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フィガロの結婚

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12部分:第二幕その四


第二幕その四

「上手くいきそうね」
「上手くいきそうって!?」
「何でもないわ」
 スザンナは今はケルビーノには答えなかった。
「奥方様」
「ええ」
 そして夫人に声をかけ彼女もそれに応えるのだった。スザンナはここで部屋の扉の方に向かいその鍵をそっとかけたのであった。
「鍵を?」6
「用心の為です」
 こう述べるのだった。
「誰かが入って来ても私達は悪いことはしていませんけれど」
「それでもはってことね」
「そうです。では」
「まずは帽子ね」
「はい」
 スザンナは早速衣装部屋から帽子を取って来てそれをケルビーノに被せる。その時ケルビーノは懐から書類を落とした。見ればその書類は。
「あれっ、これは」
「ええ。サインがないですよね」
「迂闊ね」
 夫人もスザンナもその書類を見て言うのだった。
「折角の書類が」
「伯爵様も随分慌てておられたみたいで」
「あの人にしては珍しいわね」
 夫人はその辞令の書類を見てまじまじと言うのだった。伯爵は仕事はできるのだ。だからこそイギリス大使にも任命されたのである。
「こんなことを忘れるなんて」
「全くですね。けれどこれで」
「ええ。ケルビーノは将校にならなくて済むわ」
「そうですね。まあそれはいいとして」
「いいの!?」 
 それまで上機嫌だったケルビーノが今の言葉に顔を曇らせた。
「僕とても嬉しいのに。軍隊に行かなくていいから」
「いいのよ。とにかく」
「う、うん」
「ここに座って」
 ケルビーノをさっきまで夫人が座っていた椅子に座らせる。そのうえで彼の顔を見る。そのうえで言うのだった。
「また随分と奇麗な顔ね」
「そうだろ?実は自慢なんだ」
「睫毛も長いし」
 まずはそれがスザンナの目に入ったのだ。
「物腰だって穏やかだし。こんなに奇麗なんて」
「スザンナ」
 夫人が惚れ惚れとするスザンナを注意してきた。
「男の子の顔を女の子みたいに言うのは」
「けれどこんなに奇麗ですから」
 こう言ってその彼の顔を夫人にも見せた。
「女の子みたいですよね」
「それはね」
 実は彼女もそれは同意ではあった。
「そうだけれど」
「ですよね。さて」
 ここでスザンナは懐からあるものを取り出したのだった。それは」
「リボン?」
「この子が私から貰おうとしたリボンです」
 こう話すのだった。
「それをですね。こうして」
 帽子につける。それから今度はまた化粧室に入ってそこから女ものの服を持って来たのだった。
「これを来てもらって」
「ええ。それにしても本当に」
 伯爵夫人も遂にここで自分の本音を言った。
「奇麗ね。女の子と思ってもいいわ」
「全くですよ。こんなに奇麗だなんて」
 二人で言い合いながらケルビーノを化粧して飾っていく。しかしここで扉を激しく叩く音がしてきた。
「誰!?」
「何故鍵をかけているのだ?」
 伯爵の声だった。扉を叩きながら言っている。
 
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