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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第17話 「……殺戮(キリング)、機械(マシーン)……」

 
前書き
映画スプリガンの御神苗優の声優は、森久保祥太郎さんです。ジャン・ジャックモンドは子安武人さん。
そして、左慈は緑川光さんです。于吉はジャンと同じ子安さん。

4人の掛け合いやバトルが見たい(聞きたい)のは私だけでしょうか? 

 




  ―― other side 仙人界 ――




 戦いは、互いの拳が撃ちあうことから始まった。

 左慈の戦い方は、中国拳法のそれであり、それに気功を交えたものだった。
 それは、盾二の世界――スプリガンの世界の朧と同様であるといえる。

(やっかいなのは、硬気功と軟気功……だが、朧ほどスピードはない、か)

 数合ほど打撃を撃ちあい、盾二は相手の大まかな力量を把握する。
 だが、それは左慈とて同じこと。

(通常の打撃でダメージを与えられるのは顔面のみ……異様に守りが堅いが、浸透撃を警戒して、か?)

 盾二の戦闘スタイルは、防御を固めてのカウンター攻撃である。
 それに対して左慈は、アウトボクサーのヒットアンドウェイを得意としていた。

 いわば、力と一撃の盾二と、手数の左慈である。

(身を固めても、相手が足を踏みしめたら浸透撃が来る……だが、あの攻撃の弱点は、大地を踏みしめないとだせないこと、だ) 

 浸透撃は、両手両足、極めれば頭突きや肘打ちですら出せることは確認済み。
 だが、それを出すには大地に身体の一部を預け、固定しなければならない弱点を持つ。

 それゆえ空中では出せないのが唯一の弱点なのだが……

(片手片足……いや、極論すれば座っていようがなんだろうが、一部さえ地面についていればいつでも必殺の一撃が来るということ。一瞬足りとも気が抜けないな)

 そう考える盾二の考えは、ある意味正しい。
 左慈自身、開始して数合のうちでも、浸透撃を使う機会を狙っていた。

 だが、盾二の防御能力は、その腕を巻き込み関節を極めようと動くために、一瞬の溜めすら作れずに終わっていた。

(北郷盾二……名前どおり、堅固な盾のようなやつだ。奴に一撃入れるには……)

 左慈は、ゆっくりとステップを踏み、ボクサーのように足を使い始める。
 それと同時に、盾二のそれはボクシングのピーカブースタイルのように、守りを固めて前傾姿勢をとった。

 アウトボクサー対インファイター。

 まさしくボクシングのような状況になっている。

「シッ!」

 左慈が瞬間的に加速して、盾二の顔面へ拳打を放つ。
 それを上体だけのスウェーで交わした盾二は、クロスカウンターを狙うため、タイミングを合わせようとする。

 だが、それを見越していた左慈が、貫手で盾二の左腕の肘裏へ一撃入れる。

「グッ!」

 その貫手すら浸透撃の一撃であり、AMスーツの防御能力を無効化する攻撃に、一瞬腕がしびれて、左のガードが落ちる。
 左慈は、その機会を逃すまいと、固めた拳で盾二の顔面を殴ろうとした。

「なめんな!」

 だが、その左慈の右拳を頬にかすめながら、残る右腕で左慈の右肩めがけてカウンターを放つ。

「ガッ!」

 AMスーツの防御力自体は無効に出来ても、その攻撃力までは無効にできなかったらしい。
 岩すら砕く、全力の一撃は、左慈の肩の関節を外し、空中へと吹き飛ばした。
 そのまま縁を越えて谷底へ……とはいかず、空中で体勢を整えると、縁の柵の上を蹴り石畳の上に着地する。

 その左慈の右腕は、だらりと垂れ下がっていた。

「クッ……やはり、こちらも気が抜けん、かっ!」

 言葉と同時に、ゴキッという音がする。
 自分で肩の関節をはめ込んだらしい。

「うへ……痛そう」

 盾二はそう軽口を叩くが、貫手にやられた自身の左腕を押さえている。

「チッ……ダメージは五分か。忌々しいな」
「よく言うぜ……本気出してないくせに」
「ほう……」

 ニヤッと笑う左慈。
 盾二の言葉通り、未だ本気で戦ってはいない。
 あくまで前哨戦でしかなかった。

「では、本気でいくとするか」

 そう答える左慈の体に力が漲る。
 その様子にげんなりしながら盾二が呟いた。

「やべ……藪蛇だった」




  ―― 左慈 side ――




 北郷盾二と戦いだして、すでに一時間はたっただろうか。
 正直、予想外だったと言わざるを得ない。

 俺は、一度はずれた肩の痛みに顔を顰めつつ、そう思う。

 本気を出す、俺はそう言った。
 そう……俺が本気をだすということは、仙道をフル活用して攻撃するということ。

 硬気功、軟気功、仙術すら使って、本気で倒しに行った。
 だが……

「がふっ……ハァー……ハァー……ハァッ……」
「……ちっ」

 目の前で、息も絶え絶えに立つ男、北郷盾二。

 やつは、未だに倒れていない。
 そのことは、もはや俺にとって脅威だった。

 やつの全身は、幾度と無く放った俺の浸透撃で、ズタボロのはずだった。
 スーツに覆われて確認はできないが、内部は内出血で全身がうっ血しているはず。

 その証拠に、確認できる顔面は蒼白で、血が足りないために貧血気味であることがはっきり見て取れる。

 にも関わらず、やつは隙あらばこちらの攻撃にカウンターを合わせてくる。
 しかも、どこにそんな力が残っているのかわからないようなパワーで、だ。

 それがあのスーツの力なのかもしれないが、地力の高さも十分伺える。
 その証拠に……

「ち……もう左足が動かんか」

 俺の左足は、やつの度重なる攻撃により、ひしゃげたように折れ曲がっている。
 やつは、俺が本気を出した後、守りを固める一方で手数を抑え、カウンターの一撃を俺の足を削ることに腐心した。

 その攻撃を硬気功で受け、軟気功で躱し、さらなる打撃を叩き込んだはずだった。
 だが、それでも奴は攻撃を俺の足に集中させた。

 その執念に思わず圧倒されたのは否めない。
 一瞬の気の緩みが、俺の今の足の現状だった。

「ハァ……ハァ……ま、まだ、やる、か……?」

 ボロボロの身体で、よくそんな軽口が叩けるものだ。
 俺はやつのその様子に、俺の知る北郷一刀ではないことを思い知る。

 俺の知る北郷一刀は、いい加減でチャランポランで力もないのに正義感を振りかざす大馬鹿野郎だった。
 だが、目の前にいる男は……

「……っ!」

 いや……認めん!
 北郷一刀……その同存在などを認めることなど、俺にはできない!

 俺は左足の痛覚を遮断して、ひしゃげた足を力ずくでまっすぐに矯正する。
 そして呪文を唱えると……

「……! う、嘘だろ……!?」

 北郷盾二が驚愕する。
 当然だ。

 俺の足は、瞬く間に完治していくのだから。

「……よし」

 俺は、治った足で地面を踏みしめる。
 その足の動きを確かめるように軽く演舞してみた。

「……なんて……インチキな……」

 そう呟く北郷盾二を、俺は無視する。
 本気を出す。
 そう言ったはずだ。

「さて……お前の質問に答えてやろう。まだやるか、だったな。答えは……」

 治ったばかりの足に気を込めて、瞬時に発動させる。
 その力は、瞬時に俺を北郷盾二の目の前へと移動させた。

 ――縮地。
 この仙術はそう呼ばれる。

「これで終わり、だ!」

 全力全開の浸透撃を、北郷盾二のどてっ腹に叩きこむ。
 防御する間もなく、それを受けた北郷盾二の腹は、反対側に膨らむように反り返った。

「……っ!」

 そのまま吹き飛び、運良く柵の手前で地面に叩きつけられる。
 そして柵へとぶつかり、そのまま倒れ伏した。

「フゥー……ハァー……」

 俺は、呼吸を整えて気を静める。
 全ては終わった。

 北郷盾二は、ぴくりとも動かなくなり、その血が石畳の上に広がっていく。
 もう立っては来られないだろう。

「………………………………あ」

 やつが倒れ伏した状況を見て、唐突に思いだす。
 そうだ……これは、試練だった。

 暗殺(ころし)ではなかった。

「いかん、つい……」

 元々の目的を忘れて、倒すことに全身全霊をかけてしまった。
 まずいな……死んでなければいいが。

「……………………っ」

 ……?
 今、やつの身体が動いたような……

「…………ぐ…………っ」

 !?
 俺が見ている前で、やつは……北郷盾二が起き上がろうとする。

 ……驚いた。
 俺の渾身の一撃は、確実に決まったはずだ。
 命があったことは幸いだが……起きてこられるような状態じゃないはずだ。

 だが、やつはふらふらとしながらも、柵に掴まり立ち上がろうとしている。

「お前……バケモノか」

 思わず呟く。
 だが、その呟きが、やつの身体を硬直させた。

「!?」

 とたんに、俺の周囲に殺意が満ちる。
 あまりのことに、俺の身体が条件反射で臨戦態勢を構えさせた。

 なんだ……今の殺気は。

「………………」

 周りには俺とやつ以外は、誰一人としていない。
 だが、この周囲を圧迫するような膨大な殺意はなんだ。

 まるで何重もの殺意の”目”に見張られているような錯覚。
 その殺意の元――

「北郷盾二……貴様だというのか」

 思わず呟いた瞬間。
 目の前にいたはずのやつが、消えた。

「な――――――」

 気がつくと、俺は吹き飛ばされていた。
 石畳の上に顔面から叩きつけられる。

「ガハッ!」

 瞬時に体勢を立てなおして、起き上がる。
 だが、すぐ目の前に、やつはいた。

 腹に一撃。
 防ぐ間もなかった。

 バキバキという、肋骨が砕ける音が、確かに聞こえた。

「ぐはっ!」

 よろける俺に、さらに右足と左腕に衝撃が走る。
 何が起こったかも確認できないまま、俺の視点は反転した。

 気がつけば、石畳の上にうつ伏せになっている。

「がっ……ぐっ……」

 右足、左腕ともに、完全に砕かれている。
 俺は視線だけを前に向けた。

 そこにやつはいた。
 そして、氷のような冷たい目で俺を見下ろしている。

(だ、誰だ、こいつは……)

 その目は、まるで機械のように凍りついた眼。
 全身を血で(あけ)に染め、確実に虫の息だった男の眼ではなかった。

 それはまるで……

「……殺戮(キリング)機械(マシーン)……」

 俺は、于吉より伝えられた、やつの根底にあるモノの名を呼ぶ。
 その言葉に、ビクンッと震え――

 瞳から、光が消えた。

(やられる――)

 覚悟した。
 俺が、殺されることを。









 だが、その”瞬間”はやってこなかった。

 俺がゆっくりと顔を上げ、やつの顔を見る。
 やつは――北郷盾二は。

 仁王立ちしたまま、気を失っていた。




  ―― 盾二 side ――




 夢を見ていた。
 そう、これは夢だ。

 夢を客観視している、俺がいる。

 なぜなら……目の前で、俺が戦っている姿が見えるからだ。

 戦う……というのは、少し違うな。
 稽古をつけてもらっている、が正しい。

 その相手は……俺の先輩なのだから。

『ぐあっ……』

 俺が、先輩……御神苗優の攻撃を食らって地面に叩きつけられている。
 その様子を周囲で見守る人たちがいる。

 ティア・フラット……アーカム現理事長で、自身もスプリガンの女傑。
 ジャン・ジャックモンド……スプリガンのセカンドナンバーで、御神苗先輩の相棒。
 大槻達樹……俺と一刀の同僚で先任。
 そして一刀……

 四者四様に、俺の姿を見て溜息をついている。

 なんだよ……俺が優先輩に勝てるわけないじゃないか。
 この人、スプリガンのトップエースだぜ!?

『おーい、どうした。もう終わりか?』

 そう言って腰に手を当てて見下す先輩。
 くそ……

『盾二ー! せめて一撃入れろよ! みっともねえぞ!』

 黙れ、大槻!
 お前だって、AMスーツなしじゃ優先輩にまともに打ち合えたためしがねえじゃねぇか!

『がんばれ、盾二! 俺の仇を討ってくれ!』

 いや、一刀……そりゃ無理だって。
 お前、一分もたずに気絶(おちた)じゃんか!

 大体、AMスーツなしでこの無敵超人とやりあうなんて、土台無理なんだよ……
 俺たちの戦闘技術は、AMスーツありの状態が基本なんだから!

『あのなあ、盾二……お前の先読みと、後の先をとる戦法は悪くねぇけどさ。それに固執してたんじゃ、相手に戦い方を教えるようなもんだぜ?』

 そうは言いますがね、先輩。
 貴方のその……俺の数段上をいく先読みと、人間離れしたスピードに対して、ただの人間である俺にどうしろと?

『俺の実質的なスピードは、ジャンほど人間離れしてないぞ? それに俺の動きは朧直伝だが、目の錯覚やフェイントを織り交ぜて判断を誤らせるように動いているからそう感じるんだ』

 いやいや……その朧よりスピードが早いと朧自身が認めていると聞きましたよ?
 謙遜しないでくださいよ……俺が情けなくなりますから。

『やれやれ……お前の戦い方は、俺や朧に似ているんだがなぁ。いまいちカウンターに固執する性で、決定打がないんだよ。もっと強引に攻める事ができればなあ』

 ごもっともで……

『まあ、その分お前の弟は攻めっ気が強すぎて、守りが疎かだからな。ハマれば強いけど、力量差があると脆いんだが』

 優先輩……一刀は法律上弟ですが、それゆえに兄と呼んでいますので。

『お前らの俺ルールなんか知るか』

 ごもっともで……

『互いを兄と呼び合う兄弟か……変な関係だな、おまえらも。まあ、俺も姉がいるから気持ちはわからんでもないが』

 秋葉さんですよね。
 俺も一刀より、お姉さんが欲しかったですよ。

『やんないぞ』

 そういう意味じゃないです。

『やれやれ……まあ、お前は自分にスピードがないからその戦い方を選んだようだが、瞬間的なスピードだけなら決して見劣りはしないんだ。それを攻撃に活かしてみろよ』

 それを、活かす……?

『ああ。こいつは仙術の類らしいんだが、朧が言うには……』

 は?
 すいません、声が聞こえなく……

 あれ?
 優先輩?

 一刀?
 大槻?
 ジャックさん、ティアさん……

 みんな、どこいったんだ?

 …………
 
 ああ、そうか……
 これ、夢だったな。

 そろそろ起きるのか……

『……まだだ』

 ……?
 誰だ?

『お前はまだ、指令を果たしていない』

 なに?
 指令? 指令ってなんだ?

『私は命じたはずだぞ』

 なに、を……

『ナンバー五十五番……』

 ……やめろ。

『ナンバー五十六番を……』

 嫌だ、やめてくれっ!

『北郷一刀を……』

 言うなっ!

『殺せ……!』

 いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!








「はっ!?」

 見開いた眼で、見えるもの。
 それは、どこともわからぬ天井だった。

 気がつけば、全身汗だくになりながら、俺はベッドのようなものに横になっていた。

「………………?」

 あれ?
 俺は……なんでここにいるんだ?

「ふう……気づいたか」

 声がする。
 顔だけそちらに向けると、知った顔があった。

「左慈……か」
「ああ。どうやら助かったようだな」
「たすか……た?」

 何を言っているんだ?

「お前、一度死にかけたからな」

 は?
 死にかけた?

「覚えてないのか……?」

 俺は、首をふる。
 あれ……そう言えば、なんで俺、身体動かないんだ?

「もう一週間も生死を彷徨っていたんだ。無理もない」

 ……は?
 マジで、俺は死にかけてたの?

「左慈、新しいものを……おや、お目覚めになりましたか」

 誰かの声がする。
 聞いた声だ。

「于吉。北郷が眼を覚ましたぞ」
「ええ……思ったより身体が頑強で助かりました。一般人のままでしたら流石に無理だったかもしれません」

 そう言って、視界に入ってくる。
 確かに巴郡で会った仙人、于吉だった。

「体の調子はどうですか?」
「……なん、か、動か、ん」
「当然ですね……心臓が止まって丸一日、死後硬直一歩手前まで行きましたから。ここの不老長寿の水を飲んでいなければ、確実に死んでいます」

 …………………………マジで?
 俺、一度死んだの?

「左慈をけしかけておいてなんですが、誤って貴方を殺してしまうことも考えられたので……戦う前に、ここの水を飲ませるように言っていたのが幸いでした。いやはや……まさに急須に一生、ですね」

 ……それを言うなら、九死に一生だろうが。

「私が到着した時、すでに死んで丸一日経っていましたが……水のおかげでかろうじて蘇生できました。あと一週間もあれば、元の状態に戻れるでしょう」

 死んだ状態の人間を、一週間で戻すか……
 仙人界さま様だな。

「すまんな、北郷。試すだけのつもりが、つい熱くなってしまった。まさかあそこまでやるとはな……仙人の俺が死を覚悟したんだ。誇っていいぞ」

 ……は?

「……どう、いうこ、とだ……俺、おまえに……」
「? お前……覚えていないのか? 俺の渾身の一撃喰らって立ち上がった後、瞬時に消えるような動きで俺の肋骨と、右足と左腕を完全に砕いたんだぞ?」
「……へ?」

 なにそれ……俺が、仙人の左慈にそこまでダメージを与えただって?
 確かにボロボロになりながら、左慈の左足を潰したけど……それお前一瞬で治したじゃんか。

「全く覚えてないのか……?」
「……(コクン)」
「それはすごいですね……左慈にそこまでダメージを与える者がいるとは。正直私も思ってもいませんでしたよ。例のサイコバーストとやらですか?」

 サイコバースト……いや、そんな機能はない。
 俺のAMスーツのサイコバーストは、全て超常現象の攻撃系……加速装置や瞬間移動なんていう機能はない。
 もしかして……AMスーツに俺の知らない機能でもあるということか?

「サイコバースト……話に聞いていたやつか。だが、北郷はそんな力は使ってなかったぞ。あくまで筋力増加ぐらいの機能だけだったようだが……そう言えば、なぜ使わなかったんだ? あれを使えばもっと有利に戦えただろうに」

 ………………なぜ、か。

「……なぜ、だろ、な。たぶ、ん……意地、か、な」
「……意地。プライドだと?」
「ころ、しあい、じゃない、だろ……」
「……俺は『死合う』と、そう言ったぞ」
「……了、承し、た……おぼえ、は、ない……」

 そう言って、ニヤリと笑う……ように努力してみる。
 うまく顔の筋肉が動かないが。

「……ちっ。少しは見直したかと思えば……やはり北郷一刀と同じだな。甘い考えだ」

 そう言って吐き捨てる左慈。
 こいつ……本当に一刀のことが嫌いなんだな。
 やれやれ……

「ふふ……私はとても見直しましたよ。いえ、惚れなおしました。貴方のその意地……まるで左慈そっくりです。治ったら、ぜひ付き合って欲しいですね」

 げ……

「ほう、俺とそっくりだというのは承服しかねるが、お前が北郷と付き合うというならば歓迎しよう。その分、俺の被害が減る」
「被害だなんて……つれないですねえ。てっきりヤキモチでも焼いてくれるかと思ったのですが」
「焼いた覚えも、そうなる前例も予定もない。お前とは仕事上の付き合いなだけだ」
「はいはい……まあ、今はそうですねえ」
「今後一切、変化する可能性はないがな」

 ……もしかしなくても、今の俺って。
 まな板の上の鯉?

「安心しろ。こいつは本人の承諾なしに手を出すようなことはせん。したら俺が殺してやる」
「おお怖い……しませんよ。愛の無い行為なんて意味が無いじゃないですか」

 ……貞操の危機は去った?
 いや、あんまり安心できないけど。

「ともあれ、もう少し休め。もう一日経てば、少しはまともに話せるはずだ」
「そうですね……輸液がわりに不老長寿の水を使っていますから、後二、三日もすれば起きられるでしょう」

 点滴にあの水を……なんでもありだな、ほんと。
 ……あ。

「そう、だ。試、練……俺、は、どう、なん、だ……?」
「む? ああ……ふっ」

 そう言って左慈が微笑む。
 あ……眠気がまた……

「決まっているだろう……合格だ」

 その言葉を聞くと同時に。
 俺の意識は、また途切れた。
 
 

 
後書き
しばらく盾二はドクターストップ。
そしてまた舞台は梁州へ。 
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