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オベローン

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第一幕その三


第一幕その三

「これをな」
「この角笛は確か」
「そうだ、魔法の角笛だ」
 それだというのだ。
「これを持ってまずはヒュオンのところに行け」
「ヒュオンですね」
「彼には優れた従者もいたな」
 そのことも知っているオベローンだった。彼も愚かではないのだった。
「確か。そうだったな」
「その通りです」
 また主の問いに答えるパックだった。
「シェラスミンですね」
「あの従者もいる。都合のいいことにな」
「それではあの二人に事情を話して」
「そうだ。バグダットに向かえ」
 こう指示を出すのだった。
「それでいいな」
「はい、わかりました」 
 パックは明るい動作でオベローンの言葉に頷いた。
「それでは今より」
「頼んだぞ。さて」
 ここまで告げてそのうえで今度は左手だけ組み右手の人差し指を自分の唇に当ててまた考える顔になるオベローンだった。そうして言うのだった。
「どうなるかな」
「どちらの貞節がより上からですか」
「そうだ。それを見させてもらおう」
 彼は言うのだった。
「それをな」
「ではオベローン様」
「うむ」
「これよりはじめさせてもらいます」
「期待しているぞ」
 こう言葉を交えさせてそのうえでオベローンの前から姿を消した。そうしてすぐに向かったのは。 
 彼が姿を現わしたのはそのギエンヌだった。ギエンヌのある城に姿を現わしたのだ。
「公爵、何かあったのですか?」
「いや、何もないよ」
 ブラウンの髪に緑の瞳を持つ如何にも貴公子といった面持ちの背の高い若者がいささか小太りで愛嬌のいい顔の黒い髪と瞳の赤ら顔の若者の言葉に応えていた。
 若者の服は品があり豪奢なものである。赤い丈の長い上着に青いマントとズボンといった服である。腰には剣がかけられている。
 赤ら顔の若者は質素な緑の服を着ていて如何にも動き易そうだ。歳はもう一方の若者よりもやや年上のようだ。その二人が今石の壁の城の中で話をしているのだった。
「別にね」
「左様ですか」
「うん。何でもね」
「いえ、これがあるのです」
 だがここで声がしたのだった。
「ヒュオン様ですね」
「僕の名前を知っている?」
「ギエンヌ公であられますね」
「そこまで知っているのか」
 爵位まで言われてさらに驚くヒュオンだった。声は次に赤ら顔の若者に声をかけてきた。
「そしてその従者のシェラスミンさんですね」
「おや、私の名前も知っているのですか」
「はい、よく存じています」
 声は彼にも告げたのだった。
「何故なら私は妖精でして」
「妖精!?」
「悪魔ではないのか」
「いえいえ、違います」
 言いながら姿を現わすパックだった。二人はその姿を見てまずは驚きの声をあげた。
「何と、木の葉の服だと!?」
「それにその身体の色は」
「これでおわかりでしょうか」
 二人の目の前に姿を現わしたうえであらためて言うのだった。
「私は妖精パックといいます」
「妖精パック」
「それが貴方の御名前ですか」
「別に何も騒がれないのですね」
 パックは彼等が特に驚いた様子も見せないので少し意外に思いながら言葉を返した。
「私が姿を現わしても」
「実際に姿を見たからね」
「それで騒ぐというのも無作法ですし」
「左様ですか。まあそれならそれで話は早いです」
 パックは彼等が自分を見ても落ち着いているのを見てさらに話を進めることにした。
 
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