ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第二幕その十一
第二幕その十一
「悪霊の如く私を嘲ろうと群がっているマイスター達がいます」
「あの方々がですか」
「彼等は高慢に頷きながら貴女を取り囲んで見下ろしつつ」
ベックメッサーが全体に見えてしまっているのだった。
「鼻声や金切声で貴女に求婚し」
「そして」」
「そして歌手席に立って色男ぶりながら貴女を賛美するのです」
もう耐えられないといった感じであった。
「貴女を取り囲んでです」
「だからですか」
「そうです。私は耐えられない」
今にも腰の剣を抜きそうな顔になっていた。
「そう。ですから」
「一緒にですか」
「そうです。むっ!?」
ここで自分が先に歩いたその道に誰かがいるのに気付いたのだった。
「あれは」
「安心して下さい」
エヴァはそっと警戒するヴァルターに対して告げた。
「あれはです」
「はい、あれは」
「夜の見回りの人です」
「巡検のですか」
「はい、そうです」
こう彼に説明するのだった。
「ですから安心して下さい」
「そうですか。それじゃあ」
「あまり怒ってはいけません」
エヴァは落ち着きを取り戻したヴァルターに対してそっと告げた。
「それよりも今は」
「今は?」
「こちらに」
道の菩提樹へと導くのだった。
「こちらへ隠れて下さい」
「はい、それでは」
ヴァルターは彼女の言葉に従い身を隠す。そうしてそこからエヴァに対して尋ねるのだった。
「ところで貴女は」
「はい」
「逃げられないのですか?」
「では逃げなくていいのですか?」
逆にエヴァの方が微笑んで問い返してきた。
「私は逃げなくても」
「では身をそらされるのですか」
「はい、マイスタージンガーの歌審判には」
「お嬢様」
ここで窓からそっとマグダレーネが言ってきた。
「もう帰る時間です」
「ええ、わかったわ」
エヴァはその言葉に頷き家に戻る。ヴァルターがその菩提樹の中に身を隠しているとやがてその夜の巡検が来て言うのだった。黒い服にランタンを持っている。
「皆さん十時の鐘が鳴りました」
こう町の人々に告げるのだった。
「何処にも災難のないように。火の用心を御願いします」
火が注意されるのは何処でも同じだった。
「神を賛美致しましょう」
こう言うとその場を後にした。ザックスはその間家の扉の向こうから二人の話を聞いていた。そうしてそのうえで一人呟くのだった。
「駆け落ちか。それはよくないな」
二人の言葉が何を意味していたのかわからないザックスではなかった。
「それだけはよくない。ここは注意しておくか」
「さて」
そしてここでヴァルターの菩提樹の後ろから言うのだった。
「不安だが。むっ」
「騎士様」
そのエヴァが家の裏から来てヴァルターのところにやって来たのだった。
「それでは。参りましょう」
「私は今マイスタージンガーになった」
ヴァルターはほっとしたように言うのだった。
「貴女がここに来られたのだから」
「けれど今は」
「わかっている」
自分の前に来たエヴァに対して頷いてみせた。
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