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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第二幕その十五


第二幕その十五

「あの書記だ」
「ベックメッサーさんですか?」
「そうだ。貴女に求愛しようとしている」
 リュートを手にまた窓のすぐ下に来た彼を見て言うのだった。
「あれだけは」
「いえ、それも」
「止めるべきだと言われるのか」
「そうです」
 剣を持つ手を必死に掴みながらの言葉であった。
「それだけは。どうか」
「言われてみればそうか」
 ヴァルターはここでエヴァの言葉を聞き入れて述べるのだった。
「あの様な男は斬る価値もないか」
「せめてそれだけはです」
「わかった。それではだ」
 エヴァの言葉を聞き入れ遂に剣を収めるヴァルターだった。
「これでな」
「有り難うございます」
「何はともあれだ」
 ベックメッサーはその間にもリュートを持って歌おうとしていた。
「早く歌うとしよう」
「ところでフロイライン」
「はい」
 ヴァルターはエヴァに対して問うのだった。
「レーネです」
「マグダレーネさん?貴女の家の」
「はい、そうです」
 こうヴァルターに対して答えるのだった。
「彼女がです」
「そうか。それなら今は」
「はい。様子を見ましょう」
「そうするとするか」
 こうしてヴァルターは今は様子を見ることにしたのだった。その間にもベックメッサーは歌う準備をしている。それを進めながらザックスに対して言ってきた。
「それでザックスさん」
「はい、何でしょうか」
「何はともあれ私は貴方を尊敬してはいます」
 これは彼の偽らざる本音である・
「人としても靴屋さんとしても」
「それはどうも」
「そして芸術家としても」
「早く逃げ出したいのだけれど」
「あの二人がいる限りは」
 二人のやり取りを顔を曇らせて聞いているエヴァとヴァルターだった。しかし二人のやり取りはそのまま彼等にとっては延々と続くのだった。
「ですから貴方の批評は大いに歓迎します」
「ほう、そうなのですか」
「ですから御願いです」
 自信に満ちた声でザックスに告げる。
「どうかこの歌をですね」
「はい、今から歌われる歌を」
「聴いて下さい」
 恭しく一礼してからまた述べるのだった。
「是非。明日はこれで勝利を得るつもりですから」
「だからなのですね」
「そうです」
 そしてまた答えるのだった。
「御気に入るかどうか知りたいですから」
「ほう、それはまた」
 ザックスは彼の言葉を聞いておどけたふうを装って応えるのだった。
「貴方は私のうぬぼれ心を掴まれるというのですか」
「まあそう考えて頂いても結構です」
 はっきりと言うベックメッサーだった。
「それならそれで」
「靴屋が詩人と自負するから靴の方がさっぱりになる」
 ザックスはここでこんなことを言ってきた。
「貴方によくこう言われて叱られているではありませんが」
「ですからそれは」
 確かにいつも言っているから分が悪いベックメッサーだった。
 
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