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【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
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例えばこんな命令は正直聞かなかったことにしたい

 
前書き
不要な所をカットしつつかいつまんで行こう。 

 
5月23日

私は護衛としての責を果たせないまま真田を現場に行かせてしまった。相棒を使えばあっさり追いつくこともできただろう。しかし・・・

怖くなった、のだろうか。相棒の存在を明かせば真田は恐らく私の真実にたどり着く。私は真田に全てを知られるのが・・・恐らく怖かったんだろう。他人に全て見透かされて――そのうえで手を差し伸べられたら。そしたら私はきっとずっとないものと言い張っていた感情のかけらに心を乗っ取られ、手を受け止めてしまうと思うから。
そうして今までの自分が変わり、優しさを受け入れてしまうのがどうしようもなく怖くなったのだと思う。自分の居場所があることが怖いなど、自分でも意味が分からない。

分からないが、とりあえず勝手なことをした真田が悪いと自分に言い聞かせて真田に釘を刺しておいた。釘を刺すことでどこか安心感のような何かを感じた自分にどうしようもなく苛立つ。



翌日、私のもとに上司からこんな指示が届いた。

『本日より護衛対象の名前を真田悟朗左衛門から真田悟衛門に変更する。』

何かと思ったら真田が改名したってだけの話だった。それだけのためにメッセージ送ってきたのかと思ったら続きがあった。なになに・・・

『出来る限り早急に対象の遺伝情報を確保せよ』
「馬鹿かっ!!!」

まだ言ってたのかあの阿呆男(アートマン)。お前の体を愉快な前衛芸術(アート)にするぞ。





5月29日

真田に見つかった。いや単に遠巻きに監視してただけなんだが。謎の機材の作成を手伝うことになってしまった。しかし考え方によってはより監視しやすくなるチャンスだ。


5月30日

なぜかのほほんに絡まれた。物理的に。ええい絡みつくな胸を揉むな服の中をまさぐるなレズかお前は。今までそんなに積極的に近づいてこなかったくせにどういう腹積もりだこいつ。一通りまさぐったのほほんは「護衛なのに武器とかは持ってないんだ?」と言ってそのままどっかに行ってしまった。あいつも裏に繋がりあったのか。まぁ、どうでもいいや。


5月31日

また指令書が来た。内容が同じなので無視することにした。
何が楽しくて同室の男の精液など入手せねばならんのだ。とアリスに愚痴ると「じゃあさ、なんでジェーンはその命令が嫌なの?」と聞かれた。
・・・なぜだろう。物品(モノ)だった時代を思い出すから?

うんうん悩んでいるとアリスが回答を教えてくれた。私は”そういう行為”をどこか汚いものと考えている。それを”家族”のイメージと重なる真田に行なって汚してしまうことを恐れているのだという。
アリス、お前も私が家族を求めていると思ってるのかと聞いたら、「思ってるのを直接”観た”もん」と言われた。そういえばアリスはそういう力の持ち主だった。

私の完敗だ。認めよう。私は真田に”家族”を求めている。





6月9日

鈴音に話しかけられる。

「ねぇ、アンタってよく真田のコトじっと見てるわよね?付き合い長いのかしら?」
「学園に入ってからずっと、かな」
「フーン?それにしては随分とお熱じゃない?」
「・・・真田は人を信じすぎる。それが危なっかしくてつい、なぁ・・・」
「なるほどねぇ~」

納得したのか鈴音は帰っていった。あと帰り際に「そのおっぱいちょっと分けなさい」と言われた。好きでこんなにでかくなったわけじゃないのだが。邪魔になるし、真田にも「顔が埋もれて苦しい」と言われたし。


6月10日

あれが件の五反田弾か。いくら見ても私と似ているようには見えない。無駄足だったか。
そういえば最近身長がまた伸びた。160cmを超えてなお伸びるか。服のサイズがきつくなってきたので服を適当に買って帰った。13歳だから未だに成長期、か。面倒な。


6月11日

転入生2名。1名はとっくに正体が割れているし工作、潜入系は素人なので放置しても問題ないだろう。問題はもう一人・・・ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍がなぜこのタイミングであれを送り込んできたのか意図が分からない。

ボーデヴィッヒと目が逢う。私の目は両目とも越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)が埋め込まれているため遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)である彼女には気づかれただろう。私が、まともな人間でないことに。

その後の訓練でブリュンヒルデが真田の特異性の一部を公開した。まぁタイミング的に頃合いだろう。この前のGM-リンカーの事もあるから凡その納得を得られている。

「・・・おい、ジェーン・ネスキオ」
「何か用か、アドヴァンスド」
「後で話がある」
「いいだろう」

ほんの短い会話だったがそれで十分だろう。今は情報が欲しいのであっさり乗る。



「お前は何者だ?少なくとも実戦を知っているな?なぜこんな平和ボケの学園にいる?」
「2つ目の問いには肯定しておく。ついでに一応教えておくと私はお前とは違うコンセプトだ、同類だがキョウダイではないよ」

自分の考えを読まれたことに対する悔しさからか犬歯をむき出しにして警戒しているが、正直子犬が吠えてる程度にしか感じない。
(ウールヴヘジン)強化個体(アドヴァンスド)は大元になった技術こそ似ているがそこから袂を分かっている。コスト高の代わりに安定性を求めた生まれつきの優良種と、既存の人間を改造し尽くして凡人を獣人に変えることとでは思想そのものが違うのだ。

余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な私の態度が気に食わないのか、ボーデヴィッヒはナイフを抜いた。瞬間、拳でそれを叩き割る。これこそが成功体の力、などと自慢する気も起きないが、狼人間(ウールヴヘジン)にとってはこれくらい割り箸を割るのと大して変わらない。

「なっ!?貴様、本当に人間か・・・!?」
「もう一つ教えておく。私の任務は真田の護衛だ。お前が真田に手を出さないなら話はそれまでだ」
「・・・それを信じろと?」
「調子に乗るのもその辺にしておけ。でないと”下水道の鰐に齧られるぞ”?」
「!!!」

話はそこで終わった。これ以上付き合う義理もないだろう。それにあいつ自身もなぜ軍が自分をここに送り込んだかは考えていない様だ。


6月12日

生臭い臭いが鼻腔をついた。この臭いは・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・かなり強引だったが、予期せずして真田の遺伝子情報を入手できた。何故か泣きたい気分になった。涙は出なかったが。


ボーデヴィッヒがやたらツンケンしている。周囲に合わせるのが馬鹿馬鹿しいのは分かるが、そこは適当に愛想を振りまいて都合のいい時に利用するのがこういう時の定石だ。見ていられないので潜入工作時の身の振り方のイロハを教えてやった。・・・話せば話すほどこいつはコミュニケーション能力が壊滅的すぎる。こいつの教育係出てこい。え?織斑先生?じゃぁしょうがない。あの人多分口下手だから。

あれもダメ、その考えも違うと順序立てて説明しているうちにボーデヴィッヒが泣き始めてしまった。実は織斑先生にもそのコミュ障具合を怒られたらしく、得体の知れない勢力の人間にまで指摘されて情けないやら悔しいやらで耐えられなくなったようだ。皆の目がある中で泣き始めるものだから私が泣かせたようになっている。唯でさえ真田との関係を大分怪しまれているのにこれ以上注目を浴びるのは面倒なので持てる限りの知識を総動員してボーデヴィッヒをあやすことにした。

いくら厳しい訓練を受けても孤独だけは耐え難かったのか、私の胸に縋りつくように顔をうずめたボーデヴィッヒはそのまま泣き疲れて眠ってしまった。こいつもひょっとして、私のように居場所を求めていたのかもしれないと思うと憎むに憎めない。

こらそこ、「お母さんみたい」とか言うな。お前ら知らんだろうが私の方が2歳年下なんだぞ。


疲れ果てて寮に戻ったら今度は真田だ。突然シャルロットと織斑の部屋に突入したかと思ったらシャルロットの持っている通信機を断りもなく奪い取った。通信相手が誰かは想像がつくが、あそこまで激昂した真田を見たのは初めてである。変な話だが、真田も人間なんだなと思った。家庭の事情があるから余計にその手の話には敏感なのだろう。
シャルロットは泣きながら小さな声で「ありがとう」を連呼していた。そのあと織斑に勧められて父親と改めて話をしていたが・・・なんとなく結果は分かるのでその場を後にした。
真田が動いた結果なら、悪いようにはならないだろう。

真田に幻想を抱き過ぎだろうか?でも、あいつがやったことなら何でも受け入れられる気がする。



6月13日

ボーデヴィッヒが突然私の前に現れたと思ったらなんかモジモジしながら、「・・・ラウラと呼ぶことを許してやらんでもない」と言われた。しょうがないので名前で呼んでやったらさらにモジモジしだした。なんだそのグネグネした動き、塩かけられてもがいてる時のナメクジみたいだぞ。
そしてそしてラウラは今度は「・・・お前の事をジェーンと呼んでやらんでもない」と言い出し(ここから先はラウラがもじもじしながら・・・と似たようなことが延々と書いてある)

要約すると、世話を焼かれた私に母性のようなものを求めているようだ。だから「私はお前より年下だぞ」と教えてやったら「いっ・・・妹属性だと!?緊急事態だ、急いでクラリッサに連絡をせねば・・・!」とか言ってた。そのクラリッサって誰か知らんが心なしかトラッシュに似た空気を放っているような気がする。

そして寝床にまで入って来た。真田に不審げな目で見られたが懐かれたと言ったら納得した。・・・年齢は15歳のはずなのに子供特有の体温の高さを感じる。発育も妙に悪いし、こいつも実は年齢偽ってるんじゃないだろうか。

 
 

 
後書き
ネスキオはラテン語で「知らない」って意味です。 
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