僕のお母さんは冥界の女王さまです。
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拝啓女王よ。妾は姉としてやれているのだろうか?
前書き
冒頭以外は女神達の視点です。
今日もひかりの様子がおかしい。
昨日私の知らない女性に連れられて帰宅した妹。学校から登校していないという連絡を受けた両親と私はもちろん彼女を叱りました。
しかし、妹を連れ帰った女性は彼女をあまり叱らないでほしいと頭を下げてきました。
なんでもその女性は妹とネット友達で日本に家族で引っ越してきたそうで。
引っ越し先に荷物を送っていざ自分達もと日本に来たが良かったが案の定迷子になってしまったそうです。そこでネット友達であるひかりを頼ってなんとか無事に新居にたどり着いたのこと。ひかりは一人で帰れると言ったのだが流石にそのまま返す訳にはいかないという事でお詫びと御挨拶にきたという訳です。
さて、昨日の話しは置いておきまして、今は目の前の妹についてです。
昨日はニヤニヤクネクネしていて気持ちが悪かったのですが今朝は頬杖を付きながらうっとりとしています。正に恋する乙女です。
再び気になった私は今一度訊ねてみることにしました。
「え? なにかいいことあったかって? 気になる? 気になる?」
昨日みたいにニヤニヤしだしたひかり。ちょっとイラッときましたがそこはお姉さんとしてグッとこらえます。
「ん~、どうしようかな~? そんなに知りたい? ねぇ、知りたい?」
我慢です。私は心の広い出来たお姉さんなのです。
「ん~、やっぱり秘密♪」
ムカついて思わずチョップした私は悪くないと思います。
「ルカ。今日の分のお薬です」
病院の医師から受け取った薬と水をトレーに乗せて私はルカの元へと歩み寄る。
朝食を終えて今は室内に流している音楽に耳を傾ける彼。
瞼を閉じて静かに音楽に聞き入る姿は神でもないのに神々しく感じてしまう。
「うん、ありがとうナタ」
見えない眼を私に向けて笑顔を作るルカ。
「礼には及びません。私達は貴方の姉ですから」
私達三柱はルカが神殺しとなった日から一緒にいる。名もなき森の奥深く。人間が立ち寄らぬその地で始まった私達の生活。
「今日は何が何がしたいですか? 」
あの頃はこの子にホント手を妬かされたモノだ。まだ乳飲み子だった彼に子を持つエリスが母乳をあげたがいつまでたっても乳房から口を離さなないので大慌てしたり。泣きわめく理由が分からずとまどったり、寝静まりさて自分達の仕事をしようと少しはなれれば気配で泣き声を上げた。
「今日は大人しく音楽でも聞いてるよ」
物心が付けば母より簒奪した力の使い方を教えた。時には水汲みをし、時には狩をした。時には叱り、時には褒め、そして共に笑った。
「ひかりのもとへといきませんか?」
いつからだろうか。ルカがあまり我が儘を言わなくなったのは。
「看護婦さんに聞いたんだけどこの国の子どもはみんな学校って場所で勉強してるんだって。ひかりさんも勉強しているはずだから邪魔しちゃダメだよ」
昔は空を飛びたい。泳ぎにいきたい。父に会いたい。と四六時中私達にねだっていたあの子が今ではあまり我が儘を言わなくなった。
「ナタもせっかく日本に来たんだから自由に観光してもいいんだよ?」
「いえ、私は・・・」
一昨日のように唐突に行方を眩ませるのはホントに希だ。
私達はもっとルカに我が儘を言ってほしい。
本が読みたいなら点字を用いた本を作ろう。
泳ぎたいなら海でも川でも湖でも連れて行こう。
音楽が聞きたいならコンサートでもライブでもなんならかの楽曲の神を招いてもいい。
星ぼし煌めく夜の散歩に出たいというなら喜んでこの翼をはためかせよう。
「ん~、ナタは欲がないね」
けど彼はなにも望まない。望みをはっきりと口に出さない。
「ルカちゃ~ん。これからお洋服買いにいこうと思うんだけど?」
それをどうにかしたいと思いながら思考しているとエリスが病室に入ってきた。
「うん、いいよ。楽しんでおいで」
「・・・エリス」
私は彼女を睨み付ける。ルカを差し置いて何を言っているのか。
「いやいや、私一人じゃさみしいでしょ? ルカちゃんとナタも一緒にいくよ。もう先生には許可貰ったからさ」
ここで私は彼女の思惑に気付いた。エリスは自分を口実にしてルカを外に連れ出そうとしているのだ。さも、自分はやりたい事があるとルカに思わせて。
「うん、分かったよ。それじゃ着替えを手伝ってもらってもいいかな?」
「ハイハ~イ。今日はちょっと格好よくしようね~♪」
入れ違いにルカに近づくエリス。すれ違い際に私は小さくありがとうございますと彼女に礼を言って邪魔にならないように後ろに下がった。
ルカになにもできない自分を悔やみながら。
「ナタ。あんまり気に病む事はないよ?」
出かける準備をしてくるとルカちゃんに断りを入れ病院を出た私はナタと一緒に下宿先として借りているマンションに来ていた。
お出かけ用の服に着替えている最中神妙な表情のナタ。
私は姉妹として彼女を励ます。
「私は貴女の手を借りなければ病室から連れ出す事もままなりませんでした」
彼女は不器用だ何よりもルカちゃんを最優先して彼を楽しませたいと考えているが全て空回りしている。
「ネメはルカの心情を察して、貴女は器用にルカを楽しませている。なのに私は・・・」
「けど、ナタは私達の誰よりもルカちゃんを大事にしているよね? それはルカちゃんも分かっているよ。それにどんなに楽しませてもあの子が一番嬉しそうにするのは旦那様と会うことなんだよ。旦那様の所へ連れて行けるのはナタだけなんだからもっと自信持ちなよ」
「・・・ありがとうございます」
「じゃぁ、今日はちゃんと練習しないとね♪」
「すみませんがご教授願います。」
「私達は姉妹なんだから気にせずなんでも相談して寝。さ、あんまり時間が無いんだから急ぐよ」
急かす私に慌てて着替える彼女を横目に私は
『不和を司る私が励ます事を覚えるなんてね~。うん、悪い気はしないね』
自分の変わった様に小さく苦笑していた。
後書き
ちょっと短いですが感想をお待ちしています。
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