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戦国異伝

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第百三十五話 退きの戦その十二

「二万はおるな」
「しかも動きがよいですな」
「あれだけいるとなると浅倉家じゃがその割には動きがよいな」
「宗滴殿が来られたのでしょうか」
 秀長はここで彼の名を出した。
「まさか」
「宗滴殿か」
「そうでもなければ動きがよ過ぎます」
 こう言うのだ。
「これまでの朝倉家の動きと比べて」
「確かにな」
 羽柴も目を鋭くさせて応えた。
「これまでと全く動きが違ってな」
「水際立っておりますな」
「宗滴殿の采配は見たことがない」
 そもそも織田家と朝倉家が干戈を交えたのはこの戦がはじめてだ、これまで宗滴に会った者も殆どいない程だ。
「確か明智殿は宗滴殿と知己だったが」
「そうでしたな、あの方は朝倉家にもおられました」
「共に戦の場に行かれたこともあるであろうな」
「ですな、ですがここにはおられませぬ」
「仕方ない、このまま戦うか」
「それでは」
 こうした話もしながらだった、彼等は再び迫ってきたその軍勢も退けることにした、しかしその強さはというと。
 その動きが示す通りだった、かなり強かった。
 果敢に攻めて来て尚且つ幾ら倒されても向かって来る、それはというと。
「浅井長政殿の采配か?」
「いや、より動きがいい」
「しかも死を恐れぬ」
「何じゃ、この兵達は」
「何かが違うぞ」
 浅井家とも朝倉家とも違っていた、闇の中での戦なのではっきりとしたことはわからないが。
「どういうことじゃ」
「この連中、何者じゃ」
「朝倉家の者ではないのか?」
「では何者じゃ」
 兵の個々の質も明らかに違っていた、これまでとは格段に強い。
 それは織田家の弱兵では相手になるものではなかった、これではだった。
 退くことも難しくなってきた、羽柴もここで遂にだった。
 自ら剣を抜いた、そして周りに言った。
「わしもやるか」
「なっ、羽柴殿もですか」
「羽柴殿も戦われるのですか」
「ご自身が」
「こうなっては致し方ない」
 将自ら剣を抜いては負け戦だ、それはわかっている。だから羽柴も今剣を抜く気はなかったのである。
 だがそれでもだった、今は。
「一人でも逃げよ、よいな」
「何としてもですか」
「一人よりも多くですか」
「ここは」
「そうじゃ、何とか敵を防いでな」
 このことは絶対にだった、後詰としての責は果たす、だが。
 しかしそれでもだ、彼等のうち一人でも多くだ。
「逃げるのじゃ」
「では羽柴殿も」
「ご一緒に」
「うむ、わかっておる」
 羽柴とて死ぬつもりはない、ここで生きると言うのが彼だ。
 そしてだ、それで言ったのである。
「しかしそうも言っておられぬやもな、今は」
「あれだけの強者が多く来てはですか」
「今はどうしても」
「逃げますか」
「そうじゃ、逃げるぞ」
 例えどうなっても一人でも多く逃げるつもりだった、羽柴はその為に剣を抜いたのだ。
 これまで以上に激しく辛い戦がはじまろうとしていた、だが。
 ここで後ろから歓声が上がった、そして。 
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