なかった。
「…………」
第三者が見たら、彫像と間違えるのではないかというほどに微動だにしないライ。このまま永遠にこの風景が続くと思われる中、それは唐突に破られる。ライのすぐ近くに置いておいた蒼月とパラディンが光とアラームを発したのだ。
「マスター、時間です」
「うん」
短いやり取り。それだけでこの部屋での会話は終了し、ライは日が落ちて暗くなった自室を後にした。
時間を教えた蒼月の言葉にライはいつもの落ち着いた声音で答えることが出来ていた。
機動六課・ヘリポート
今回の警備任務は前日からの夜間から行われるため、出動自体は夜に行われる。その為、六課の隊員の移動手段であるヘリの発着場にフォワード陣は集まっていた。
今回の任務の予定や内容を確認し終えると、先行部隊であるスターズ分隊、エリオ、キャロ、リィンフォース、ギンガがヘリに乗り込もうとしていた。だが、その場に現れた人物に気付き一同は一旦立ち止まり、その人物に視線を送った。そしてその人物の名前を一同を代表するようになのはが呟いていた。
「ライ君、ヴィヴィオ」
新しくヘリポートに現れたのはライと、そのライに抱えられたヴィヴィオであった。
一同がなんでここに2人が来たのか疑問に思っていると、ライがヴィヴィオを地面に降ろす。降ろされたヴィヴィオは足が地面に着くといつものように、ひょこひょこと歩きながらなのはの方に歩いて行った。
取り敢えずなのはがヴィヴィオの視線に合わせてしゃがむと、ヴィヴィオに尋ねてみた。
「ヴィヴィオ、どうしたの?もう寝る時間だよ」
「う……ごめんなさい」
咎められたと思ったのか、ヴィヴィオは少し泣きそうになりながらもなのはに謝る。よく見ると、ヴィヴィオの目の周りが少し赤くなっており、眠いのを我慢するために目をこすっていたのが見て取れた。
言い出しづらいのか、ヴィヴィオは何度が口を開けたり閉じたりしている。だが、今は出発前で時間もないため、なのはは見上げるような形でヴィヴィオの近くに立っていたライの方に疑問の視線を投げかけた。
「ヴィヴィオがなのはに見送りをしたいって僕に頼んでいたんだよ」
「え?」
「ここ少しの間、皆がピリピリしていたから不安だったんだと思う」
そう補足するライであったが、本人は自分が原因の一端であることを理解していた。これまでと同じで、ヴィヴィオと一番長い時間一緒にいるのはライである。そして今回の件でピリピリしていたのはライも同じで、ヴィヴィオはそれが怖かったのだ。それを察したライはヴィヴィオに謝罪の意味を込めて今回皆がピリピリしている理由を大雑把に説明したところ、ヴィヴィオがお見送りをしたいと言ったのである。
「初めて見送った時になのはが笑顔になったことを覚えていたんだ」
そのライの言葉で、なのははヴィヴィオが初めて「いってらっしゃい」と言ってくれたことを思い出す。
「ヴィヴィオ」
「……うん」
ヴィヴィオの気持ちを鼓舞するようにライは名前を呼びかける。すると決心するようにヴィヴィオがゆっくりと口を開いた。
「あの……ね、なのはママ」
「うん」
「いってらっしゃい」
「うん!」
その言葉が嬉しくて、なのはは笑顔と抱擁をヴィヴィオに返した。そのヴィヴィオは緊張が切れたのか、重くなった目蓋を閉じようとしていた。
ヴィヴィオを抱え上げたなのははライにヴィヴィオを渡した。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、ヴィヴィオと2人で待っているよ」
そう笑顔で返し、ライも出撃する皆を見送った。
機動六課・廊下
眠ってしまったヴィヴィオをライは寝室であるなのはとフェイトの部屋に向かっていた。その横には、フェイトも一緒である。ヴィヴィオが起きないように静かにしていた二人であったが、唐突にフェイトが喋り始めた。
「なのはが少し羨ましいな」
「?」
「私はエリオとキャロから、そんな風に呼ばれたことがないから」
苦笑気味にそう答えるフェイトに、ライはあることを思い出し言葉にする。
「フェイトはヴィヴィオの後見人だから、もう1人のママになるんじゃないかな?」
そのライの言葉にキョトンとするフェイト。それが可笑しくて笑みを零しながらライは言葉を続けた。
「明日の朝、出かけるときにヴィヴィオに教えてあげるといいよ。きっと喜ぶと思うから」
そう言って、ライは優しくヴィヴィオの背を撫でる。その2人の姿がとても美しく見えて、フェイトは視界に自室の扉が映り、それを見続けることができないのを少し残念に感じた。
機動六課・ロビー
公開意見陳述会、当日。
その日、フェイト達を送り出してからライは生活スタッフであるアイナと六課に残留組のザフィーラにヴィヴィオを任せ、ライはロビーのテレビを見ていた。テレビに映っているのは陳述会の中継である。それをいつもよりも真剣な表情をしながら見ているため、ライの周りにはあまり人が集まらなかった。
(事が起こされるのなら…………陳述会の終盤、夕方か)
自分が管理局に対して襲撃をかける場合のシュミレーションを頭の中で組み立てていく。そして自分の中での引っかかりを言葉にして、思考の中に浮かばせていく。
(例の予言が正しいものと仮定して、何を持って管理局を崩壊とみなす?)
ライの中での疑問はそこであった。管理局という組織は良くも悪くも肥大化している。それこそ、一つの世界に収まりきらないほどに、だ。
(全ての管理世界に存在する組織を同時に消す?いや、それはいくらなんでも現実的ではない)
子供でも考える、一番簡単な崩壊を予想するがそれをバッサリとライは否定した。
(管理局のトップがほぼ集まる今回の会議を襲撃するのはいい手だ。だが、ガジェットとナイトメアフレーム、そして戦闘機人だけでは決定打が足りない)
元々、魔法有りきの戦闘を行ってきた管理局ならいざ知らず、戦術というものを把握しているライにとってはガジェットやナイトメアフレームの装備するAMFをあまり問題視していなかった。
「…………切り札を隠し持っているのか、それとも勝たなくてもいいのか?」
自分が行き着いた予想を口に出してみると、ライはなんとなくそれが正解のように思うことが出来た。
そして時が経ち、空が朱く染まる頃、戦闘の幕が上がる。その幕がいつ、どのように降りるのか、それは未だ誰も知らない。
唯一、その予定表を知っている人物は、誰も見ていないところで高らかに開幕の宣言を行っていた。
後書き
ということで、いよいよ終盤です。
次回から少しの間戦闘描写が続くかもしれません。
まぁ、作者的にはライの関わりがある部分しか書かないと思いますが(^_^;)
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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