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戦国異伝

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第百三十六話 思わぬ助けその一

              第百三十六話  思わぬ助け
「羽柴殿、お助けに参りました!」
「何と!」
 羽柴達後詰の後ろから来たのは織田家の軍勢だった、無論全軍ではないが。
 竹中、島、大谷だった。大谷は自ら槍を手に来ながら羽柴に言う。
「実は佐吉から言われまして」
「あの御仁からでござるか」
「はい、羽柴殿が危ういと」
 石田が言って来たというのだ。
「そう言いまして」
「その石田殿は」
「佐吉はそれがしが先に行かせました」
 大谷は羽柴に石田は退かせたと話した。
「あの者はこうした時は平然と命を賭けますので」
「そういえば思い切ったところもある御仁ですな」
「だからです」
 この後詰は必ず生きて帰らなくてはならない、信長がそれを許さないからだ。
 しかし石田は普段は冷静そのものだが他の者が危うくなると命を駆ける男だ、だからだというのだ。
「ここは残らせて」
「そしてですか」
「それがしと左近殿にです」
「それがしも参りました」
 竹中も言って来た。
「だからです」
「左様でありますか」
「見たところあの軍勢は多いですな」
 今も迫る朝倉家の者達ではないかという軍勢を見て話した。
「朝倉殿の軍勢ですな」
「半兵衛殿はそう思われますか」
「数から」
 竹中はこう察して言う。
「そうでは、ですが」
「半兵衛殿もやはり」
「妙ですな、朝倉殿の兵にしてはやけに動きがいいです」
 彼もまた察することだった、伊達に織田家の軍師という訳ではない。
「まるで忍の様に」
「?そういえば」
 秀長も竹中の今の言葉に気付いた、彼等の動きはというと。
「あの動きは」
「はい、侍の動きではありませぬ」
「忍に近いですな」
「そうです、妙なものです」
 こう言うのである。
「数も多いです、朝倉家の軍勢にしか思えませんが」
「それでもですな」
「妙でありますな」
 こう言うのである、そしてだった。
 島はまず前に出てだ、鬼の如き気迫を見せて後詰の者達に告げた。
「案ずるな!敵は前からしか来ぬ!」
「前からしかですか」
「そこからのみですな」
「そうじゃ!横や後ろからは来ぬ!」
 右は琵琶湖、左は険しい山だ。まして朝倉も浅井もただ追うことしか考えていない。
 それでは左の山に回り込むことはとても考えが及ばない、ましてやその山達はかなり険しいのだ。琵琶湖にしても。
「浅井家には琵琶湖に大軍を動かすだけの船はない」
「浅井家にはそこまでの力がありませぬな」
 ここでこう答えたのは竹中だ。
「まして急な出陣で船を出すだけのもの」
「ありませぬ」
「だから一万全軍で来ていますし」
「はい、横から攻められる恐れはありませぬ」
 そして、である。
「後ろは有り得ませぬ」
「それは絶対にですな」
 織田家が退く先だ、これは絶対に有り得なかった。 
 それでだ、敵が来るのはというのだ。
「前からだけよ」
「では後は、ですか」
「前から来る者達だけを退けるだけですな」
「そうだ、幾ら敵の数が多くともだ」
 それでもだというのだ。 
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