万華鏡
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第三十九話 読書感想文その三
「まあうちのお母さんも谷崎はね」
「嫌いなの?」
「お父さんが読んでてこんな人の作品をって言ってたわ」
「こんな、ね」
「そう、こんなってね」
そう言ったというのだ。
「凄いでしょ」
「ええ、確かに」
「けれど昔は谷崎っていったら」
「そういう風に思われてたのね」
「国会でも取り上げられた位だから」
『鍵』という作品だ、芸術か猥褻かと議論になったのだ。
「有名だしね」
「しかも作風が、だったのね」
「美食倶楽部もそんな感じあるから」
耽美、それがあるというのだ。
「感想文には注意してね」
「書き方ね」
「うん、読むのは先生だから」
「余計になのね」
「国語の先生だから谷崎は知ってるけれど」
むしろ知らない方がおかしい、国語の教師なら。
「それでもね」
「書き方なのね」
「読書感想文は題材とそれを見るものだけれど」
書き方、それもだというのだ。
「特にね、谷崎はね」
「よく見てなのね」
「書いた方がいいから」
「この美食倶楽部でもなの」
「案外太宰だとね」
太宰治は谷崎以上に読書感想文の定番である、夏目漱石と並ぶ読書感想文の定番作家と言っていいであろう。
「楽だけれど」
「何となくわかるかも」
「でしょ?太宰の場合は」
「走れメロスとか富嶽百景とか」
琴乃は太宰の中期の傑作を挙げていく。
「そういう作品よね」
「読書感想文だと斜陽や人間失格が多いけれどね」
「書くのが楽なのね」
「危ない描写が谷崎程じゃないから」
だからだというのだ。
「楽なのよ」
「そうなのね」
「そう、けれど谷崎のその作品は確かに面白いから」
「読書感想文を書くにもなのね」
「読んでみて、それでね」
「すぐによね」
「書いてね、夏休みももうすぐ終わりだから」
それ故にだとだ、里香はハッパをかける様にして琴乃に言った。
「頑張ってね」
「うん、じゃあね」
「早速読む?」
「あっ、お家に帰って読むから」
そうして読むと答えた琴乃だった。
「ここではね」
「読まないのね」
「うん、お家で読んで」
そしてだというのだ。
「書くから」
「わかったわ、それじゃあね」
「それからね。とにかくこれで終わるから」
夏休みの宿題、それがだというのだ。
「頑張るから」
「それがいいかもね。とにかく書かないとね」
何もはじまりはしない、読書感想文だけでなく書くのならば全てそうだ。
「じゃあお家に帰ってね」
「頑張ってね」
「うん、じゃあね」
笑顔で話してそうしてだった、琴乃は里香に別れの挨拶をしてから自分の家に帰った、そうして家のリビングでその本を読んでいると。
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