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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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常盤台中学襲撃事件
  Trick36_いくぞ! 気合入れろ野郎共!!




「まったく! どうなってますの!?」

白井黒子は文句を言いながら自分の教室入り口の陰に隠れて廊下をうかがう。

そして階段からなんかが出てきた瞬間に教室の中に入る。
同時に鳴り響く銃声。白井のすぐそばを弾丸が通り過ぎていった。



*****************************************



御坂と同じように位置外からメールで、常盤台強襲の可能性ありの連絡を受けた。

そして同じく先生に報告して避難を指示したのだが、これも同じく教師が確認を取ると
言って警備室に電話。

しかし裏門を校門を閉めるために部屋にいなかったために確認が取れずに
他の確認方法を模索している間(白井は「早くしてください!」と怒り続けている)に
校門を破られて侵入を許してしまう。

だが白井は現役の風紀委員(ジャッジメント)。御坂のように放心している間に
教室に侵入、などということは許しはしなかった。

校門が破られた直後に、廊下に出て階段を上ってくる男たちの迎撃を開始した。

白井の能力は空間移動(テレポート)。その名の通り、自分や物を一瞬にして
好きな位置に転移移動させることができる。

しかも「移動する物体」が「移動先の物体」を押しのけて転移する。
双方の強度に関係なく。

柔らかいもの(学習ノートの紙切れ)で、固いもの(ダイヤモンド)を破壊できる。

そして空間移動は、移動先を必ず見る必要はない。
だから物陰に隠れていようとも、相手がどの位置にいるか分かれば転移できる。

侵入者は駆動鎧(パワードスーツ)を着けてたが、白井が持っていた鉄の矢で
駆動鎧を中の装着者が怪我することなく破壊、3人を戦闘不能にした。

だが相手も素人ではないようで、3人もやられてしまえば対抗策を考えだして
物陰に隠れた状態でも、分かりやすい柱の真裏などに隠れずに空間移動での
攻撃を避けていった。

攻撃も銃口のみを曲がり角の陰から出して威嚇を数発、すぐに曲がり角から離れて
空間移動を避けるヒット&アウェー戦法をとった。

白井は攻撃に使っている鉄の矢は常時は20本程度しか持っていない。
このまま攻撃が避けられると感じたために、空間移動のペースを落としていた。

空間移動で接近して攻撃する方法もあるが、相手は完全武装(駆動鎧と銃)で
複数人数(最大人数不明)のため、危険が大きすぎる。

じりじりと遠距離の空間移動の攻撃を続けたが、戦いが始まって数分後に
ものの見事に白井は押され始めて、今は教室にまで退いていた。

「まったく、どうなってますの!?」

そして冒頭に戻る。

教室の入り口から顔を引っ込めると同時に弾丸が通り過ぎる。

風紀委員の訓練では、一応は対拳銃用のものもあった。
そのおかげで白井は冷静に戦うことができる。

だが、その訓練は町の不良や銀行強盗を想定したもの。
明らかに軍の訓練を受けた駆動鎧の男達には、さすがに対応しきれていなかった。

白井の言った「どうなってますの!?」は、プロが自分たちの学校に攻めてきたことに
対しての言葉だった。

そしてもう一つ、白井が文句を向けている相手は信乃だ。

信乃は学園統括理事の氏神クロムから、直々に常盤台中学の護衛を任された。

以前であればともかく、AIMバーストを御坂と共に倒し、前回の常盤台の襲撃は
銃を相手に問題なく解決した。しかもA・T(エア・トレック)を使わずにだ。

これほどの規模の襲撃であれば、信乃はA・Tの使用許可が降りるはず。

A・Tを使った信乃は、学園都市の"大能力者"(レベル4)の自分よりも格段に強い。
そして早期解決まではいかなくとも、この均衡状態を助けに来てくれるはずだ。

しかし、戦闘が開始して10分が経過しているのに来ない。
無責任な警備員(しの)に向けて白井は怒っていた。

「鉄の矢の数も残りを考えないといけませんの・・・・
 使いすぎて球切れになってはいけませんし。
 教室に何か使えるものは・・・・いえ、そんな暇はありませんわ」

教室には白井以外にも生徒がいる。白井のクラスメイトと教師だ。

しかし、銃声を聞いてか誰一人として縮こまって動こうとしない。

空間移動の武器に使えそうなものは教室にあるかもしれないが、自分は
威嚇のために入り次付近から離れられないし、他に道具を持ってこれる人もいない。

 ブブブブブブブ

「!? 携帯電話? 驚かさないでくさい、ですの」

マナーモードの振動に一瞬驚いたが、すぐにポケットから取り出して着信を確認する。

発信者は『位置外 水』。白井はすぐに通話ボタンを押した。

「もしもし、白井ですの!」

『高貴なる私の電話を3コール以内に取ったことを褒めて使わす、平民(しらいくろこ)

「・・・・だれですの?」

いつものキャラの違いに驚いて聞き返してしまった。

機械を操作中、または通信越しだと≪(あお)モード≫の位置外の話し方は傲慢そのもの。

≪蒼モード≫を知らない白井にとっては、いつもの弱気なキャラとのギャップも
相まって、誰?としか言いようがない。

『携帯電話に登録されているはずだが? まさか携帯電話のディスプレイに
 表示される文字すらも読めない程の学の無さなのか?』

「位置外さん、で間違いありませんの?」

『私を間違えるとは万死に値する。が、高貴な私は心が広い。
 今回は特別に許してやる。

 連絡を入れたのは用件があるからだ。ありがたく聞くがよい』

「えっと、なんですの?」

とりあえずキャラの違いはスルーを決めた白井は聞き返した。

『現状はかなり厳しい。ニシオリは常盤台中学から離れており、≪小烏丸≫のメンバーは
 一番早くても到着に5分は掛かる。

 それまでは1年は平民(しらい)、2年は平民(みさか)が護衛をして
 時間を稼ぎをしろ。

 3年は残念だが諦める。だが問題ない。
 相手の狙いは生徒を捕まえることであり危害を加えることではない』

「なにか不適切なルビをされたきがするのですが・・・・」

平民(へいみん)は高貴なる私の言うことを聞けばいいのだ!』

「直接発音しましたの!! もうルビの意味はないですの!?」

『作戦を言い渡す。ありがたく聞くがよい。

 お前はこれ以上敵を倒すことを禁止する』

「な、なぜですの!?」

『総戦力でいえば平民(レールガン)一人で勝てるだろう。
 "単独で軍隊と戦える力"(レベル5)と言われているからな。

 しかし、ここには戦えない平民が多すぎる。

 さらに、奴らは最低でも20人はいる。それぞれがバラバラの動きで
 平民(せいと)たちに危害を加えれば怪我人、死傷者が出る。

 だから奴らが有利な状態で均衡する必要がある。

  ≪俺たちに有利だから、無理せず慎重に倒していけばいい≫

 と思わせる』

「ですが!?」

『それとも20人以上を同時に倒す方法があるのか?
 もしくは短時間で一気に倒す方法か?
 混乱して人質にでも捕られたらどうする? 3年生は誰も守っていないが?

 平民(みさか)の戦闘を見ていたが、駆動鎧は電撃対策がされているのが
 分かった。

 工夫で敵を倒すことができたみたいだが、頭痛で頭を抑えているが見えた。
 あまり多発できない技のようだ。これでは一気に倒すことはできない。

 しかも平民(レールガン)は一番敵に警戒されている。
 動きがあれば、すぐに相手が対応するだろう。
 頭痛が無くても一気に倒すことは困難だ』

「では、どうしますの!?」

『ニシオリの帰りを待つ。人類最速であれば一気に片付けるのは問題ない。

 敵はニシオリが常盤台中学から離れるタイミングで襲ってきた。
 ならば今、常盤台から一番離れたゲートにいることも知っている。

 だが、ニシオリの移動速度は異常だ。敵も計算を間違えるに違いない。
 到着まで時間がかかると油断している時に奇襲で一気に片付ける。
 あいつの移動速度はまさしく電光石火だからな』

「なるほど・・・・わかりましたの。

 わたくしは相手が強く攻撃したときにだけ反撃し、
 他は適当に攻撃するが倒さないようにすればよろしいですの?」

『平民なりに理解できたようだな。

 電話は繋いだままにしておけ。何かあれば連絡しろ。
 こちらも戦闘を監視しているから連絡を渡す。
 平民(みさか)にも私から同じ連絡を入れる』

「了解、ですの!!」

言い終わると同時に、丁度物陰から出てきた男の銃を、空間移動した鉄の矢で破壊した。

警戒して再び隠れた駆動鎧は、銃口を白井に向ける。

「早くきてください、信乃さん」

入り口の陰に隠れて希望と期待を口にした白井だった。



*****************************************



位置外水はA・Tで走ることができない。

だが、A・Tを使うことができる。

それは位置外が操作している画面に答えがあった。

「1年生の2階は廊下で平民(しらい)が足止め。
 2年生の3階は教室で平民(みさか)が2人を撃退、現在は他の
 教室にいた愚民(てき)の迎撃中。戦闘場所は平民(みさか)の教室前。

 3年生は完全制圧。駆動鎧以外にも強化人間(ブーステッドマン)が10人。
 能力の平均レベルが高い3年に力を集めた模様。

 おそらくは3年にいる駆動鎧は平民(みさか)の2年、もしくは教員室などの
 他の場所を制圧するために編隊中。

 特殊武装と武装していない2人組が3年の階に移動。要人と思われる」

学校内の情報をリアルタイム映像で見ていた。

しかもカメラのアングルが位置外の操作で変わる。
つまり、今見ているのは隠しカメラの映像ではない。

もちろん、常盤台中学の校内に監視カメラを設置できるはずがない。
位置外が監視カメラの設置を強行しようとしたが、
信乃とクロム(物理的&権力的)に止められた。

だが、現に今は校内の様子を完全にカメラで把握している。

キーボードの動きに合わせてカメラも移動している。人間が操作しているのであれば
絶対に見つかる駆動鎧の足元のそば、通路のど真ん中などから撮影してもだ。

 支配の道
   支配の道(グラスパー・ロード)


それが位置外水のA・Tの道だ。
今、位置外が支配しているのは自作のA・T、“英雄たちの航海”(アルゴナウタイ)。

これは浮遊する複数のカメラ付きA・Tを操作しているのだ。
カメラ以外にも機能があるが、このATの特徴はそこではない。

このATの特徴、それは1機が全長10cmにも関わらず浮遊して自在に動かせる事だ。
小型のブースターを複数搭載し、でヘリコプターのような浮遊した自在な動きができる。

元は両腕の手甲から棘のように飛び出し、敵を四方八方から突き刺す
重力子が使っていたA・Tドラグーンと呼ばれるもの。

それを位置外が改造し、遠隔操作範囲は5km、1度のエネルギー充電で1時間以上の
独立飛行が可能な反則な性能となっている。

さらに、使っている人間が反則級だった。

人間の両腕は2本、指は10本。
それなのに同時に操作しているA・Tドラグーンの数は20機。

これは位置外の限界の数ではなく、生産できているA・Tドラグーンが
まだ20機しかないだけだ。

すさまじく高速で正確で精密な操作を、一般のものではない自作改造のキーボードを
使って、残像が見えるほど高速で命令入力をしている。

このA・Tドラグーンを操作しながら現場を分析。
さらには敵が出発した倉庫周辺を、学園都市の監視カメラの操作(ハッキング)をして
増援が無いかを調べていた。

「!? これは・・・」

初めて感情の入った言葉を言違いは口にした。
増援を警戒して調べていたが、案の定、敵に想定以上の力を見つけた。

「戦車・・・いや、サソリ型の兵器か。

 多足でどのような場所でも高速での移動が可能。

 サソリの尾に当たる部分には特殊な砲台。
 口径だけでも常盤台校舎を消滅させる威力が予想されるな。
 
 さらには各足の付近には内蔵されているブレードや小型の銃。
 全後方への同時攻撃も可能か。

 確実に兵器に分類されるな・・・・。宗像では敵わない」

小烏丸で2番目の戦闘力を持っているのは宗像形。
信乃が常盤台から離れていることを考えれば、相手にするのは宗像しかいない。

対人兵器であれば宗像の剣の道(ロード・グラディス)で対応できたかもしれない。

だが、位置外が発見したソレは、確実に対軍兵器と言えるものだ。
やろうと思えば、常盤台中学の建物すべてを壊せるだろう。

明らかなオーバーキル戦力。常盤台に強襲している駆動鎧と強化人間だけでも
作戦次第では十分なはずだ。

不審に思いながらも、サソリ兵器に唯一対応できる可能性がある信乃へと電話を入れた。



*****************************************



信乃は跳んでいた。ビルとビル、建物と建物の上を使い、横幅の広い道路も
関係なく、30mを超える高さから20mの距離を軽々と跳んでいく。

まるで鳥のように。

 プルルルル

跳躍の途中に電話が鳴り、飛距離を伸ばすための体勢移動(体を回転)させながら
携帯電話にイヤホンマイクをつけて通話ボタンを押す。

「はい、西折です。状況はどうなっていますか?」

通話の相手は位置外水だ。

愚民(てき)は駆動鎧と強化人間、武装していない人間が数名。

 1年は平民(しらい)、2年は平民(みさか)が時間稼ぎ。
 3年は抵抗なく占拠された。今のところ職員と生徒を合わせて怪我人はなし。

 例外を言えば、警備員が1人死亡で1人は軽傷、残りの1人と合わせて2人で
 無駄な抵抗している。

 愚民(てき)に戦闘不能は合計で5人。しかし時間稼ぎに専念するように
 命令したから今後は増えないだろう』

「5人、ですか。敵の人数と足止めの状況はどうなってますか?」

超高層ビルから跳び降りながら聞く。

『完全に把握できていないために人数不明。だが30人以上は確実にいる。

 足止めは平民2人が頑張っている。最下層(けいびいん)は役に立たなかった。
 宗像と平民(くろづま)の到着はあと5分ほどだ。
 おそらくお前の到着までは“今”の状況では問題ない』

「今、という言葉に力を入れているように感じましたが、何かイレギュラーが?」

『敵が対軍兵器を持ち出してきそうだ、それも戦車をはるかに上回るレベルのものを』

「っ!? なんだよそれ。琴ちゃんがいるにしても中学生相手にやり過ぎるだろ・・・
 兵器が常盤台に到着するのはいつだ?」

『不明。まだ敵が出発前に隠れていた倉庫を出ていないし、
 出発準備もまだされていない。

 悪い情報はこれだけじゃない』

「なんだよ、まだあんのかよ。ゴミ屑どもの情報は」

『駆動鎧を装着していない、一見普通に見える愚民(てき)がいた。
 全員が戦争をする装備の中で一人だけだ』

「・・・・・つまり、そいつは駆動鎧の装備が必要ない。

 むしろ駆動鎧が足手まといになる程の人物、プロのプレーヤーか?」

『更に付け加えるなら、一人だけ見たことない駆動鎧を着た愚民(やつ)がいる。
 そいつに付き添うようにして一緒に行動している』

「なるほど。“最大の戦力”(プロのプレーヤー)は首謀者の護衛、ってわけか」

玉璽(レガリア)の使用許可を氏神クロムからとった。
 それを使って、さらに短い時間で到着しろ』

「・・・最悪だな。位置外、俺からも悪い知らせがある。

 今現在、一つの玉璽も持っていない」

『ふざけているのか?』

「本当だ。怪我のせいで俺の音がずれたからほとんど調律中。
 分解してあるから今すぐ使えない。今着けているA・Tも玉璽なしだ。

 1つだけ使える玉璽(ホイール)があるけど、それも家にある」

プロのプレーヤーが参戦していることが分かった今、
いち早く常盤台に到着しなければならない。

だが戦力不足が考えられる今、玉璽は必須の戦力。

玉璽を取りに行かなければいけないのに、その時間が無い。

宗像は時間稼ぎと制圧に必要な戦力。信乃と同じでいち早く到着しなければならない。

黒妻は必須の戦力ではないが、玉璽を取りに行く時間はない。

御坂、白井は戦闘中。もちろん無理だ。

『ニシオリ、平民(さてん)に持ってこさせる』

「ちょっと待て! 佐天さんを戦いに巻き込むつもりか!?」

『他の方法があるとでも?』

「それは・・・・・」

位置外の問に、信乃は返せずに沈黙するしかなかった。

確かに信乃も同じことを考えた。だが、最初の参加させる戦いにプロのプレーヤーが
いるのは問題があり過ぎる。

平民(さてん)の携帯電話GPSを調べたが、計算上で間に合う場所にいる』

信乃の返答を待たずに位置外は解決方法が有効であることを付け加えた。
もちろん調べたGPSの位置は違法(ハッキング)である。

信乃も佐天にお願いすることは考えていた。だが、わざと答えから外していたのだが
位置外は容赦なく作戦に組み込む。

信乃もそれしか方法がないと悟り、ため息をついた。

「・・・・佐天さんが了解したら、参加させる。強制じゃない。

 もちろん玉璽を届けてもらうだけで参戦はさせないからな。

 佐天さんには俺から電話をする。お前が電話したら参加させるように脅すからな」

『すでに平民(さてん)を服従させるものは調べていたのだがな。
 電話は私の方から共通回線に繋ぐ。お前は走ることに集中していろ』

「了解。位置外、美雪の現在地は分かるか?」

『お前の住所の近くにいる』

全く関係ないことを聞く信乃だったが、位置外は1秒としない間に調べ上げて答える。

「家に帰ってきてるか。佐天さんに連絡後、美雪にホイールと調律道具を鞄にまとめて、
 家に来た佐天さんに渡すように言っておくから、そっちにも繋いでくれ」

『しかたがない。高貴なる私に命令するとはいい度胸だが、心が広いから許してやろう』

『はい、佐天です。つーちゃん、どうしたの?』

「相変わらず仕事が早いな・・・ってか会話の途中でいきなり繋ぐなよ」

『その声は信乃さん? 番号はつーちゃんの・・・あれ?』

位置外のすぐ後に携帯電話から聞こえたのは佐天の声だった。
呆れつつも頭をすぐに切り替えて佐天にお願いをする。

「こんにちは、西折信乃です。今はつーちゃんの電話から共通回線に繋げてます。
 佐天さん、今は用事はないですか?」

『別に無いですよ、学校も今日は午前中で終わりましたし。
 夕食の買い物ぐらいですかね、用事と言えるのは。

 今日はA・Tの訓練は休みですけど、何かあるんですか?
 持ち歩いているから緊急練習も今すぐ行けますよ』

「久々の休みに非常に申し訳ないんですが、お願いがあるんですよ。
 もちろん断ってもらっても構わないですが」

『いいですよ』

「・・・軽い返事ですね。休みを邪魔されたくないから少しは考えると
 思ってたのですが、即答とは意外です。

 佐天さんにお願いしたいのは、私の家からあるものを常盤台中学に持ってきて
 欲しんですよ、それも緊急に」

『緊急って、何かあったんですか?』

『常盤台中学が現在、襲われている』

『え!? それどういうことですか!!?』

2人の会話の途中に位置外が割り込んできた。
電話は共通回線につないでいるので、今の会話も宗像、黒妻も聞いている。

「位置外! 勝手に話すな!」

『お前の話では先に進まない。

 平民(さてんるいこ)、ニシオリの家に置いてあるA・Tのパーツを
 常盤台中学まで持ってこい。そのパーツが戦力として必要だ。

 氏神クロムに公道でのA・Tの使用許可を貰った。急げ』

「佐天さん! これは危険がある仕事です! 断ってもかまいません!」

勝手に話を進める位置外に驚き、信乃は急いで断っても問題ない事を付け加える。

『もちろんやります!! 信乃さんの家はどっちですか!?』

佐天の答えは YES だった。

「佐天さん、もう一度よく考えてください! 届けるだけとはいえ
 位置外の案内する最短ルートは壁の昇り降りがあるはずです!

 まだ基本が完全じゃない佐天さんだと、転落して怪我する可能性が『信乃さん』」

信乃が危険について説明し、どうにか巻き込まないようにしたが佐天の決意に
言葉を遮られた。

『私は私の意思で手伝いたいんです。
 別に戦えとか誰かを傷つけるわけじゃないですよね。

 だったら、今私にできることをさせてください!!』

「佐天さん・・・・


 ありがとうございます」

さすがの信乃も、ここまで言われればお礼を言うしかなかった。

『では平民(さてん)、A・Tを着けて準備しろ。

 そして全員聞け。私達は出発前に大事なことをしなければならない』

「『大事なこと?』」

信乃の感動をぶち壊すように容赦なく作戦を進めようとする位置外に、
信乃は眉を寄せたが直後の言葉に佐天のハモって聞き返した。

『そうだ、≪小烏丸≫にとって大事なこと。それは・・・




 “結成式”だ』



「『『『は?』』』」

疑問を返したのは信乃と佐天だけではない。
通信回線で話を聞いていた宗像と黒妻もだった。

『結成式って、あの戦う前に叫ぶやつですか?』

『昔の≪小烏丸≫でやってた気合を入れるアレだよな』

佐天と黒妻が、自分の答えがあっているか確認するように聞いてきた。

今の≪小烏丸≫の全員が、信乃の持っているA・Tバトルの映像を見ている。
その中で昔の≪小烏丸≫がやっていた奇妙な掛け声ももちろん全員が知っていた。

『そう、その結成式で間違いない。平民なりに覚えていたようだな。
 褒めてつかわす』

「いや位置外、そんな暇ないだろ」

『素晴らしい。やるぞ、結成式』

「なんでノリノリなんですか宗像さん!?」

『ぶっ殺、だからだ』

「お前それがいいたいだけだろ!? 殺すって言いたいだけなんだろ!?
 そうだろ! そうなんだな!! むしろ俺がお前を殺すぞ!!
 殺して(バラ)して並べて揃えて晒すぞ!!!」

『し、信乃さん、落ち着いてください!!』

『いいんじゃないか、これぐらい』

「黒妻さんも賛成ですか!? 一応は緊急事態だよ!?」

『戦う前の気合ってやつは大事だぜ。

 それに今回は≪小烏丸≫が初めて全員でやる仕事だ。
 むしろ気を引き締めないといけないぜ』

「それはだけど・・・」

『≪小烏丸≫全員での初めての仕事・・・・・

 いいですね! やりましょう! ぜひ!!』

「佐天さんもですか?」

『後はお前だけだ。どうする頑固(ニシオリ)?」

「何気に読みは同じでも字が違うぞ、字が。

 ・・・・はぁ、わかりました。わかりましたよ。やればいんだろ、やれば。

 ただし、『フ〇キョンドロンジョ様』とか『浅〇真央のオデコの生え際』とかは
 言わねぇぞ、絶対に!」

『『そこは期待していない。最後の掛け声だけが良い』』

「よかった、助かった。あんな恥ずかしいこと良く言えたよな、イッキさん達」

宗像と位置外のハモりに、心の底からの安堵を吐いた信乃。

その3人の反応に

『く、くくくく』『ふふふふ』

黒妻と佐天が笑いを洩らし

「って、なんで2人とも笑ってんですか。 ぷ、ははははは!」

信乃もつられて笑ってしまた。

『全員の肩の力が抜けたところでやるぞ』

『ニシオリ、やれ。高貴なる私からの命令をありがたく受け取るがいい』

宗像と位置外が促し、

『やっちまえ、リーダー』

『頑張りましょう、信乃さん!』

黒妻と佐天が続ける。

「了解」

信乃は一度、大きく息を吸い込む。そして



「いくぞ! 気合入れろ野郎共!!




 コッ!! ガ ラ ス マ ルゥ ーーーーーーーーーーッ」




「『『『『ブッ殺!!!』』』』」





ここから二代目≪小烏丸≫の伝説は始まった。



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。 
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