八条学園怪異譚
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第三十八話 狐道その七
「何しろ我等の神様だからな」
「ううん、狐さんと私達じゃまた違うのね」
「その辺りは」
「そういうことじゃ、しかしあんた達もお稲荷さんは嫌いではあるまい」
「まあね、狐さん達自体が嫌いじゃないから」
「それでね」
だからだというのだ、二人も稲荷は嫌いではなかった。稲荷は古くかrあ日本人の間では広く親しまれている神様の一柱だ。
それでだ、愛実がこう言った。
「お供えもね」
「何をお供えするかはわかるな」
「油揚げよね」
「左様、まずはそれじゃ」
「狐さんだからなのね」
「この世に油揚げ程美味いものはない」
狐はその九本の尻尾をぱたぱたとさせながら言い切る、どの尻尾も動いているので箒を一度に動かす様だった。
「あれで酒を飲むと最高じゃ」
「確かにお酒と油揚げって合うわね」
「凄く美味しいわね」
「わしも若い頃は地蔵に化けてお備えのお菓子をくすねたりしておったが」
狐はここで昔話をはじめた。
「油揚げを出されてついつい涎を流し尻尾を出して人間にぶん殴られたものよ」
「それ普通に悪いことでしょ」
「そんなことしたら怒られて当たり前よ」
「狐にとって悪戯は仕事じゃ」
狸もこれは同じだ、妖怪変化の中でも狐や狸達はとりわけ悪戯が好きなのだ、それでそうしたこともするのだ。
「何、些細なことじゃ」
「というかあんたそんなことしてたの」
「どれだけ悪い奴なのよ」
「だから狐や狸は悪戯が仕事なのじゃ」
狐の立場からの言葉だった。
「今もよく学園の中で化かしておるぞ」
「そういえばうちの学園って何かと化かされたって感じのお話が多いわね」
「あんた達がしてるのね」
「安心せよ、我等のすることは悪戯じゃ」
あくまでそれに過ぎないというのだ。
「犯罪はせぬ、人の世で言う様なものはな」
「だったらまだいいけれどね」
「この学園にもいられるのね」
「人を取って食うなぞはせぬ」
それも断じてだというのだ。
「日本の狐は凶悪な者は少ないからのう」
「ああ、そうなんだよな我が国の狐さん達ってな」
「狸さん達もだね」
ここで猫又と送り犬も言う。
「悪戯はするけれどね」
「人を取って、とかはないね」
「そもそも我等は小さい」
身体の話にもなる。
「他の国の狐達に比べてな」
「えっ、そうなの?」
「日本の狐さんって小さかったの」
「そうじゃ、実は小さいのじゃよ」
その狐の言葉だ。
「狼さん達もだったがな」
「ああ、ニホンオオカミね」
「絶滅したわね」
「まあ奈良の方におるという噂もあるがな」
実は絶滅していないという噂もある、奈良県と和歌山県の山の深いところに僅かだが生き残っているという話だ。
「とにかく狼さん達も日本のものはな」
「小さいのね」
「そうなのね」
「そうじゃ、小さかったのじゃ」
「何で小さかったの?それで」
「どうしてなの?」
小さいには小さくなる理由がある、二人はこのことも問うた。
それでだ、二人の中で小さい方である愛実が言った。
「私が小さいのはお母さんの遺伝だけれどね」
「うむ、わし等は山の中におるな」
狐はこのことから話した。
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