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オベローン

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第一幕その五


第一幕その五

「このままではどうも」
「それでです」
 また右手の親指と人差し指を鳴らした。そうしてすぐに二人だけでなくパック自身の服も買えたのだった。それはアラビア風の服だった。
 ヒュオンはアラビアの貴人の服だった。上着は赤を基調としておりチョッキとシャツを着ている。ゆったりとした白いズボンが目立つ。靴は黒く先が尖っている。ターバンを巻いてそのうえで白い羽根で飾っている。シェラスミンとパックはそれよりもいささか質素で動き易い服だ。その姿になるのだった。
「この格好なら問題ないか」
「はい、問題ありません」
 パックがここでまたヒュオンに話す。ヒュオンとシェラスミンは今変わった自分の服を見回しながらそのうえで話をするのだった。
「ではバグダットに入りましょう」
「うん。しかしこの街は」
「物凄い大きさですね」
 二人で言い合うヒュオンとシェラスミンだった。
「確かに」
「こんな大きな街は見たことがない」
 ヒュオンはまだ城壁を見上げていた。そのうえで呆然とさえしている。
「フランクにも」
「この街は特別です」
 パックは呆然となる二人に平然として話すのだった。
「何しろ世界一の街の一つですから」
「世界一ですか」
「この街は」
「そうです」
 また答えるパックだった。
「中に入ればもっと驚きますよ。では入りましょう」
「何か物凄い街だけれど」
「中はもっと凄いのでしょうか」
 そんな話をしながら中に向かうのだった。その頃そのバグダットの宮殿では。
 宮殿の中は緑に満ちていた。南国の様々な草木が咲き誇り水が噴水から溢れ出ている。そこに鮮やかな色彩の華やかな服を来た乙女達がいて朗らかに笑っている。そのうえでそれぞれの手に様々な楽器を持ちそれを奏で歌っているのだった。
 その中に彼女達と同じく鮮やかな赤と黄色の服を着ている美しい少女がいた。黒い髪と瞳をしている。髪は絹の様に艶やかで腰まである。黒い瞳は琥珀の輝きを見せている。肌は薄い赤でそしてその顔は細やかで紅の唇が映えている。その彼女が今庭の中に一人座りそこから青い空を見上げていた。
「お嬢様」
 その少女に彼女より幾つか年上と思われる美女が声をかけてきた。少女よりも背は高くやはりその髪と目は黒い。肌も同じ色だ。知的な面持ちをしており利発な表情をしている。その彼女が少女に声をかけてきたのである。
「どうされたのですか」
「夢を見たの」
 少女は空から目を離してそのうえで彼女に告げた。
「夢を」
「夢ですか」
「そう、貴女は誰かを恋したことがあるかしら」
 今度はこんなことを言うのだった。
「誰かを。どうなのかしらファティメ」
「おや、恋をされているのですね」
 ファティメと呼ばれたその知的な美女は少女の今の言葉を聞いてにこりと笑ってみせた。そうしてそのうえでまた少女に言うのだった。
「そうですか。レツィアお嬢様もそんな御歳になられたのですね」
「おかしいかしら」
「おかしいとは申していませんよ」
 優しい笑みで彼女に告げるファティメだった。
「むしろ素晴らしいことですよ」
「素晴らしいのね」
「人は恋をするものです」
 ファティメはまた言ってきた。
「恋をしないといけないものです」
「恋をなのね」
「はい。そして夢を御覧になられたのですね」
「そうなの」
 またファティメに答えるレツィアだった。
「夢であの人に出会えたのよ。夢だけれど」
「夢だからこそですよ」
 ファティメは今度はこんなことを言うのだった。
「夢だからこそいいのです」
「夢だからいいというの?」
「夢はですね」
 さらに優しい笑みになってレツィアに話してきた。
「現実になりますから。夢と現実は裏返しですからね」
「そう。だったら」
 ファティメの今の言葉を聞いてレツィアの顔色が一変した。それまで物憂げだったものが晴れやかなものになる。そのうえで言うのだった。
「希望を持っていいのね」
「希望はいつも人と共にありますよ」
 ファティメは今度はこうレツィアに話すのだった。
「ですから御安心を」
「わかったわ。じゃあ」
 その顔をさらに晴れやかにされて応えるレツィアだった。
「あの人に会えるその日を待つわ」
「はい、是非共」
「ヒュオン、待っているわ」
 レツィアはここでまた空を見上げた。先程とは違う表情で。空は晴れ渡り青く何処までも続くかの様だった。その所々にある白い雲はさながら天の使いの翼であった。
 
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