クラディールに憑依しました
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彼女のリハビリが始まりました
「片手剣のソードスキルを全部見せて」
「は?」
「だから、片手剣のソードスキルを全部見せて欲しいんだけど?」
「今覚えている分で良いなら見せてやるが――――いきなりどうした?」
「サチを血盟騎士団に入れようとキリトとデュエルをしたんだけど…………あいつのソードスキルに着いて行けなくて、
最後は負けちゃったから、感覚を忘れない内に練習しておきたいの」
「キリトとやったのか」
「気になる所もあったナ、後半からアーちゃんの動きが急に鈍くなっタ」
「……ふむ。少し眠いが始めるか」
噴水広場まで戻り、お互い獲物を抜く。アスナは細剣、俺は片手剣。
まずは振り下ろしから始まるソードスキルを放って見たが、アスナは神速とも言えるパーリングでソードスキルを弾き飛ばした。
――――弾かれて多少無理な体勢になったが、続けて横薙ぎでソードスキルを放って見る。
アスナは切り上げでパーリングをして片手剣を弾き、無理やり俺の懐に潜り込んで来た。
だが完全に体勢は崩れ、ソードスキルを発動させるポージングはどれも程遠く、ヘロヘロで威力の無い細剣が伸びて来た。
それはあまりにも遅く、充分引き付けてからパーリングで叩き落した――――それでもアスナは突っ込んでくる。
――――猪かッ!? 俺は咄嗟に片手剣を捨てて両手でアスナの両頬を押え付けて止める。
「落ち着け!」
「むぎゅ!?」
「何なんだ? 腕だけ伸ばして相手が倒せるとでも思ってるのか? 初撃決着モードでもカウントされんわ!!」
「は、離して!」
「おいおい、バーサーカーモードのスイッチでも入ってるのか? 落ち着けって」
アスナの目は何かに取り憑かれた様に周りが見えていない。だが、この状況を招いたのは俺にも責任がある。
次にアスナとデュエルする可能性を考えて、縦振りのソードスキルを全て封印し、
意図的に横薙ぎのソードスキルだけを見せていた。
おそらくキリトは短時間でアスナの反応に違いがある事に気付き、縦振りのソードスキルで優位に立ったのだろう。
横薙ぎのソードスキルは簡単にパーリング出来るほどアスナは見慣れているが、
このレベル帯の縦振りのソードスキルには縦振りからサイドステップに対応して左右に迎撃するモノも多い。
俺が仕掛ける筈だった策をキリトに潰されたか――――まぁ、責任を持ってアスナの修正を手伝うか。
「まず。頭部を前に出し過ぎだ、顎が前に出てるぞ。背筋を伸ばせ、何だその猫背は?
足も開き過ぎだ、膝も曲げ過ぎてる、おかげでへっぴり腰だ、もっと腰を入れろ。
パワータイプでもないのに力に頼ろうとして踏ん張っているつもりなんだろうが、地面を踏み過ぎだ。
無駄に足を振り上げて、無駄に地面を踏みつけている。戦闘中は出来るだけ摺足を意識しろ、すっ転ぶぞ」
「わ、解ってるわよ、それくらい!」
ガクガクの動きで細剣を突き出すが、今にも全力疾走しそうな勢いがひしひしと伝わってくる。
「全然成ってねー。自分に出来る事を思い出せ、前に出した足は爪先から上げろ、踵を離すのは最後だ」
「解ってるって――――言ってるでしょ!」
アスナのリニアーが発動する――――スピードが戻った。
「――――戻った!?」
「いや、全然駄目だ。何故か知らんが無駄な動きが増えまくってる。一回全部スローモーションで動いて見ろ」
「…………何でそんな事しなくちゃいけないの?」
「ソードスキルってのは本来システムサポートが無くても打てるんだよ、スローで動けば勢い任せの無駄な部分が見えてくる」
「そんな事しなくても、もう大丈夫よ」
「――――――――いいからやれ、無駄が無ければスローで動いてもバランスを崩さん」
「………………わかったから、ちゃんとやりますから…………」
ゆっくりと踏み込みを始めたアスナは――――爪先を上げる時点でプルプルしていた。
「――――なッ!? なんでッ!?」
「前に体重を掛け過ぎだ。重心を少し後ろにずらせ、ステップを使えば問題ないが、システムに頼り過ぎだぞ」
何とか爪先を上げたアスナだったが、今度は踵を持ち上げる事が出来ない。
「くっ!?」
「歩幅を広げ過ぎだ、後ろ足の踵を先に上げてどうする? 前に出した足の踵を上げろ。爪先から踵、後ろ足で送り出す」
「解ってるってばッ!」
焦りか? キリトとのレベル差を気にしてるのか、前に前にと全力で飛掛かろうとしてる。
――――こりゃあ朝まで掛かるな。噴水の傍に座っていたリズは目を擦っていた。
「長くなりそうだから先に帰って寝てろ」
「………………悪いけどそうさせて貰うわ、あたしももう限界――――シリカ、帰るわよ」
アルゴの膝枕で熟睡しているシリカをリズは軽々と持ち上げて歩き出した――――あいつのSTRも洒落にならねぇな。
それから明け方までアスナのフォーム修正は続き、朝から出発予定だった迷宮区攻略は、昼過ぎまで延期となった。
………………
…………
……
宿に戻ってサチを部屋に避難させた後、迷宮区から帰ってきたケイタ達を何とか落ち着かせた。
「これからは俺がサチの分まで前衛を支えるからさ、無理にサチを前衛に転向させるのは止めにしよう」
「でも、それじゃキリトに悪いだろ?」
「俺は大丈夫だよ、テツオも居るし充分やっていけるさ」
「…………まあ、キリトがそう言うなら――――なあ? やっぱり今日はサチに会っちゃ駄目か?」
「夜も遅いし、会ってもサチは謝り続けるだけだと思うから、今日はゆっくり休ませて、明日からにしてくれないか?」
「――――そうだな、そうするか…………あー、俺も疲れたし今日はもう寝る。サチの事は明日だ明日」
「迷宮区の敵は弱かったけど、サチを探しながらだったからさ、みんなヘトヘトなんだ――――サチを探してくれてありがとう」
「いや、俺は心当たりのある場所を探しただけで、そこに偶々サチが居ただけさ、見付けたのはケイタ達かもしれなかったし」
「それでも、探してくれたのはキリトじゃないか――――これからもお互い助け合って行こう」
ケイタが軽く拳を握り胸の前に出した、俺も拳を握りコツンと拳を合わせる。
「それじゃあ、キリト。また明日」
「あぁ、お疲れ」
部屋に戻りメニューを弄りながら今日の事を思い出す、『意味のある事は全部終わっている』か…………。
そんなのは嘘だ。少なくとも俺は自分が強い事を隠し、この月夜の黒猫団に居る事で一種の快楽を得ている。
………………酷い嘘吐きだ。
部屋にノックが響いた――――――こんな夜遅くに誰だ? とりあえずシステムの開錠許可を出すか。
「開いてるよ」
ドアを開けて顔を覗かせたのはサチだった。
「キリト――――ごめん。やっぱり眠れなくて…………一緒に寝ても良いかな?」
「――――大丈夫……だけど、ベット一つだけだぞ?」
「大丈夫。キリトと一緒なら安心して眠れると思うから…………もしかして出かける所だった?」
「いや、これから寝ようと思ってた所だけど」
本当はこれから最前線に篭って、黒猫団に付き合った分の遅れを取り戻す心算だったけど。
「ねえ、キリト…………もう一度あの時の言葉を聞かせて、安心して眠れると思うから」
「サチ…………大丈夫だよ。君は死なない」
「――――うん」
それから夜が更けるとサチは毎日俺の部屋を訪れた。深夜のレベル上げはまったく出来なくなっていた。
一つのベットにサチと寄り添い。このギルドに居れば大丈夫だからと何度も声を掛け続けた………………。
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