こぶたのまき4
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こぶたのまき4
私は気分直しに河川敷を降りた。
結局あの後も泣き崩れたことも笑われた。学校に行かなければ、何があっても乗り越えなければ。
そう、思ったが、行けなかった。行かなかった自分を責めた。約束を守れないダメなやつだって。
だけど責めててもしょうがないということは分かっていた。過去はもうこの通り。変えることなんてでき
ないし、今までだって思い出したりしなかったんだから今まで通りでいればいい。
ただ、立ち直る勇気がないというか引きずっちゃっているというか。まだまだ心は弱いままだった。
「りなちゃん?」
その時後ろから声がかかった。菜由佳だ。河川敷降りてきて
「どうしたの?今日来てなかったからさ」
と私に心配そうにいった。そういえば今何時なのだろうか。学校のチャイムは聞こえていたが
菜由佳が帰っているということは4時半なのだろう。結構時間がたったんだ。
私が答えないでいると
「無理して答えなくていいけどさ、溜め込んだらだめだよ。やっとちゃんと学校に来るように
なったんだから。みんなはりなちゃんに口々言っているけど私はそんなこと思ってないからね」
と言ってくれた。菜由佳には私が見えるんだ、そう思った。
「りなちゃん、そろそろ帰らないと家庭教師の先生が来るんじゃない?」
菜由佳に時間を聞くとすでに5時5分前になっていた。
私と菜由佳は河川敷を上ると左右に別れるからここで別れた。私は菜由佳に感謝もしたが
ちょっぴり申し訳ない気持ちも生まれた。こんな私に話しかけて、いやじゃないのかな
とか周りから逆に菜由佳が変な目で見られたらいやだなとか。それで菜由佳がいじめを受けたら
いやだなとか。
家に着くと美咲先生がすでに着いていた。
「おかえりなさいりなちゃん」
美咲先生は笑ってこちらへ来た。そして部屋に向かった。今日は算数だ。
でも計算に集中しようと思ってもできない。今日のことが頭に入ってくる。今は忘れて勉強を
しようと思ってもやはりダメ。鉛筆の手が止まっている私の様子が変だと思ったのか美咲先生が
「どうしたの」と声をかけてきた。言おうか迷ったけど言わずに
「大丈夫です」
と明るく振る舞った。美咲先生はならよかったといつもの笑顔を見せた。でもひとつ聞いてみたいこと
があった。
「先生、先生は過去にいじめを経験したり見たりしたことありますか?」
こんなこと聞いたらダメだろうと私でもわかっていた。だけど聞いてみたかった。
先生は一瞬悲しい顔をしてまたいつもの顔に戻って
「あるよ」
って答えた。
「今日は特別。勉強はここまででいいからりなちゃんに聞いてもらおうかな」
そう言い美咲先生は話し始めた。
「私がりなちゃんと同じくらいの時だった。私には親友と呼べる友達がいた。彼女はねいじめを受けて
いたの。私は人をいじめたりすることが嫌いだった。だから私が彼女に話しかけて仲良くなった。
いっぱい話聞いてあげた。小5の時だった。私はある噂を聞いた。美咲、あんたの友達が美咲なんて
お人好しで機嫌取りで好きじゃないって言いふらしてるって。私はショックで、彼女に聞いたの。そん
な風に思ってたんだねって。彼女は違うって答えたの。私、親友なんだから信じてあげればよかったのに
ね。日に日にその噂は広まりとうとう私は彼女を責めちゃったの。彼女は泣きながら否定した。
だけど私は信じれなかった。そして2人の中は悪化していった。というか私からしたようなものなんだ。
彼女がいじめられててもいつものように手助けさえしなかった。私は逃げたの。
2週間後のことだった。先生が深刻な顔をして教室に入ってきた。彼女が死んだって。学校の3階から
飛び降りて頭などを強く打ったって。その時私は目から大量に涙があふれたよ。私のせいだ、私が彼女
を信じてやれなかったせいだって。葬儀のとき彼女のお母さんがやってきて封筒を渡してきた。
それは私宛の手紙だった」
美咲先生は涙目になりながら話してくれた
「 美咲へ 私と友達になったせいで美咲にまでひどい目に合わしてしまってごめんね。美咲の
ことが嫌いだっていう噂、本当に私じゃないよ。むしろ私は美咲に感謝してるんだ。こんな私と
友達になってくれたこと、いじめからいつも守ってくれたこと。美咲にあんなうわさが流れて
美咲が傷ついて私から離れていったときすっごく悲しかった。美咲に甘えすぎてたからかな、1人に
なったときすっごく怖かったの。美咲助けてって心の中で何度も叫んだ。けど、言葉にしたらだめだ
って思った。私は辛くて耐えられなくなっちゃった。だからもう私はこの世界からいなくなることに
するね。この手紙を読んでいるってことは私はもういないんだね。美咲、今まで楽しかったよ。こ
んな私と友達になってくれてありがとう。最後になるなら美咲に嫌いじゃないってこと信じてほし
かった。美咲を責めているわけじゃないんだよ。これから、美咲にはもっともっと楽しいことが
待ち受けてる。私についてきたらダメだからね。じゃぁ、また会える時まで。さようなら。
って書いてあった。私は泣いたよ。私は自分を責めた。なんで信じてあげられなかったのか、
なんで気づいてあげられなかったのかって」
美咲先生は泣きながら話してくれた。先生にもこんな過去があったんだね。
話してくれてありがとう。
そして先生は帰って行った。「りなちゃんはこんな思い絶対にしたらダメだからね」と言って。
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