フィガロの結婚
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29部分:第三幕その六
第三幕その六
「伯爵様、その二千ペソです」
「金か」
「はい。それですが」
「もうよい」
彼は右手を横に振って金はいいとした。
「そんなものはな。もうよい」
「よいといいますと?」
「見ればわかる」
こう言ってスザンナに背を向けるのだった。スザンナはこれでいよいよ訳がわからなくなってしまった。
「!?」
「私が言うのはそれだけだ」
「それだけですか」
「そうだ」
「はあ」
とりあえず伯爵の言葉に応えながらフィガロを見る。見てその途端に怒りのボルテージを見る見るうちにあげるのだった。顔が真っ赤になっていく。
「あんな女と!」
怒り狂ってその場を後にしようとする。しかしここでフィガロが呼び止めてきた。
「待ってくれ、スザンナ」
「知らないわ!」
彼に呼び止められても足を止めようとはしない。
「もう二度と会わないわ。さようなら」
「だから聞いてくれって」
「こえが返事よ!」
「おっと!」
スザンナは振り返りざまに平手打ちを繰り出すがそれは何とか頭を引っ込めてかわすフィガロだった。本当に間一髪のタイミングだった。
「危ないじゃないか」
「ひっぱたかれないだけましと思いなさい」
今自分が放ったことはとりあえずなかったことにしている。
「それじゃあね」
「まあまあスザンナ」
そんな彼女に優しい声をかけて宥めてきたのはマルチェリーナだった。
「そんなに怒らないでいいのよ」
「あんたに言われたくはないわ!」
「実はね」
怒り狂ったままのスザンナに対して優しい笑顔も向けて話すのだった。
「あんたは私の娘になるのよ」
「娘って!?」
「そうよ。あんたは私の娘で私はあんたの母親になるのよ」
こう語るのだった。
「私がね」
「お母さん!?」
「そうよ」
「どういうことなの?」
スザンナはここでようやく顔色を元に戻して話を聞くのだった。
「お母さんだの娘だのって」
「つまりこうなんだよ」
またフィガロが彼女に説明してきた。
「わしの両親が見つかったんだよ」
「あの十年間探していたっていうあの?」
「そうさ。まずはお父さん」
バルトロを指し示す。バルトロはにこやかに笑ってスザンナに一礼する。
「そしてお母さん」
「これでわかったかしら」
マルチェリーナはあらためてスザンナに対して声をかけてきたのだった。
「話が」
「嘘・・・・・・」
「嘘じゃないさ」
フィガロは笑ってそのスザンナの言葉を否定した。
「本当だよ。わしの両親が遂に見つかったんだよ」
「それがバルトロさんとマルチェリーナさんだったの」
「そうだ」
伯爵は背を向けたまま忌々しげにスザンナに告げる。
「全く。世の中何が起こるかわからん」
「はあ。確かに」
クルツィオはまだ呆然としている。
「その通りですね」
「これで何もかもが終わりだ」
流石にこうなっては伯爵も諦めるしかなかった。
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