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フィガロの結婚

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7部分:第一幕その七


第一幕その七

「すぐにフィガロを連れて来い」
「は、はい」
 バジーリオはとりあえず伯爵の言葉に頷いた。
「それでは」
「スザンナ」
 そのうえでスザンナに顔を向けて問うてきた。
「これは一体どういうことだ」
「後でよく言って聞かせますので」
 とりあえずスザンナは何とか冷静さを取り戻して伯爵に返した。
「それで」
「終わらせるというのか?」
「はい、そうです」
 ここは強気に出ることにしたのであった。
「それで」
「過ちにしては随分な言い様だな」
 伯爵の今の言葉はスザンナには聞こえなかったし聞こえていても無視されたものであった。
「しかしこいつは何時ここに来たのだ」
「伯爵様がここに来られた時です」
 スザンナはこう伯爵に話した。
「その時に私に奥方様へのとりなしを頼んでいまして」
「それでか?」
「はい。それで伯爵様が来られてここに隠れたのです」
「しかしだ」
 伯爵はスザンナのその話を聞いて首を捻った。
「私がこの椅子の裏に隠れていた」
「はい」
「何故それで見つからなかったのだ?私に」
「伯爵様は椅子の裏でしたね」
「うむ」
 スザンナの言葉に頷く。
「その通りだが」
「私は椅子の席に隠れていましたので」
 ケルビーノはこう彼に答えた。
「だからです」
「そうか。しかしということはだ」
 ここで伯爵はあらたなことに気付き目を顰めさせた。
「私とスザンナの話を聞いていたな。そうだな」
「一生懸命聞かないようにしていました」
 実に苦しい言い訳であった。
「だから御安心を」
「けしからん奴だ」
 それを聞いてまた目を怒らせる伯爵だった。
「やはりこの屋敷から出て行ってもらうとするか」
「それは。それだけは」
「むっ!?」
 しかしここでバジーリオが声をあげた。気付けばまた扉のところから人の話し声が聞こえてきたのだった。
「人が来ます」
「何っ、またか」
 伯爵は彼の言葉を聞いて思わず声をあげた。
「今日はまた賑やかだな、この部屋は」
「やあやあやあ」
 部屋にまず入って来たのはフィガロだった。まずは伯爵に対して一礼する。
「伯爵様、どうも」
「御前か?」
「探しました。実はですね」
「何かあったのか?後ろからまだ声がするが」
「はい。さあ入ってくれ」
「んっ!?」
 見れば彼の後ろから町民や農民達が次々と入って来る。老いも若きもいる。そうして彼等は伯爵の前に来て一礼してから言うのだった。
「どうも伯爵様」
「うむ」
 伯爵は威厳を以って彼等に対する。彼の領地の者達である。その間にフィガロはスザンナのところに来てそっと囁くのだった。
「じゃあはじめるぞ」
「何を?」
「まあ見ていてくれよ。さあ皆さん」
「はい」
 町民や農民達がフィガロの言葉に応える。
「伯爵様に感謝の御言葉を」
「伯爵様、有り難うございます」
 彼等はまず伯爵に対して礼の言葉を述べるのだった。
「私達からの心からの感謝をお受け取り下さい」
「あの忌まわしい領主権を完全に廃されたこと」
「心から感謝しております」
「ふむ。あれか」
 伯爵はすぐにそれが何かわかった。所謂初夜権である。領主は領民の初夜にその新妻の床に入るという権利である。実際にはごく一部の地域以外でなかったという。当然このセヴィーリアにもない。
 
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