魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter22「自覚する想い」
前書き
更新が遅れました。
リアルが多忙で中々手が付かなかったのが主なり理由です。
すみません。
食事が終わり後片付けも終わる。一段落つくとはやてが口を開く。
「さて、サーチャーの様子を監視しつつ、お風呂済ませとこか」
「「「「はい!」」」」
風呂という単語が出たからだろうか。エリオはともかく、特にスバル、ティアナ、キャロは嬉しそうに返事をする。女性というのは本当にお風呂が好きなようだ。
「なぁ、風呂に入るのはいいが、ここに風呂ってあるのか?まさか湖で水浴びなんて言わないだろうな?」
「そうよね……ここお風呂ないし、ルドガーの言うとおり湖で水浴びは間違いなく風邪ひくわよね」
アリサの言うとおり、暖かくなったとはいえ、水浴び等この湖の冷たさで出来るものではない。
飲み物を取りに言ったルドガー達がそれを一番わかっている。
「そうすると……やっぱり」
「あそこですかね」
「あそこでしょ!」
そこでなにか心当たりがあるのか現地の人間は揃って声をあげる。
「それでは、六課一同。着替えを用意して出発準備!」
「これより、市内のスーパー銭湯へ向かいます」
「スーパー?」
「銭湯?」
「スーパーはともかく、銭湯ってのは公衆浴場の事だよ」
なのはとフェイトの号令にあったスーパー銭湯という単語がミッド育ちの、スバルとティアナには伝わらない。ルドガーはティアナ達にも簡単に銭湯について説明する。
銭湯がどういうものかわかったティアナとスバルは、隊長達やルドガーを見習って銭湯へ行く準備を始める。
「よし!準備できたらさっさと行くで!」
「「「「はい!」」」」
「ああ」
はやての号令が終わり、車に乗り込み六課メンバーと現地協力者一同は銭湯へ向かう。
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「はい!いらしゃいませ~!海鳴スパラクーアⅡへようこ……団体様ですか~?」
スーパー銭湯こと海鳴スパラクーアⅡに着く、営業スマイル全開の店員がルドガー達を出迎える。ルドガー達の人数の多さに流石に店員も一瞬驚いた様子を見せたが直ぐに慣れ、対応を始める。
「えっと~大人13人と……」
「子供4人です」
「エリオとキャロ……」
「私とアルフです!」
こういう公共の施設では子供料金が必ず設けられており、また施設によっては子供は無料、会員限定サービスというモノもあり、年齢や資格によって楽しみ方も違うのもまた面白い。
「あの……ヴィータ副隊長は?」
「私は大人だ!」
「えっ?」
「あン?」
スバルの疑問に対してヴィータは当たり前のように応えるが、その応えに素直に納得がいかないルドガーは声を漏らし、ヴィータに睨まれる。借金生活で節約癖がついたルドガーとしてはどう見ても子供のなりをしたヴィータには、経費から出るとはいえ余分なお金を使わない為にもここは子供料金で入ってもらいたいところ。ヴィータに子供料金で入ってもらう為交渉を始めようとするが……
「な、なんでもありません……」
「わかればよし」
彼女の圧力を前に結局折れた。受付の店員に案内されルドガー達は支払いのあるはやてを残し男女の暖簾がある前まで移動する。暖簾に書いてある文字は読めないが、何となく男女に分かれているのはルドガーにも伝わる。
「……男女別か。混浴じゃなくてよかった」
「ですね。混浴だったら大変でしたね……」
ルドガーは過去のトラウマから混浴だけは絶対に避けたいようだ。しかしエリオはルドガーのような苦い経験はないはずだが、単純に女性と一緒に風呂に恥ずかしさもあり入りたくはないのだろう。
何処かの自称強すぎる商人にも見習わせたいところだ。
「エリオくん、一緒にお風呂入ろう!」
「ええぇぇ!?だ、だめだよキャロ!僕は男の子だし、それにルドガーさんだっているし……」
恥じらいもなく異性のエリオを一緒にお風呂に誘うキャロにたじたじなエリオ。
だがそこにフェイトが更に追い討ちをかける。
「……でも、せっかくだし一緒に入ろうよ」
「フェイトさん!?」
エグ過ぎる……キャロとフェイトの見事な共鳴術技並みの華麗な連携に男として彼女達に戦慄する。
壁の貼り紙には、女性風呂への混浴は11歳以下の男児のみでお願いしますと書かれている。
エリオは10歳という制限をクリアしている為、問題なく女湯へ入れる。
「え……い、いや……あ、あのですね!それはやっぱり……スバルさんとか、隊長達とか、アリサさん達もいますし!」
ありとあらゆる抵抗を試みるエリオ。
しかし……
「別に私は構わないけど?」
「てゆーか、前から頭洗ってあげようかとか言ってるじゃない」
「私らもいいわよ……ね?」
「うん」
「いいんじゃないかな?仲良く入れば」
……無情にもティアナとスバル、アリサ、すずか、なのはにエリオの退路は潰される。
「そうだよ……エリオと一緒にお風呂は久しぶりだし……入りたいなぁ」
「うぅ」
とどめのフェイトの一撃と表現できる言葉にエリオのライフは既にゼロ……と見えたがまだエリオは諦めていなかった。エリオはルドガーに助けを求めるような視線を送る。その小動物のような瞳を見てしまえば見捨てる事はできない。ため息を吐きルドガーはエリオに助け舟を出す。
「そのへんにしてやれよ。オトシゴロな少年には目麗しい女性陣と風呂に入るなんて刺激が強すぎて男の子の日をこの歳で経験してしまうぞ」
「お、男の子の日?ティア、知ってる?」
「私が知る訳ないでしょ……で、何なんですそれ?」
「男の子の日はな、男が必ず通る事になる思春期特有の衝動だ。特にバリボーな女の子を見るともう出すモノ出さないとヤバ---」
「アンタなんて事言ってんのよ!!」
「ぐはっ!?」
男の子の日が何なのか分からないティアナとスバルにルドガーは男の子の日が何なのか説明するが、意味を理解し顔を真っ赤にしたアリサに頬をおもいっきり叩かれる。ちなみに他の女性陣も意味を知らない者、キャロやスバル、ティアナ、リインは今でも首を傾げていて、意味が分かっていても大人な余裕で笑っている者や、逆に顔を赤くしてルドガーを睨んでいる者も多数いる。だがそれをも上回る怒気を放った何かがルドガーの前に降臨する。
「……ル~ド~ガ~!!」
「ヤバイなオイ、面倒なの来たよ」
床に尻餅をついているルドガーの目に入ったのは仁王立ちのはやてが憤怒の表情を浮かべ、ルドガーの元へゆっくり歩いてくる。
「……自業自得だな」
この状況を見ていたシグナムがふとそんな事を呟いた。そう……自業自得だ。
「全部そこの廊下まで今のルドガーの言っとった事聞こえとったで……アンタ、何て事を花も恥じらう乙女の前で言うとんのや!!」
「よし!逃げるぞ、エリオ!」
「えっ?ちょ、ちょ、ちょルドガーさん!?」
「この待てい!スケベ大魔王!!」
この分が悪い状況にルドガーはエリオの手を引っ張って男湯へ逃げ込む。あのままあの場にいたらはどうなっていたやら……考えたくはない。
「あ……行っちゃった」
「あのアホォ……次会ったら___を八つ裂きにしたる」
「はやてちゃん、___を八つ裂きにしたらルドガー君、男の子として死んじゃいますよ?」
「いいんじゃね?___チョン切られて生きてる野郎はいるみてーだし」
「いいえ、主はやてが手を下すまでもありません。この私がレヴァンティンでクルスニクの___をクルスニクごと一刀両断にしてくれます」
「お客様!公共の場で卑猥な発言はお控えください!」
明らかに営業妨害になるヤバイ発言を続けていた八神家一同は先ほど案内をしてくれた店員に注意を受ける。他のメンバーは知り合いと思われたくないので先に女湯に入る……懸命な判断だ。ただ……
「え~っと……」
……年齢制限の記載された貼り紙を凝視するキャロを除いて。
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男湯で逃げきったルドガーは自分があの場にいた女性陣にセクハラをしたという事実に気付く。
フェイトとキャロの気を逸らす為とはいえなんとも命知らずの事をやった事を今更後悔し、肩を深く落とす。
「あの……ルドガーさん大丈夫ですか?」
「大丈夫だ………早く風呂に入ろう」
肩を落とすルドガーに心配してエリオが声を掛ける。だが落ち込んでいる理由をエリオに話す訳にもいかず心配ないと告げるしかない。いつまでも気にする訳にもいかず脱衣場に向かう。
「カギは腕に付けるんだ。無くしたらカギは開けられないし、当然弁償だ」
ワイシャツを脱ぎ、エリオにロッカーの使い方を教える。おそらくこの感じだと銭湯のルールも知らないはずだ。
「…………」
「?どうした?」
いつもならすぐ返事をするエリオが何かを見て固まっいる。
ルドガーに声を掛けられハッとなるエリオ。
「い、いえ!その……ルドガーさんの体って凄い引き締まってるな……って」
「まぁそれなりに鍛えてたからな」
何となく上腕と腹筋に力を入れる。その姿にエリオは目を更に奪われてしまう。やはり少年でも鍛えられた身体というモノに興味があるようだ。
「ルドガーさんの働いていたクランスピア社のエージェントさんって、これくらい鍛えないとなれないんでしょうか?」
「まさか。これくらい鍛えれば誰でもなるよ」
「僕もこんなふうに鍛えらえっ!?」
「 ? 」
突然エリオがルドガーを見て……いや、ルドガーの背後を見て固まってしまう。何が後ろにあるのか確かめようとしたら、名前を呼ばれる。
「エリオくん!ルドガーさん!」
「おっ」
「キャ、キャキャキャキャロ!?」
振り向いた先には体にタオルを巻いたキャロが立っていた。ルドガーは一瞬だけ驚くが直ぐに元に戻るが……エリオは完全にパニックに陥っており、死にかけの金魚のように口をぱくぱくしている。
「キャロ……意外と大胆だな」
「 ? 」
「ふ、ふふふ、服!!服!?」
「うん。女性用更衣室の方で脱いできたよ……だからほら、タオルを---」
「うわぁ!?」
「はぁ……前は開けなくていいよキャロ。エリオが興奮するだろ?」
「こうふん?」
「し、しませんよ!!」
タオルを開けようとするキャロをルドガーが止め、エリオをフォローしたつもりが逆にもっと顔を赤くする。
「てゆーか、あの、こっち男性用!?」
「女の子も11歳以下は、男性用の方にも入っていいんだって……係りの人が教えてくれたから」
キャロの言葉に納得する。女湯に11歳以下の男の子が入れるならその逆もあるという訳だ。というかその積極性は大人のルドガーも見習うべきだが、エリオにとっては災難な事だ。現に今もエリオは顔を真っ赤にしており、話しが進む様子はない。見かねたルドガーはキャロに話し掛ける。
「しょうがないか……キャロ、一緒に入るか?」
「はい!」
「ルドガーさん!?」
叫ぶエリオにルドガーはエリオの背中をパンと叩き、耳打ちする。
「諦めろよエリオ。こうなってしまったらもう開き直るしなかない」
「で、でも……」
「役得だと思えよ。大人になったら女の子の生まれたままの姿なんて、なかなか拝めないぞ?」
「なっ!?」
悪い笑顔でそんな事を話すルドガーにエリオは声を上げずにはいられなかった。だがあながちその考えは間違ってはいない………ただし、健全な男としてはだが。
がっくりとうなだれるエリオの背中を押して、嬉しそうなキャロを連れ浴場へと入る。
「2人共、髪を洗ってやるよ」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます……」
シャワーの蛇口を回し冷水とお湯の比率を熱くない程度に調整しまずはキャロの髪を洗う。手慣れたようなルドガーの手付きはやはりエルの髪を洗っていただけの事はある。
「キャロの髪はサラサラだな。流石は女の子だ」
「えへへ」
「…うっ……」
キャロの隣にいるエリオは未だこの現実を認められないのか目を固く閉じ、首をキャロとは反対方向に向けている。ルドガーは純情な少年の印象をエリオから感じ、可愛い奴だと内心呟いていた。2人の髪を洗い終わり、ルドガーも自分の髪を洗い始める。体を一通り洗い終わり、3人は湯船に入る。
「はぁ~、気もちいね」
「そ、そうだね」
キャロがエリオにこれ以上とない最高の笑顔で話しかけているが、エリオはやはりぎこちない。こんな時は開き直った方がいいとは言ったが、この歳のエリオでは簡単になはやはり割り切れない。だが、ここはあえて助け舟は出さない。こういったモノを見るのもたまにはいい。昔の純粋だった頃の自分を思い出せるのは事もあるが、単純に困っているエリオを傍観するのが面白いからという事と、後のエリオの為……女性の耐性をつけるという意味もある。この程度で緊張していたらこの先のエリオの将来が心配だ。
ミュゼなんかに会って彼女にからかわれたり、彼女が基本全裸で飛び回っている事を知れば、鼻血の出しすぎで出血多量で死んでしまうのではと心配になってくる。
「あの……ルドガーさん」
湯船に浸かっているとエリオがルドガーに話しかける。
気を紛らわす意味もあるのだろう。
「どうした?」
「ルドガーさんって元の世界でエージェントっていう仕事やってたんですよね?」
「ああ。俺の世界では就職できたら勝ち組と言われるほどの一流企業クランスピア社の分史対……戦闘専門エージェントだった」
危うく分史対策エージェントだった事を口にしそうになり、戦闘専門エージェントだったと訂正する。エリオとキャロだからよかったものを、はやてやフェイト達だったら嘘を言っている事を感付かれていただろう。
「どうしてクランスピア社に就職されたんですか?どちらかというとルドガーさんなら飲食関係の仕事に就くっていうイメージがありますよね」
「私もそんなイメージがありました。ルドガーさんのお料理って凄く美味しいですし」
「ありがとな2人共……クラン社に入った理由は簡単に言えば、兄さんの影響かな」
「ルドガーさんのお兄さん?」
ここでユリウスの話しが出ると思ってなかったのか、エリオが疑問の声を漏らす。
「兄さんはクラン社のエージェントだったんだ」
「お兄さんもエージェントだったんですか?」
キャロが確認する。
「それもクラン社のトップエージェント……兄さんの背中を見て育った俺が憧れない訳がなかった」
しかしルドガーは一度クランスピア社の試験に落ちていた……それも慕っていたユリウスが意図的にルドガーを落としたのだ。事実を知った時はユリウスに怒りを覚えたが、今は彼が自分を守る為に行った事だと知り、今では彼の想いは痛いほど分かっているつもりだ。
「お兄さんの事大好きなんですね」
「キャロやエリオでいうフェイトのような存在だよ。口煩くて、家事が出来なくて、馬鹿みたいにトマト好きでさ。毎日の食卓をトマト一色にしたいとか言ったり変なところもあるけど……俺にとっては大切な兄さんだったよ」
もしまたユリウスに会えるのならオリジンの審判も骸殻、クルスニク一族のしがらみもない世界で……願わくは今自分がいるこの世界で兄と同じ時間を生きてみたい。叶わない夢ではあるが、こんな夢を思い浮かべるくらい神様も許してくれるはずだ。
「私もルドガーさんに聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「ルドガーさんが持っている写真にちょっと体型のいい猫が写ってましたけど、あの猫はもしかしてルドガーさんの飼い猫なんですか?」
「ルルって言うんだ。ルルは凄いんだぞ?他の猫を引き連れて、タマゴや野菜、魚、お酒とか色々持ってくるんだ」
「お酒!?」
驚いたのエリオだった。驚くのも無理はない。猫が酒を持ってくるという事事態がまずイメージができないだろう。
「虫に木刀にぬいぐるみ、ハチの巣なんて持ってきた時はビビッたよ。何せまだ中にハチがいて刺されたりもしたしな」
「ルルちゃんって……凄いんですね……」
それからもキャロとエリオはルドガーに質問したり、逆にルドガーが質問したりと他愛のない会話を楽しんだ。
………主にルル関係の話しで………。
------------------------
「あぁ~ええ湯やなぁ」
湯けむりが発つ女湯の湯船に浸かりながら、気持ち良さそうな声を上げるはやて。他の女性陣も同じような感想を言っていた。
「こんなにゆっくりお風呂に入るのは久しぶりだね」
「あーあ……エリオとキャロとも入りたかったな……」
「フェイトちゃんまだ言ってるんか?」
どうやらフェイトは家族同然で可愛いがっているエリオとキャロと一緒に風呂な入れなかった事が寂しいのか残念そうな表情を浮かべていた。
「そう落ち込むな。これからいくらでも機会はあるはずだ」
「ですよね……でもやっぱり---」
丁度フェイトが言葉を言い掛けた時2つの別の声がフェイト達に掛けられる。
「皆さん!」
「エリオ!キャロ!」
声を掛けたキャロにスバルが駆け寄る。隣のエリオは恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてできるだけスバルの体が目に入らないよう足下を見ている。そんなエリオの気も知らないスバルはバスタオルも巻かずに堂々と彼に話し掛ける。スバルも入れ、ここにいる女性陣は皆美人ぞろい。今の女湯はまさに花園……男のロマンそのものだろう。
「2人共どうして!」
「エリオくんと一緒に露天風呂に入ってたんですけど、混浴で女湯の方にも行けるみたいだったので来ちゃいました!」
2人の登場に歓迎するフェイト。さっきまでとは違い表情がずっと明るくなっている。
「僕はできればここには来たくなかったんですけど……」
「いいんじゃない?女湯に入れるなんて子供の時だけなんだから、今の内に見ておけば?」
冗談混じりにそんな事を話すティアナ。しかしその言葉はエリオを男として扱っていないようなものであり、エリオとしては心中複雑だ。
「なんて事言うんですか!?というかティアさんもルドガーさんと同じ事を言うんですね……」
「はい?ルドガーさんが私と同じ事を言ったの?」
瞬間、キャロを除く女性陣の雰囲気が一変……軽蔑のものに変わる。中でもはやてに至っては笑顔ではあるが、目からハイライトが消え歴戦の戦士ですら怯むほどのオーラを放っていた。
「にゃはは……ルドガー君も男の子なんだね」
「エリオにそんな事を教えるなんて……ちょっとお話が必要かな……かな?」
「ちょ、フェイトさんそれ私の台詞です!」
何故か分からないが今フェイトが口にした台詞は自分の物……他人に使われるのは自身の存在を奪われたような気がしたからだ。
「?でも露天風呂とっても気持ちよかったですよ。ね!エリオくん!」
「そうだね。星が綺麗に見えました!」
「ん?2人はルドガーと一緒にいたんやないの?」
この場にいる者の殆どが、エリオとキャロの2人が男湯でルドガーと一緒にいるのだと思っていた。では今ルドガーは男湯にいるのだろうか?
「一緒にいましたよ。でもルドガーさんが僕達に子供用の露天風呂がある事を教えてくれて、2人で綺麗な夜空を見て英気を養えって……それでキャロと僕はルドガーさんと別行動に」
「ルドガーさんも星が見たいからって普通の露天風呂に入ろうかなって言ってました」
「ほぇールドガーさんも意外とロマンチェックなところがあったみたいですよー」
「意外と言えば意外だよなー」
ルドガーなりに2人を気遣った行いがリインとヴィータからしたら意外だったらしく物珍しそうな顔を見せる。
「でもあの人の事だから今のお二人の言葉を聞いたら、俺はロマンに生きる男だって言いそうよね」
「あはは!ルドガーさんの事だからそんな事本当に言いそうだよ~」
ティアナが思い浮かべた事をスバルも納得する。ルドガーは確かに澄ました顔で本当にそんな事を言いそうである。 流石は2ヶ月もの間ルドガーの下で銃を学んでいただけあって自分の師の可笑しな部分をわかっている。
「ふっ、本当にクルスニクならそんな事を口にしそうだ……とはいえ奴はやる時はやる男だ……剣の腕もだが料理の腕もなかなかだ」
「そうよねぇ!私もあれくらいお料理の腕が上達したらいいのに………って何この敗北感?……グスッ……や、ヤダ私、何で泣いてるのかしら?」
「シャマルはどうして泣いてるですか?」
「ほっとけリイン……越えられない壁の高さをルドガーの料理の腕を見て改めて実感したんだよ」
「こ、越えられなくありませんよ!」
やれやれと同情に近い態度でシャマルに接するヴィータ。シャマルは涙目で抗議してみるが逆にそれは再び壁の高さを思い知らされる事となり落ち込む事となる。
「あれ?ここの露天風呂って確か………」
シャマルを励ましていたはやては今ルドガーが入っている露天風呂について何かを思い出し……そしてニヤっと笑う。
「どうかしたのはやてちゃん?」
「別にー?なんであらへんよー。他の風呂行ってこうか考えとっただけやからー」
そんなはやての様子を見て不思議に思ったすずかが彼女に声を掛けるが、何でもないと言い湯船から出る。
「じゃあ私達も一緒に……」
「ごめんなぁアリサちゃん。でもちょー1人で今は入りたいんや……せやから……」
走る。あっという間に別の浴場に続く扉の前に立つ。その素早い動きに他の者は唖然としてしまう。扉を横にスライドさせ飛び込む。
「いっえーい!トロピカルヤッホーぃ!!」
「主はやて!?」
裸体のまま謎の叫び声をあげながら夜天の主はシグナム達の前を後にした。
何が彼女にあんな奇怪な行動を起こさせたかは誰にもわからなかった。
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幾つもの星が海鳴の夜空から多量の湯気を放つ露天風呂を照らす。この今目に入ってくる光が何万年も前の光だとは科学的に解説されても信じられない……いや信じたくはない。
「はぁ~気持ちいなぁ……普通温泉の方が温泉効果とかあって体に良いらしいけど、これはこれで気がらくだし断然良い……」
以前ノヴァが借金完済祝いという事で誘ってくれた混浴温泉では気が休める時など一時もありはしなかった。ティポの狭い体内にぎゅうぎゅう詰めに無理矢理入れられ、更に消化されかけたりでルドガー達男性パーティはむしろ命の危機に陥りある種の拷問を受けた。それと比べるとこの露天風呂の方が断然過ごしやすいのだ。
「……でも少し物足りないな……」
しかしこれ程の解放感は逆に返って堪能していく内に静かすぎるような気もしてくる……案外あの混浴温泉はアレはアレで本人が自覚していないだけで楽しかったのかもしれない。
「ザフィーラとかヴァイスとか来てくれてたらちょっとは……」
「なら私が一緒にいてあげようか?」
「ああ!丁度暇してたから助か…る…よ?……へ?」
1人の時間を持て余していた正にその時ルドガーに声を掛ける者が現れる。声を掛けてくれた者に感謝するところだがその人物の声に違和感を覚える。男にしては妙に声色が高い上変な訛りがある。
というかこの独特の訛り以前に声自体におもいっきり聞き覚えがある。
(は、はは……幻聴だよな?もしかして俺のぼせてるのか?)
恐る恐る声のした方に目をやる。
今自分が思い浮かべた人物がここにいるはずがない……きっと体に溜まった疲れがこの風呂の心地よさで癒されてた事で出てきた自分の幻聴……即ち男の煩悩が元凶だ。
「ル~ドガー!」
「ナァァァァ!?」
幻聴だと思っていた者は間違いなく実体を持ってルドガーの目の前でとても可愛い声で彼の名前を呼び立っていた。そしてルドガーはこの状況とその人物の姿を見て堪らずルルのような鳴き声のような叫び声を上げ、更に足を滑らせ後ろに倒れてしまい盛大に水しぶきを上げてしまう。
「ぶはっ!!げほっ、ごほっ!……何でお前がここにいるんだはやて!?」
「何でって言われてもなぁ……ここ混浴やで?入り口の扉に混浴って書いた貼り紙貼ってあったやろ?」
「貼り紙……あっ」
思い出した。確かにここに入る前に扉に貼り紙があった。だが日本語で書かれいたからルドガーには当然読めるはずもない。
「まさか……知らずに入ったん?」
「あ、ああ……風呂に入る前に他の客が露天風呂の話しをしているのを偶然聞いてな……それで場所が分からないから幾つかの浴場を彷徨って、ようやくたどり着いたんだ」
「ふ~ん……で、なんでルドガーは手で目を隠してるん?」
「……わかってて言ってるよな」
「うん♪」
今のはやてはタオル一枚をただ胸元から大腿に垂らしているだけであり、異性で紳士なルドガーは勿論本能剥き出しで彼女に襲い掛かるような事はない。
「いい性格してるよな……って入るのかよ!?」
チャプっという水に何か物が入る音が聞こえ、見ると既にはやてが湯に浸かっている。
しかもルドガーのすぐ傍に陣取っていた。
「当たり前やろ?ここに来たのは湯に浸かって体暖める為にきたんやから」
「だからってわざわざ俺の隣に来る必要がうおっ!?」
強くはやてに説教をするつもりだったが、背中に2つの柔らかい感触を感じて口を止めざる以外選択がなかった。胸だ……この胸は間違いなくはやての胸が当たったいる。前に腕に絡んできた時にもこの感触を味わった事があるが、今回は狼狽せざるおえない。
着痩せしてたのか……これが背中に当てられたはやてのモノへの素直なルドガーの感想だった。
「どうや?私のおっぱいは?」
「………」
恥じらいなくそんな事を堂々と言えてしまうはやてに絶句し呆れてしまう。
だがルドガーは気づいていない。
こんな行動を取るはやてだが恥ずかしくない訳がない。今も心臓は爆発寸前……ルドガーがここで攻めに転じたら確実にアウト……戦い?ははやての負けになってしまう。流石に身が保たないと感じたはやては一時ルドガーの背中から離れる。彼が緊張に慣れ、その際この心臓の激しい鼓動を聞き取られてはもはや死ぬ以外道はない。お互い背中合わせになり一言も話さない。少しの沈黙が流れた後、ルドガーがはやてに話し掛ける。
「なぁ……はやて」
「な、なんや?」
「ありがとう……俺をこの海鳴市に連れてきてくれて」
「どうしたん突然?」
「いや、な……出発前に一緒に行くのに渋ってたけど、実は嬉しかったんだ……」
チラッっとルドガーの横顔を盗み見る。その顔はとても穏やかなモノで、はやては時折こんな顔をしたルドガーを見た事がある。最初に見た時は初めてルドガーと出会った時……医務室のベッドに座るルドガーと話しをしている時だ。……笑っているはずなのに彼の笑顔はそうは見えない……むしろ泣いているようにすら見え、理由を聞こうと何度思った事か。だがはやては聞く事はできなかった。
知る事が恐かった……それを知って自分が受け入れられるか自信がなかった。
なのは達にルドガーが話してくれるまで待つと言ったクセして結局は彼を知る事を恐れている自分にはやてはもどかしいさを覚えてしまっていた。
「はやて達の生まれ育った場所を見れたのはいい収穫だ」
「またまた……それに当たり前や……ルドガーは六課の一員でもうとっくに私の大切な人なんやから」
「大切な人…か……」
「あっ!別にた、た、他意はないんよ!勘違いしたらア---」
「そうだな……俺にとってはやては大切な人間だ」
「ふぇ!?」
突然振り返り目を見てそう話すルドガーに恥ずかしさを覚えずにはいられない。
「冗談やったら---」
「バーカ、こんな事冗談で言うわけないだろ」
「バカってなぁ……女の子に言う台詞やないやろ?」
「本当の事を言っただけだ」
「本当の事ってあんな、私は---」
ルドガーより頭は良いほうだと言うつもりだったがルドガーの真っすぐで翠色の瞳に魅せられ、
はやては言葉の続きを話す事ができない。
「あ、あの……ルドガー?」
「はやてに出会えてよかったよ」
「……ルドガー」
胸が高鳴るのが意識しなくともわかる。トック……トック……トック……熱い……まるで胸の中に太陽が現れたみたいだ。この高鳴りは間違いなくルドガーがはやてに与えたモノ……もう間違いない。
自分は……八神はやては間違いなくルドガー・ウィル・クルスニクに惹かれている。
友達でも親友でも仲間でもなく……彼の傍らで彼を支えたい……彼の笑顔を見てみたい。
「なんてーな。キザっぽいよな今のは?」
「はは、ホンマや……料理人より小説家にでもなった方がええんとちゃう?」
「小説家か……よく考えて見たら俺の人生談って本にしたら……売れるんじゃないのか?」
はやてに言われた事をワリと真剣に本のタイトルやペンネームを考え始めるルドガー。いつもならここではやてがツッコミを入れるはずだが今回はそれがない。
件のはやては計画性のないルドガーの話しを何も言わずに笑って見ていた。
「ルドガー」
「ん?」
だが今はまだこの気持ちを伝える時ではない。
この気持ちを伝えるのもその返事を求めのもまだ先……ルドガーの胸にあるモノを彼の口から聞いてからだ。
だから今は……
「ありがとうな……ルドガー」
彼の笑顔を見るだけで十分だ。
後書き
ここでお知らせです。
実は既に所謂「魔法降臨編」までのストックが完成しつつあります。
その後にルドガーの過去を六課メンバーに話すという風に考えていますが、いかがでしょう?
で、過去を六課メンバーが知る方法を、ルドガーの記憶を見る方式と、ルドガーが口で話す方式の
どちらがいいでしょうか。
感想・メッセージで軽いアンケートを取って決めたいと思います。
読者様一人一人の『選択』が、この物語の未来を紡ぎます。
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