ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第41話 指輪の秘密
その後に、シリカが催促していたチーズケーキが運ばれてきたのは、最後だった。出される順番を考えたら妥当だろう。 《チーズケーキ》なのだから。デザートは最後だ。
勿論、シリカは別の事を誤魔化したかった為、はっきり言ってどっちでも良いのだけれど……、顔が赤くなるのが中々、止められなかったようだ。誤魔化しつつも、何とか過ごしていた。
とりあえず、シチュー・黒パンを食べた後、そのシリカ オススメのチーズケーキを頂いた。
そして食事を終えたときには既に時刻は夜8時過ぎ。リュウキにとっては昼夜の時間帯はあまり関係ないのだ。その事をシリカにそれとなく言った所。
『夜は休むものですよ? 睡眠は大切ですよっ!』
と、シリカに諭されたのだ。そう言う訳で、リュウキは、彼女と同じパーティを組んだのだ。それに、リュウキ自身 元々誰かとパーティを組んだ以上は、自分勝手な行動はするつもりも無かった。
そして、食事を終えた後、3人は風見鶏亭の2階に上がった。
その広い老化の両脇にずらりと客室のドアが並んでいる。客室を選べるというシステムは備わっていないから、基本的に部屋位置はランダム仕様だ。だが、偶然にも3人は並びの部屋だった。
シリカにとって、その部屋並びを見て嬉しかったのは言うまでもない。部屋が傍だから 安心出来た、と言う事が本当に嬉しかった。
そして、シリカは 自分の部屋に入り。キリトとリュウキに貰った装備を確認していた。
まずは、キリトに貰った短剣の練習を行う。実践で武器が使えない程、危ないものは無いからだ。全てを2人に頼る訳にも、いかないから。
それは今までの愛剣よりいくらか重量感のある武器に意識を集中しようとするんだけど、やっぱり、胸の奥がズキズキ、と鳴る。だからか、短剣のソード・スキルの発動が上手くいかなかった。
それでもどうにか失敗無く五連撃を出せるようになったので、次はリュウキに貰った装飾品を確認していた。実は、その装備品が一番シリカは気になっていた物だったのだ。貰った装備に、2人に優劣付ける事などはしない。 気になった理由は、キリトが言っていた言葉、『君が47層で死ぬような事は無い』にあった。
それがあったからこそ、気になっていたのだ。
これから行く層は、47層。基本的安全マージンは層+10は欲しい所だから、レベルにすれば57は欲しい。
シリカ自身の現在のレベルは44。
そして、キリトがくれた装備追加で4,5レベル上昇、故に、どう見積もったとしても、精々50前後のレベルの筈だ。
だけど、キリトははっきりと言っていた。『君が47層で死ぬような事は無い』と。
(これ……どんなんだろぅ……? ッ……)
シリカは、リュウキがくれた指輪を見て……、更に顔が赤くなってしまった。そして、指に嵌ったそれを見て、更にその顔は赤く……濃いものに染まった。異性から……指輪をプレゼントされたと言う事実を改めて感じていたのだ。
(こ……これが、エンゲージ……って あたしは何をっ///)
指輪の事を考え、そんなわけないない! と思いっきり首をブンブン振る。
そして慌ててその武器の性能を特殊効果を確認した途端、だった。
さっきまでの、まるで炎で炙られたかの様に熱くなった顔、恥かしい想いよりも、驚きの方が圧倒的に上回るのだ。
「なっ……なにっ!? これは………ッ」
シリカは絶句してしまった。。
アイテム名:《エメラルド・リング》
『森の加護を受けている聖なる指輪。自然エリアであれば、敏捷度・防御効果が25%向上。バトルヒーリング効果有 10秒/500HP』
書かれている内容だ。……その説明ウインドウを見て何度も何度も、目をぱちくりとさせていた。何度も何度も、説明文を確認し続ける。
「っ……っ………!」
シリカ自身も《エメラルド・リング》と言う名前は、聞いたことあるとは思っていた。確かそれは、SAOではなく 別のゲームだが強力なアイテムだと記憶している。だけど、ここまで凄い力があるものだと思ってもなかったのだ。それに、シリカは、驚きのあまり言葉が出てこない状態になってしまっていた。
思わずシリカは、叫び声を上げてしまいそうだったけれど……声が外に透過してしまうから必死に堪える。
「なんっ……でこんな凄いものを………?」
それは、きっと 一生かけても返せそうに無いほど膨大な金額に上りそうなものだった。
そもそも、この世界で、パラメーター数値が、《%単位》で上昇する装備をこれまでに見たことがない。通常、一般には+1~10程度だった。
%数値で上がると言う事は、装備した時に上がるだけじゃない。レベルが上がって上がって、……更にその装備の効果も増すと言う事だ。強くなれば、更に強くなる。考え方、使い方によれば、ゲームバランスを崩しかねない物だとも思えのだ。
これ程までに強力な装備、値段なんて……つけられる物じゃない。
「幾ら……25%上昇が50層までの効果、といっても……。50以上でも……十分な効果じゃ……いやっ十分す過ぎる気が………」
勿論、際限なく上がり続ける訳はない。その最後の行に但し書きもある。そこには、先ほどの効果は《50層以下まで》、と書かれているのだ。その50以降の層は、《25%が+25値上昇》になっている。
そうだとしても、それでもかなりのレアアイテムだと思った。
そして、25%上昇の凄さのせいか、影が薄くなっているのが、戦闘時自動回復効果だ。
そもそも、この戦闘時自動回復スキルも、取得は勿論、鍛えるのも難しい過ぎるスキルの1つだ。鍛える為の条件が、戦闘時に大ダメージを受け続けなければならない。
基本的に、ダメージを受ける事は回避しなければならない事だから、拷問も良い所であり、危険度も高い。故にこのスキルは《超高レベルの戦闘スキル》として有名だった。
中堅層内では、まず鍛えているプレイヤーは疎か、習得出来ているプレイヤーだっていないだろう。
これだけの豪華なスキルの盛り合わせだ。……だからこそ、キリトはシリカが死ぬ事は無いといってくれたんだろう。生命力は文字通りHPであり、それが0にならない限り、死ぬ事はありえないから。
それを守るのが自身の防御力。強力な防具がある上に指輪の恩恵を受ければ、殆どの攻撃を防いでくれるのだ。そして、ダメージを受けたとしても、追加効果であるバトルヒーリング効果もあるから。
「は、はぅ……」
シリカはあまりの驚きの連続だったから、必死に気を落ち着かせていた。
「ふぅ………」
何とか落ち着きを取り戻す事に成功すると、次に思うのは謝礼だ。
「キリトさんとリュウキさん……2人にもっとお礼を言っておかない……と……っ」
やっぱり、2人の事を考えると心臓が高鳴るのが止められない。まずは、どっちに礼を言えばいいだろうか? どちらから言えばいいだろうか?
(キリトさん? リュウキさん?? ……わからないけれど、出来たら同時が良いなぁ)
シリカはまた、混乱しそうになっちゃいそうだから、直ぐに頭を振った。
そして、全てを確認し終えた後、武装を解除をし 下着姿でベッドに倒れこんだ。壁を叩いて、ポップアップメニューを出して部屋の明かりを消す。
ピナがいなくなってしまって、広いベッドで凄く心細かった。
散々ゴロゴロとしていたから寝ることを早々に諦めてシリカは上体を起こした。
「――もう少し お話してみたい……かな」
シリカはそう思う。でもよくよく考えると、そんな自分にちょっと戸惑ってしまった。相手は知り合って直ぐ、それも半日だ。しかも、2人とも男性プレイヤーだ。
これまで一定距離以内に近寄る事を頑なに避けてきたのに、なんでだろう? なんでこんなに2人が気になるんだろう?
シリカは、考えて……考えて……、考え続けると、時間が経つのが凄く早かった。何も考えず、眠ろうとした時は、凄く遅かったのに、今は気が付いたら、もう10時を示していた。
シリカはそれを確認すると、ごろり、と再びベッドに寝転んだ。
宿屋の部屋の窓下の通りを行き交うプレイヤーも少なくなって足音も途絶えてかすかに犬の遠吠え……多分設定上のものなんだろうけど、それだけが聞こえてくる。
「―――……う~ん、寝られないなぁ……やっぱり」
シリカは、どうしても意識を手放す事が出来ず、再び上体を起こした。
そんな時だ。
“コンコンコン………、と自分の部屋の扉からノック音が聞こえてきた。はっきりと部屋の中に聞こえてくるのだからこれは、気のせいじゃない。ドアを透過する事ができるのは3つしかないから判りやすいのだ。
「ひゃぁっ!」
色々と考えていた時に突然、音がなったから、シリカは驚きながらドアの方を見ていた。
『あ……シリカ、ごめん。寝てた?』
その声から どうやら、扉の向こう側に居るのはキリトのようだ。
「き……キリトさんっ?」
『ああ、47層の説明を忘れてて……明日にしようか?』
シリカは、それを聞いて 内心とても嬉しかった。自分もキリトと話をしたかったからだ。ベッドから降りると、ドアへと近づく。
「良いですよっ! あたしも色々聞きたかったところで……っ」
シリカは、ノブに手をつけたその時、気が付いた。今の自分自身の姿に、だ。……今は寝るときいつもなっている下着姿。あられもない姿だ。 今、このまま扉を開けてしまえば……?
「~~~~ッ///」
正気に戻った、シリカは 慌ててキリトに待って欲しいと伝えると、素早く装備ウインドウを呼び出していた。
その後、シリカは、暫くキリトと目をあわせられなかった。
その間に、キリトは部屋に備え付けてあるテーブルを準備、そしてアイテムを準備していたんだけど、シリカの表情に気が付いたんだろう。
「……ん? どうかしたのか? シリカ」
「ひぇっ!? な……なんでもないですよっ!」
慌てているように見えるが、とりあえずキリトは進めた、テーブルの上にアイテムを置いた。そのアイテムは水晶球だ。それはまるで光を放っているかの様に青く輝いている。
「わぁ……綺麗です。なんですか? それは」
シリカは、恥ずかしさをすっかり忘れ、思わずそう呟いて聞いていた。
「これは、《ミラージュ・スフィア》って言うアイテムだよ」
キリトが水晶を指でクリックするとメニューウインドウを呼び出す。そして、手早くOKをクリックすると……球体が青く発光し、その上に大きな円形のホログラフィックが出現した。どうやら、アインクラッドの層ひとつを丸ごと表示しているらしい。街や森、木の一本に至るまで微細な立体映像で描写されている。システムメニューで確認できる簡素なマップとは雲泥の差だ。
「うわぁぁ……」
シリカは、夢中で青い半透明の地図を覗き込んでいた。目を凝らせば、そのリアルな風景に人が行き交うところまで見れそうな気がする。
「まぁ、今、リュウキもいたら 更に細部にまで判る事もあるだろうけど。生憎、オレは細かな所までは覚えてないからなぁ……」
キリトは、頭を掻きながら苦笑いをしていた。それを訊いてシリカは リュウキが来ていない事に漸く気づいた。いつも、キリトとリュウキは一緒、だと言う印象を勝手に描いていたから。
「あれ……? そう言えばリュウキさん、は……?」
「ああ、アイツなら『説明だったら、キリトがいれば十分じゃないか?』と、言って部屋から出てこなかったなよ。色々と説明を、とも思ったんだけどな」
キリトは、そう言って苦笑いをしていた。
「……そうですか」
シリカは、この時少し残念だった。確かにキリトが来てくれた事は嬉しい事だし、正直、残念だとは思いたくない。
(―――でも、リュウキさんともお話したかったなぁ)
そう、シリカは思っていたからだ。お礼を言うべき相手は、キリトだけじゃなく、リュウキもだから。
「あっ……あたし、ちゃんとお礼を言わないと……」
キリトの方を向いて頭を下げた。
「あのっ、頂いたアイテム……確認しました。あんなに高価なものを無料だなんて……」
「ああ、本当に良いって良いって。 装備が余ってたって言うのは本当だし」
キリトは両手を振っていた。
「それでもっ……凄い装備ばかりだったし……リュウキさんのあのリングもそうだし」
「はは……、まぁ それは確かにオレも思うよ。あんなレアなアイテム オレも滅多に見ないしな」
キリトもリュウキのあのアイテムには、当初は驚いたものだった。そのアイテム自体はは、前々から知っていたものであり、β時代にも、半ば伝説となっていたアイテムでもあった。第1層の時点で行わなければならないクエストだから、取れる者など殆どいなかったからだ。
何故なら、その難易度は正に理不尽としか言えない程のモノだから。
最早、クリアさせない様に設定になっているとしか考えられないから。β時代、プレイした時は蹴散らされた記憶がある。即ちあのアイテムを手に入れるのは実質。
「無理げーなんだよ。あの時点で、あのアイテムを入手するのは。でも アイツはやっちゃってるからなぁ……。はぁ、ほんと一体どうなってるんだか」
リュウキの事はキリトも、お手上げと言わんばかりに言っていた。
「はぁ……」
キリトの言葉を訊いて、シリカはきょとんとしていた。キリトの実力は十二分に見たと思う。助けて貰った時の事は、ピナを失った間もなかったから、はっきりと見ていなかったけれど、襲ってきたドラゴンエイプは3匹。つまり3匹モンスターを一瞬で葬った事は間違いない。それも この層のモンスター最強種を3匹も、だ。
それを改めて考えたらやはり、実力はかなり高い。あの後の表情は、余裕そのものだった事もそうだ。だからこそ、キリトの実力は見た目に2乗するとも思っていた。
でも、そのキリトでもリュウキを見る目に関しては、それ以上のモノの様だ。
そして、シリカはもう1つ感じる事もあった。
「キリトさんと、リュウキさんの お2人は、とても仲良しさんなんですね?」
シリカは、ついついそう訊いていたのだ。……この2人を見てるとそう思ってしまうのだ。2人のやり取り、そして仕草を見たら、どうしても。
「……んん。 少し、違うかな。アイツは、オレにとって目標みたいなものなんだ。追いつけるようにオレも頑張らないといけない相手、だからなぁ。仲は、まぁ……確かに悪くはないけど」
キリトは、そう言い遠い目をしていた。仲が良いか、悪いかと言われれば、キリトの言う通り、間違いなく前者だ。だけど、追いつくべき目標だから。仲良しより、目指すべき場所、と思う気持ちの方が強かった。
「………」
シリカは、それを訊いてて、『なんだか良いな』……と思っていた。ライバル同士だとシリカの中では解釈をした。
そして、物凄く信頼しあってるとも思えていたのだ。そして、きっとリュウキもキリトの事も、凄く信頼しているんだって思える。だからこそ、2人は一緒に行動をしているんだと。
「ああ、話がそれちゃったな。47層の事だけど」
キリトは、水晶に視線を戻した。
「あっ、はいっ!」
シリカも、一先ずそちら側に集中していた。
「ここが主街区で、ちょっと厄介なんだ。それで、こっちが……っ!」
キリトが指差し説明していたその時だ。
突然の大爆発の様な轟音が突然起こったのだ。部屋の外にまで聞こえてくる轟音は、シリカは勿論キリトも驚かせた。
「ッ!!」
キリトは、驚きこそはしたが、直ぐに動くと、部屋の外へと飛び出た。シリカは あまりに突然だったから、直ぐに動く事は出来ず、身を固くしていた。
ここは宿屋だし、圏内だ。
トラブルなど、ある筈も無い。これまでだって1度も無かったのだ。
そして、キリトが外へ出て見ると。
「リュウキ?」
そこには、リュウキが立っていた。宿屋の中だと言うのに、リュウキの手には片手剣が握られていた。
「え……、リュウキさんっ?」
シリカも漸く動く事が出来、外に出てこれていた。
「……お前達の会話、聞かれてたみたいだ」
リュウキは廊下の先を睨み付けていた。
その突き当りには窓があり、そこが開けられていた。夜風が吹き込んできていて、備え付けられていたベージュ色のカーテンが靡いている。
「……それでどんなヤツが、訊いていたんだ?」
キリトも険しい表情をしながらリュウキにそう聞いた。
「ん。……不穏な感じがしてな。外に出てみたんだが、男だと言う事だけしか判らなかった。……まぁ、ありきたりだが、フードを身につけてて、素顔までは、判らなかったが体型からは男だと判った。(……多分、例のだな)」
リュウキはそのまま、視線をキリトの方にする。最後の方はキリトにだけ聞こえるように言っていた。そして、指をさす。
「……あの窓から逃げられた。 まあ、そのまま追いかけて、とっ捕まえようと思ったんだがな。こんな夜中に街中で、だったら近所迷惑から止めておいた。……あまり、他のプレイヤー達に迷惑はかけれない、だろう?」
リュウキはそう言うと意味深にウインクをしていた。
「……ああ。そうだな。」
キリトも頷いた。シリカにあまり不安を与えたくない、と言う思いがある事は、キリトにも判っていた。
「えっ……で、でもっドア越しになんて……ノックもありませんでしたし、声は聞こえないんじゃ……」
シリカは、不安感は、そこまで無かったが、納得がいかないようにそう言っていた。そう、ドアを透過するのは以前にも紹介したように3つだけしか無い筈だから。
だが、方法が無い訳では無い。 一応エクストラ・スキルだからこそ、シリカは知らないのだろう。
「……聞き耳のスキルだ。そのスキルをある程度上げたら扉越しにも訊く事が出来る。……そんな姑息なスキル、上げている奴中々いないがな……」
リュウキがそう答えていた。盗み聞きをする為のスキルだ。確かにRPG系のゲームでは 便利なモノだと思うが、盗み、と言う名の付く行為は褒められたものじゃない。
「えっ……、でも何で? あたし達を……?」
シリカは気になっていた。
これまで……そんな事本当に無かった。いや……、ひょっとしたら、自分では気づいていなかっただけの可能性がある。何故なら、今までそんなスキルがあることさえ知らなかったから。
「……深く考えなくて良いだろう」
リュウキは少し強張った表情のシリカにそう言った。
「そうだな。何かあるなら、直ぐに判るだろう。もういないみたいだし。大丈夫だ」
キリトも笑顔に戻しシリカに笑いかけた。
「は……はい」
シリカはその表情を見て、2人を見て凄く安心できた。不安感も吹き飛ぶ程である。
「ああ、そうだ メッセージ打つから、ちょっと待ってくれ」
キリトはシリカにそう言うとメッセージを打っていた。
「…………」
リュウキは、シリカの部屋の扉越しにもたれ掛かり、腕を組んで両目を瞑っていた。どうやら、見張りをしてくれているようだ。気配がすれば、直ぐに飛び出せる様に。
(――……ひょっとして……あたしが……安心できるように?)
シリカは、そう思っていた。自惚れかな、とも思えるが……それでも。リュウキの口数は少し少ないけど……凄く伝わってくるんだ。自意識過剰なんかじゃない。とても優しいと思うから。
だから、シリカは ふっ……と体から力が抜けた。よくよく考えたら、今日は大変な1日だった。パーティで《迷いの森》を探索していたのもそうだし、喧嘩をした事もそう、その後襲われて、ピナを失い……、絶望して、そして2人に出会って。
色んな事が沢山起こって、疲れていない訳が無い。
うとうととしていたシリカは、キリトのメッセージを打つ後姿は、遠い現実世界のお父さんの後姿に見えていた。何時も、気難しそうにパソコンを打つお父さんに。決して 言葉は多くは無いけれど、自分を愛してくれていたお父さんに。
その姿はリュウキとも被る。寡黙だけど、しっかりと守ってくれたお父さんに。安心をくれるお父さんに。
……シリカは、何処か、忘れていた温もりを思い出した。
包まれているような温もりを思い出し、そして シリカはいつしか目を閉じていた。
心地よい温もりを一身に受け 安心して眠る事が出来たのだった。
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