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私立アインクラッド学園

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第二部 文化祭
  第10話 黒歴史

 アスナとリズは先ほど、「鍛冶室で待ってるね」と言った。急ぎ着くと、俺はまりあの手を放した。

「な、なんなんですかー。走るの速すぎですよ、キリト! 息止まっちゃうかと思いました……」

 はてさてまりあは、いつから俺を「キリト」と呼ぶようになったのか。別にいいけど。
 俺は鍛冶室入り口から声を張り上げる。

「アスナ、リズ! いるよな?」
「あっ、キリト君! 早かったねー」

 アスナがほわんほわん笑い、奥から出てくる。そして俺の傍らにいるまりあを一瞥すると、首を傾げた。

「……えっと、キリト君の知り合い?」
「そんな感じかな。アスナ、リズ、こちら桜まりあさん」

 アスナと、続いて奥から出てきたリズが、まりあに微笑みを向ける。

「はじめまして、桜さん。わたしは結城明日奈。アスナって呼んでね」
「あたしは篠崎里香。みんなにはリズベットとかリズとか呼ばれてるわ。ま、テキトーに呼んで。あたしはあんたのこと、まりあって呼ぶから」

 ここで、ずっと抱いていた疑問をぶつけてみる。

「……あのさ、リズ」
「ん? どうしたのキリト」
「……『篠崎里香』が、なんで『リズベット』って呼ばれてるんだ?」
「はあ? あんた、知らないわけ?」
「知りません」

 リズが呆れたように溜め息を吐く。

「あ、わたしも知らないよ」

 アスナが苦笑混じりに挙手して言う。

「アスナまで知らないの!? ……『リズベット』はあたしの異世界ネーム……だったんだけど、いつの間にかこっちでまでそう呼ばれるようになったのよ。……まさか、異世界ネームまで知らない、なんて言わないわよね?」
「その異世界とやらも、最近知ったんだけどな」
「げっ! キリト……あんた、終わってるわー」

 勝手に完結させられた。

「あの、キリト」

 まりあが困った表情でこちらを見ている。

「あ、あの……どうして私をここに連れて来たのですか?」
「……あ、ああ。文化祭の出し物に困ってる…って、俺言ったよな? だからさ、まりあさえよければ、なんか作曲してくれないかなと」
「その作った曲を、どう使うのです? 私が唄うなんて嫌ですからね」
「ええと、アスナとかリズ辺りが唄ってくれればなと……」

 俺はアスナに目をやった。

「……そうなると、キリト君はなにをするのよ?」
「照明」
「キリト君にはできないでしょ」
「音響」
「もっと無理でしょ」
「鑑賞」
「もはや参加してないよね」
「謝罪」
「普通に謝りなさい!」

 ──自分のことは考えていなかった。
 俺、ほんとやることないな。

「じゃ、キリトも唄っちゃえば?」
「え」
「中等部1年の時にやったものよかマシでしょ」

 リズが意地悪な笑みを浮かべる。

「そ、そのことは今言うなよ!」
「ふっふっっふ、んまぁ、キリトの黒歴史だもんねぇ~」
「キリト君の黒歴史ってなに? すごく気になるんだけど」
「知らなくていいよ! 頼むから変な詮索はしないでくれよ、アスナ」
「リズ、あとで教えてね」
「了解、アスナ」

 リズがアスナにウィンクする。俺ははぁ、と溜め息を吐いた。

「……えっと、キリトの黒歴史って」
「知らなくていいって言ってるだろまりあ!」

 と、とりあえず話を変えるべきだろう。

「でさ……まりあ、作曲の方は頼んでもいいか?」
「いいですが、何曲ですか?」
「できるなら、アスナの分とリズの分とスグの分とスグの分と……4人分頼む。できなかったら1曲でも全然いいよ」

 その時、アスナがガシッと俺の肩を掴んだ。らしくない、低い声で言う。

「……キリト君」
「な、なんでしょうアスナさん……」
「キリト君も、ソロで唄ってくれるわよね?」
「無理です」
「あら……わたし達に対しては何の相談もせずに勝手に唄わせることにしておいて、それはあまりにも不公平じゃない?」
「うっ……」

 アスナは俺の胸倉を掴むと、にっこりと微笑む。

「……やらなかったらどうなるか……わかってるわよね? キリト君♥」

 ──語尾がこわい。こわすぎる。俺はこくこく頷くしかなかった。

「じゃあ、きまりね。桜さん、もう一曲追加しておいてね」

 アスナは俺からパッと手を放すと、いつもの表情をまりあに向けた。

「く、首絞まった……死ぬかと思った……」
「なにか言ったかな、キリト君★」

 なんかまた語尾がこわい気がする。
 本当に斬られかねないので、「なんでもありません」と大きくかぶりをふった。

「じゃあ、これにて今日は解散! 授業始まっちゃうしね」

 リズがパン、と手をうつ。

「アスナ、次の授業なんだっけ?」
「次は……確か、歴史の授業じゃ」
「桐ヶ谷和人は保健室でご臨終です」

 即座に言った俺に、アスナは苦笑いを浮かべた。

「それ、結構冗談にならないよキリト君……。どんだけ授業嫌なのよー」
「そうそう、歴史といえばキリトの黒歴史よね。キリトがあっち行ったら教えるわ」
「俺、鍛冶に目覚めました! 鍛冶室に残るよ!」
「そう? じゃああたし達は廊下歩きながら」
「俺の黒歴史について話したって、誰も得しないだろ!?」
「得しかしないよー。リズ、あとでちゃんと教えてね」
「もちろんよ、アスナ」
「ち、ちょっと待てー!」
 
 

 
後書き
※閃光様のキャラ崩壊注意

アスナ「で、キリト君の黒歴史って?わたし、中等部時代はあんまり仲よくなかったから知らないなぁ」
リズ「中等部一年は、文化祭の出し物クラスごとでしょ?キリトのクラスは劇だったのよ」
アスナ「キリト君はなにかやったの?」
リズ「『シンデレラ』の主役」
アスナ「ぶっ!?」
リズ「女の子にね、似合うメンバーがいなかったとかでねぇ…。キリトって、案外押しに弱いとこあるでしょ?」
アスナ「ね、その写真すっごく見たいんだけど。拡大コピーして寮の部屋に貼りたいんだけど!」
リズ「アスナってちょっとヤンデレ気味だよね……」

 
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