ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第二幕その九
第二幕その九
「ベックメッサーさんね」
「はい、あの人ですけれど」
「どうしたものかしら」
「そうですね。どうしたものでしょう」
二人はここでお互い腕を組んで首を捻り合う。そうしているうちにエヴァはふとこんなことを思いつきそのうえでマグダレーネに対して言うのだった。
「そうだ」
「何か思い付かれましたか?」
「ええ。レーネ、貴女がね」
「私がですか」
「そうよ。私のかわりに窓に出て」
こうマグダレーネに提案するのだった。
「そうしてね」
「そうしたらダーヴィットが見たら焼き餅を焼きますけれど」
「大丈夫よ、ベックメッサーさんに貴女が興味がないのは誰でもわかってるし」
「はい」
これもまた省周知のことであるのだ。
「その貴女にあの人が歌を贈ってもよ」
「ダーヴィットは私に怒らずに」
「そうよ、あの人に対して怒るわ」
ここまで見ているのだった。
「これでどうかしら」
「そうですわね。それでしたら」
「レーネ、何処だい?」
ここで家の中からポーグナーの声がしてきた。
「レーネ、何処にいるんだい?」
「あら、いけないわ」
マグダレーネはポーグナーのその声を聞いて言った。
「旦那様が御呼びです」
「じゃあもうこれで」
「はい、それじゃあ」
これで二人は家の中に入ろうとする。ところがここで町の中央の方から一人やって来たのだった。それが誰かと見れば何と。
「あの方だわ」
「あの方?」
「ヴァルター様よ」
こうマグダレーネに話すのだった。
「あの方が来られたわ」
「騎士殿がですか」
「ええ、そうよ」
こうマグダレーネに対して答えるのだった。
「あの方が」
「ではどうされますか?」
「少し御話がしたいわ」
エヴァは真剣な顔でマグダレーネに答えた。
「ここはね」
「それではです」
マグダレーネはここではエヴァの言葉に頷くのだった。
「ここは私にお任せ下さい」
「協力してくれるの?」
「何言ってるのですか。私はお嬢様にとって何ですか?」
「お友達よ」
にこりと笑って問うてきたマグダレーネに対して答えるのだった。
「それ以上のものかも知れないわ」
「そうですわね。それではです」
「いつも有り難う」
「御礼はいいんですよ。それでは」
「ええ、頼んだわよ」
「はい、これで」
マグダレーネはエヴァに対して右目でウィンクしてからそのうえで家に戻った。エヴァはそのこちらにやって来たヴァルターを待つ。こうして二人はここでまた出会うのだった。
「フロイライン」
「騎士様」
互いにそれぞれ言い合うのだった。
「お話は聞きました」
「そうですか」
ヴァルターはエヴァの今の言葉を聞きまずはその顔を強張らせた。
「それをですか」
「はい。ですが」
しかしここでエヴァは言うのだった。
「貴方は優勝の勇士です」
「馬鹿な、私は」
「いえ、私にとってはです」
ヴァルターを見上げそのうえで見詰めての言葉だった。
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