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戦国異伝

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第百三十六話 思わぬ助けその十二

「あの方もですか」
「あの程度のことでどうにかなる方ではありませぬ」
 羽柴は生きる、絶対にだというのだ。
「必ず戻って来られます」
「左様ですか」
「確かに退いていますが次があります」
 今の織田家はそうだというのだ。
「ご安心下さい」
「そうですな」
「ただ。一つ気になることは」
 松永は朽木に顔を向けて言った。
「朽木殿は文を貰いましたか」
「文とは」
「どなたから」
「いえ」
 目をしばかせてだ、朽木は松永の問いに答えた。
「そうしたものは特に」
「左様ですか」
「あれですか、公方様が朝倉殿に出された様な」
「御存知でしたか」
「ちらりと聞いたことがあります」
 朽木も知っていることだった、そのことを今眉を顰めさせたうえで松永に対して答える。
「あくまでちらりとですが」
「左様でありますか」
「はい、今や幕府には何の力もありませぬ」
 砦でも話したことであるが松永も深く関わっていることだ、今の幕府では都一つ満足に治められない、最早完全な神輿だ。
 将軍である義昭とてそれは同じだ、しかし彼はそれでもなのだ。
「ですが。殿のお言葉を疎ましく思われ朝倉殿を煽るということは」
「天下を乱してしまいますな」
「必ずや」
 そうしてしまうというのだ、朽木にもわかっていることだ。
「最早殿にもたれるしかないのが今の幕府ですが」
「公方様はそれがわかっておられませぬ」
 松永ははっきりと言った。
「そう思われますな」
「天下は殿が導かれます」
 必ずやそうなるというのだ。
「それがしもそれがわかりました」
「左様でありますか」
「今の公方様は大層危うい方です」
 朽木は今は遠慮しなかった、義昭について思っていたことを話していく。
「朝倉殿だけでなく他の大名の方々にもそういうことをされれば」
「天下が乱れる元ですな」
「そう思います、どうしたものか」
「武田殿に上杉殿、毛利殿、北条殿」
 松永は天下の有力な大名達を挙げていく。
「そうした方々に文を送られれば」
「それにあの方々が乗られれば」
「天下は乱れます」
「それをお止めするにはどうすれば」
「さて」
 松永はこのことは答えなかった、あえてとぼけた感じだった。
「それは殿がお考えになられることです」
「我等はその殿についていくだけですな」
「左様であります」
「しかしです」
 朽木は今度は松永を見て言った、その彼をだ。
「弾正殿は果たして最後までそうされますか」
「殿に忠義を持っているかということですか」
「それがしも同じ見方です」
 やはりはっきりと言う、朽木は松永に対して今度は心から怪しむ目で見つつこう言ったのである。
「弾正殿は」
「裏切るというのですな」
「そうされませぬか?」 
 疑う声はそのままだ。
「果たして」
「そのつもりですが」
「その言葉信じる者はいないかと」
 朽木自身にしてもそうだ。
「そう申し上げておきます」
「ですか」
「殿は不思議と信じておられる様ですが」
 だがそれでもだというのだ。
「それがしが言うのも何ですが」
「申し上げましたがそれがしは殿が好きです」
「そして織田家も」
「左様です」
 このことは間違いないというのだ。
「だからこそ今も青なのです」
「三好家の時もそう仰っていませんでしたか」
「長慶様ですか」
「三好殿と弟君達を亡き者にされましたな」
「そのことですが」
「違うと申されるか」
 やはり信じていない言葉だ、朽木は織田家では新参者に当たるがそれでも松永についてはこう言うのだった。
「そのことは」
「それがしが真実を申し上げたとして信じられますか」
「無理ですな、それは」
 松永は嘘を言う、それが世評である。だから朽木もこう言う。
「到底」
「そうでありますな」
「貴殿の申されることは真であろうが偽であろうがです」
 どちらにしてもだというのだ。
「信じられませぬ」
「そういうことになりな」
「どう聞いても三好家のことはです」 
 松永がその屋台骨を食い荒らしたというのだ。
「そう思ってしまいます」
「ではその様に思われて下さい」
「そうさせて頂きます」
 朽木は松永自身に彼を信じていないということをずけずけと言った、そうしてだった。
 彼は信長と共に都に向かう、信長はようやく虎口を脱した。


第百三十六話   完


                       2013・5・8 
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