フィガロの結婚
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9部分:第二幕その一
第二幕その一
第二幕 絶体絶命
はめ込み式ベッドがありそれにはカーテンまである。当然天幕もだ。しかも全て絹である。そうした白く豪奢なベッドを中心としてその部屋はあった。
左手には衣装部屋に通じる扉がありそこからは香水の香りが漂っている。奥にも右手にも扉がある。その部屋に今一人の艶と気品を併せ持った女性がいた。
豊かな金髪を上で纏めている。それを白く小麦粉でしている。顔は白く穏やかで彫がある。青い目ははっきりとしていてやや切れ長で大き目の口とよく合っている。その唇も紅く化粧している。何処か白人だけでなく他のものも微かに感じさせる異国情緒も併せ持っている。そうした長身の美人だった。
服は奇麗な白のドレスだ。この艶と気品を併せ持っている女性が今その部屋の椅子にもたれかかり憂いに満ちた顔をしている。彼女はふとその中で呟いた。
「愛の女神がおられたら」
こう呟くのだった。
「慰めの手を下さい。私の悲しみと憂いに対して」
こう言うのである。
「私にまたあの幸福の日々を。どうか」
こう呟いているとそこにスザンナが入って来た。スザンナはまず彼女に一礼してい挨拶をした。
「奥方様、参りました」
「スザンナ」
彼女が伯爵夫人である。夫人はスザンナの顔を見ると少しだけ元気を取り戻したのは微笑んで彼女に顔を向けて述べるのであった。
「さっきの話だけれど」
「はい」
「また聞かせてくれるかしら」
こう彼女に言うのであった。
「さっきの話の続きを。いいかしら」
「お話した通りですが」
「続きがあるわよね」
さらにスザンナに問うた。
「だから。御願い」
「そうですか」
「貴女に言い寄ってきたのね」
ここで夫人は曇った顔になった。
「それじゃあ」
「ですかそれで」
スザンナは悲しい顔になる夫人に言ってきた。
「どうして奥方様のことに嫉妬されるのですか?」
「私のことにね」
「はい。もう奥方様を愛してはおられない」
だから浮気をするのだと。スザンナはこう考えているのだ。この辺りはまだ人生経験が浅いと言えるものであった。仕方ないことではある。
「それならどうして」
「男の人は皆そうなのよ」
夫人はその悲しい顔でスザンナに述べた。
「自分は浮気者ですぐ居直るのに結局は皆嫉妬深くくて」
「そうなのですか」
「けれどフィガロは違うでしょうね」
咄嗟にこう言ってスザンナの曇りかけた心を拭く。
「彼は貴女のことを本当にね」
「そうですか。それなら」
「こんにちは、奥方様」
ここでそのフィガロが一礼してから恭しく入って来た。
「御機嫌麗しゅう」
「いいところに来てくれたわ」
スザンナはそのフィガロに対して言った。
「奥方様が貴方を待っていたわ」
「わしをですか」
「ええ」
夫人は気品のある物腰で静かにフィガロに対して答えた。
「そうなのよ」
「何の御用件かはわかっています」
彼は明るく夫人に答えるのだった。
「何の御心配もいりません」
「そうなの?」
「伯爵様の浮気性はいつものことですね」
「ええ、まあ」
だからこそ困っているのである。
「それでこっそり領主権をと考えてもおられるようですが」
「あれは御伽話ではなくて?」
「まあ流石にそれは無理でしょう」
フィガロもそう見ていた。
「それでも浮気心はおありですから」
「どうするの?」
「スザンナがその気になれば」
「そんなことは有り得ないわ」
スザンナは少しムキになってフィガロに返した。
「私はそれは絶対に」
「そう。しかし伯爵様はロンドンに私とスザンナを連れて行く」
「ええ、それはもう聞いているわ」
夫人もこのことは知っていた。
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