黒い烏が羽ばたく魔世に
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第零章 「グレン・ポッターと魔法の世界」~Glen Potter and The Wizarding World~
2話 happy birthday!「お誕生日おめでとう!」
あの後、オレはこの世界が何処なのか、そして父に対してのなんとなく見覚えのある感覚の正体はなんなのかをずっと考えた。そして何日かしてオレがようやく気付いたことは、父の姿がどことなく昔、読んだ本の主人公ハリー・ポッターのイメージと似ていることだった。
ひょっとしてオレは、本で読んだハリー・ポッターの世界に迷いこんでしまったんじゃないだろうか。本とかで良く見る、転生というやつだ。
正直言って死んだ記憶や覚えなどは全く無いが、オレはこの世界に生まれる前は至って普通の日本人をしていた。無論、魔法力を含め特殊な能力など持ち合わせてなどいない。
ただ何か個性を上げるとすれば、オレはファンタジーやSF系などの架空の話が大好きで、本やマンガやアニメに強くのめり込んでは現実から逃避しながら生きていた。もちろん、ハリー・ポッターだって子供の頃から読んでいた本だ。だから、ハリー・ポッターの世界にやってきたことは、たとえ夢を見ていたとしてもオレにとっては万々歳な状況だ。
ただ、この世界についてオレは早速問題点を発見してしまった。オレの父はハリーポッターではなく、ハリーの父であるジェームズ・ポッターだった。
たまたま父の名前をはっきりと聞いてそれを知った時から、オレは嫌な予感を徐々に感じ始めた。
まず、ジェームズ・ポッターの子供は本来、物語の主人公であるハリー・ポッターしかいない筈だ。しかし、ハリーの代わりにオレが生まれ、しかも名前もグレンという本来存在しない筈の別の人物になっている。ひょっとしたら、ハリーの兄となる可能性も無くはないかもしれないが、その期待は望み薄であろうことも何となく感じた。
ジェームズ・ポッターの妻である―つまりオレの母だが―彼女もリリー・エバンズとは別の人だったのだ。
つまり、オレが知っているハリー・ポッターの世界とはこの世界は少し異なっている。
オレが来たから捻じれてしまったのか、捻じれてしまったからオレが生まれたのか、どちらが因果なのかは分からないが、どうやらこの世界ではオレがハリーの代役のような立場になるようだ。そして、ヴォルデモートと戦う運命も。
それをオレがはっきりと確認出来たのは、あれから数か月後のオレの1才の誕生日の日だった。
その日は、随分と慌ただしかった。
朝早く、ベビーベットの上で心地よく眠っていたオレは何者かが窓のガラスを何度も叩く音に起こされた。
母親が窓を開けると、そこから家に1匹のフクロウが入ってきた。そこから、今日の大騒動が始まった。
暫らく経たないうちにもう一匹、さらに暫らくして二匹、そしてさらにもう一匹他のフクロウが運んでいる物よりも大きな荷物を運んでいたフクロウが窓から部屋の中に飛び込み、そのまま半ば墜ちるような滑空をしながら真っ直ぐオレの元まで飛んでくる。そのフクロウはそのままオレの額に激突した。
効果音をひらがなで表現するなら『ぐ さ り』だった。フクロウが真っ直ぐ飛んできたのだから方向を見て常識的に考えても、フクロウの顔についているクチバシが刺さるに決まっている。
これは、いくら精神年齢が高いオレでも(そもそも体は生まれてから1年ぐらいしか経たない赤ん坊であるからして)そうそう耐えることの出来るようなモノではなかった。
「うぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
意識のどこかで出血していることを感じながら、オレはあまりの痛みに叫び声とも泣き声とも悲鳴とも言い難い声を発する。その泣き声を聞いて慌てて駆けつけた母は、オレの怪我を見て驚き、すぐに杖を取り出した。
『エピスキー!傷口癒えよ!』
母がオレに杖を向けて呪文を唱えると、オレは自分の額が熱を出したように熱くなったのを感じた。母は呪文を唱え終わると、すぐさまオレを抱き上げて頭を撫でた。
『あぁ・・・よしよし、痛かったわね・・・』
やがて、母にあやされている頃には、オレの額の痛みも熱もいつの間にか消え去っていた。その後血糊を母に拭ってもらうと、すっかり泣き止んでいたオレは、先ほどのフクロウに対しての恨みも忘れて、逆にそのフクロウが運んできた大きな荷物に興味を惹かれた。
その荷物は、オレの身長よりももう少しありそうな大きさの荷物だった。どうやら、あのフクロウは一匹でこの荷物を運んできたらしい。それを考えると、恐らくこの家にたどり着いた時にはフクロウの体力の限界で、オレにぶつかりそうになっても方向転換が出来なかったんだろう。
あやされるのも充分になったオレは、荷物が気になることを手を伸ばしながら声を上げて主張した。
「だーぉ」
『あら、あのプレゼントが気になるのね?はいはい、ちょっとまってね・・・』
母はオレをベビーベットに座らせると、プレゼントらしい荷物をオレの目の前で開いてくれた。オレはそのプレゼントにメッセージカードが付いていることに気が付いた。
【Dear Glen
Happy Birthday!
From Padfoot】
生前の知識のおかげでメッセージカードの文章を理解できるオレは、その内容を見て驚いた。どうやら今日は自分の誕生日だったようだが、オレが驚いた理由はそれとは違う。
だがその驚きも、次にそのプレゼントの中身を確認した時の驚きと比べたら小さな物だった。
『まぁ!これは・・・!』
母が開けたプレゼントの中には、大人が使うには少し小さめの長箒が入っていた。オレは一瞬でそれが掃除をするための物ではないことを悟った。だって、ここは魔法の世界だろう?
母はプレゼントの箒をオレの目の前まで持ってきて、オレによく見せてくれた。
『グレンはまだ小さいからきっと自分の1歳のバースデーだなんて気づかないでしょうけど、シリウスからのバースデープレゼントよ!』
それは、本来の物語でシリウスがハリーの1才の誕生日に贈ったおもちゃの箒だった。オレは喜びと感激とこれからの期待に、ついつい顔をニヤけさせた。
ちなみにその後、オレはおもちゃの箒を心行くまで乗り回した訳だが、ついつい調子に乗りすぎてペットの猫をあやうく轢いてしまう所だったがそれはまぁ、詳しくは話さなくても良いだろう。
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