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こぶたのまき3

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こぶたのまき3

今日から学校に登校。1年も行かなかったんだからみんなの中には私なんていないだろうと思った。
もしかしたら、1年も行かなかったから余計に「こいつ3年の時来なかったよな」みたいに
なっちゃうかもしれない。悪い意味でみんなの中に残ってるかもしれない。
朝、起きて朝食をとって支度を始める時もずっとそんなことを考えていた。同じことがあっても、もう
気にしないこと、こういう風にうじうじしないこと。それを自分と自分の心に言った。
そして登校時間になった。勿論不安は納まっていない。だけどこうしていう時間は自分には1秒たりともなかった。
久々に一人で通る通学路。この通学路をまっすぐ行くと川があり橋がある。そこをまがってまっすぐ行けば学校。意外と学校まで近い距離にいる。ある意味それがいやだったりもする。だけどこの恵まれた環境は私は好きだ。家から少し歩いたら川があって、河川敷がありそこには大きな1本の木が立っている。
気分が向かないときとか、ここに来れば川のせせらぎを河川敷で聞くことができ、気分が落ち着き心地
よい気分になる。だから、この自分の住んでいる町は嫌いではなかった。
「おはよ」
「おはよう」
学校のグラウンドに着けばみんなが交し合っている。自分に言われてなくても聞いているだけで
こっちまで少し元気がもらえる。例え自分に向けられた言葉でなくても聞くだけで元気が湧く。
あいさつってこんなにもすごい力を持っていたんだ。なぜ気づかなかったのだろうか。
「りなちゃん?」
と、私の後ろから声をかけてきた。同級生の足立菜由佳だ。彼女とは関わりがあまりなかったし
1年の時から特に話をしてきたわけでもない。
「りなちゃん、久しぶり」
「え、あ、うん」
私は少し戸惑った。今まで相手から挨拶もされたこともなければ話しかけられたこともないから。
「元気だった?」
「うん、元気だったよ」
私はそう答えた。菜由佳はそう答えた私に「ならよかった」とにこっと笑った。
そして菜由佳と私は教室へと向かった。私は菜由佳に感謝した。一人で教室に行くのは不安だったし
話しかけてもらったことがないから菜由佳がいてくれて本当によかったと思う。
「おはようみんな」
教室に入ると私は菜由佳にちょっぴり感謝をした。このまま誰にも話しかけられなかったらどうしようという不安もあったし、クラスメイトに嫌われてたらどうしようとも思った。でも菜由佳が挨拶だけでもしてくれたことがとてもうれしかった。教室に入るまでほとんど菜由佳と会話はなかった。
「秋山さん?」
「えー。いたんだ」
みんなは口々に言う。4年生の担任の先生だと思われる人がきた。
「秋山さん、よく来たね」
と笑っていった。そして
「はい、今日から秋山りなさんが登校してきました。みんな仲良くしてあげてください」
と言った。けど、誰も返事はしなかった。
その日のこと。相変わらず私に話しかけてくる人はいなかった。というか私の存在を忘れた
かのように。さみしくはなかったけどやっぱり変わらないんだなと思った。
そして1日は過ぎた。
帰りに私は学校に近くの図書館に寄った。3冊の本を借りて帰った。
人の気持ちの本2冊とスイーツの本だ。人の気持ちの本はかなり難しい言葉が並べられていて
小4が読む本ではないとおもった。だか、ここに何かヒントはないかとわからない言葉をどんどん調べ
た。家庭教師さんが来るとちゃんと小3の勉強をした。
この家庭教師さんと家庭教師という形だけでなくプライベートでもお世話になることをお互い
まだ知らなかった。
 家庭教師の先生の名前は園田美咲さん。私はその先生を美咲先生と呼んだ。
美咲先生は大学生で、背が高くて髪が長くて明るく優しい先生だ。
美咲先生は私が今日借りた本を見て
「これなに?難しい本読むんだね」
といった。
「今日借りてきたんです」
と私は美咲先生にその本を見せた。それから勉強もしながら話をしてくれた。
自分の過去や妹のことなど。
「だからね、りなちゃんの気持ちもわかるなぁ」
と笑った。
それから時間がたち美咲先生は帰って行った。久々に人と近くで喋った。
だから私は楽しい時間を過ごせた気がするんだ。

それから3か月。時が過ぎるのは早い。あれから学校は休まず行ってるし美咲先生とも「先生」
という感じではなく「おねぇちゃん」というように近く感じた。勉強もどんどん進んだし
分かるようになった。
だけどある日、またやってきた。
朝いつも通り準備をして学校に行っていた。
「ねぇ」
と突然声がかかった。振り向くと同じクラスの子と6年生が数名いた。
「あんたさ、1年間何してたの?ずる休み?」
6年生の一人がそう言って笑った。
「何でもいいけど、あんたお母さんは?」
と聞いてきた。私はびっくりした。今まで聞かれたことないから何と答えたらいいかわからない。
「いないの?」
いないの?私には母屋という存在はない。3歳の時からいない。母親の愛情を知らない。
「かわいそうに。いないんだってー」
とみんなは笑いながら言った。
「何でいないの?」
「あんたが邪魔だったとか?」
って口々に言う。
すると1人の子が驚きの言葉を言った。
「あんたが追い出したんじゃないの?あんたと、あんたの父親が追い出したんでしょ?
暴力をふるったりしてたんでしょ」
と。
私は記憶の中をたどった。違う。みんなが言ってることは違う。全然違う。
記憶をどんどんたどっていくうちに思い出したくない記憶がよみがえった。
 私の母は私が生まれ、生まれたはいいが私のことを邪魔になった。だから私が泣いていても
知らんぷりで知らない男の人と家を出たり、満足に食事をもらえなかったり暴力を
受けたりした。傷跡だって残っている。そして父と母は毎日喧嘩ばかりしていた。
私に対しての不満などをぶつけ合っていた。お互い私を邪魔に思っていたのだろう。でも当時の私
はそんなことはわからない。ただ、ただ親の愛が欲しいだけだった。いっぱい求めた。
だけど振り向いてはくれなかった。
ある日、父と母がいつものように口論になっている時だ。今思えば私があの時空気を読んでいればと
思う。二人が喧嘩をしている中私は「おなかがすいた」と母に言った。
母は突き放した。その瞬間私は母の力にかなわず飛ばされ、椅子のがどで頭と背中をぶつけた。
そして、母が持っていたタバコが私の腕に当たりまさに根性焼き状態になった。
病院に運ばれることはなかった。この傷はまだ消えてない。心に残った傷は忘れようと消した。
だが今、思いださされた。何も知らない人に勝手に過去を作られ笑われている。
彼らが一体何を知っているというのか。彼らに何が分かるというのだろうか。
今まで消していた記憶が今よみがえった。みんなの言葉や記憶に私は挟まれ思わずその場に座り込んでしまった。いや泣き崩れてしまった。
私はかわいそうな子なのですか? 
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