戦国異伝
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第百三十六話 思わぬ助けその四
「このままではな」
「ですか、しかし」
「まきびしを巻かれては」
「それでは進めませぬ」
「只でさえ後詰を抜けないというのに」
浅井の者達も難しい顔になる、だがそれでもだった。
今はどうしようもなかった、長政も難しい顔で立ち止まるだけだった。
羽柴達は援軍とまきびしで何とか逃げていっていた、後詰の戦は何とか収まろうとしていた。そして朽木砦においては。
信長達の前に一人の男が来ていた、それは。
松永だった、彼は己の馬に乗り彼等の前に悠然と出て来た、その彼を見てだ。
毛利と服部がすぐに信長の前に出た、それで主を守っている。
そして森が槍を手に彼に問うた。
「何の用じゃ」
「何の用とは
「今度は一体何を企んでおる」
松永は今は青い具足に藏、陣羽織という姿だ。それは紛れもなく織田家の姿である、それは森も同じだ。
だがそれでもだ、彼は完全に敵を見る目で彼に問うのだ。
「三好、公方様に続いて殿か」
「そうじゃ、いよいよその毒針を出して来たか」
池田は刀を抜いている、そのうえで松永が蠍と呼ばれていることからこう問うたのだ。
「殿にどういった仇を為すつもりだ」
「殿、ここはです」
奥村も彼を見ながら言う、彼もまた信長の前に出ている。
「お気をつけを」
「いっそのことここで、です」
「こ奴を成敗しましょう」
毛利と服部に至っては松永を消すことさえ提案した。
「殿のご命令一つあれば」
「ここでこ奴の首と胴を別れ別れにします」
「ですからここは」
「どうぞ我等にご命じ下さい」
こう信長に願うのだ。
「さすれば我等がこの奸賊を成敗します」
「殿と天下の為に」
「笹の用意は出来ておるぞ」
可児のだ、その手に持つ笹を松永に見せている。
「御主の口に咥えさせてやるわ」
「ううむ、どなたも誤解されていますな」
だが松永はだった、実にしれっとしている。
そのうえでだ、彼は飄々とした感じで彼等に言うのだ。
「それがしは一人ですぞ」
「その言葉誰が信じる」
池田はそう言われても頭から否定した。
「誰が御主の言葉を信じるのだ」
「おや、勝三郎殿はそれがしが嘘を吐いていると」
「違うか」
全く信じないまま言う。
「それはどうなのじゃ」
「いやいや、そうしたことはござらぬ」
松永の物腰は変わらない、馬上で飄々としたままだ。
「それがしはまことに一人ですぞ」
「ふむ」
信長以外にただ一人松永を殺そうという動きを見せていなかった慶次がここで周囲を目だけで見回してから言った、その言うことはというと。
「確かに」
「?慶次、どうしたのじゃ」
「うむ、松永殿は嘘を吐いておられぬぞ」
こう奥村に答える。
「今ここにおるのは殿と我等と松永殿だけじゃ」
「気配を感じたか」
「感じるわ、侍の気配も忍の者の気配もない」
そのどちらもだというのだ。
「落ち武者狩りの百姓や山賊の気配もな」
「ではやはり」
「そうじゃ、松永殿は一人で来られた」
それは間違いないというのだ。
「安心せよ、嘘は吐いておられぬ」
「御主が感じぬのならそうだな」
慶次の勘の鋭さは獣の様だ、それこそ周りに伏兵がいても気配で察してしまう。だが今はそれがないというのだ。
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