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フィガロの結婚

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1部分:第一幕その一


第一幕その一

                     フィガロの結婚
                    第一幕  戦闘開始
 広く豪奢な白い屋敷の中。その一室。今一人の若い男が何やら必死に丈を測っていた。
「五、十、二十、三十」
 屈んで床の寸法を測っている。茶色の癖のある髪を後ろにやっており目は黒い。やたらと動きそのうえ光の強い目である。何処か抜け目がなさそうだ。
 顔は愛嬌がありにこにことした感じだ。四角くそれでいて陽気である。背は結構高い。服は水色のシャツにライトブラウンのズボンでサスペンダーをしている。
「うん、こんなものかな」
「そうじゃないかしら」
 横では小柄な若い娘が鏡を覗きながら色々と髪をいじったりメイクをチェックしたりしている。時折ポーズをつけたりもしている。
 こちらの娘は鼻が少しだけ上を向いているが金髪の少し癖のある髪を後ろで束ね青い目は奇麗でやはりこちらもかなり強い頭の回転の早さを思わせる光がある。顔は小さく愛くるしい。童顔とも言っていい。白いエプロンの下に淡い青とストライブのスカートに青っぽいブラウスを着ている。その彼女が彼に応えていたのだ。
「ねえフィガロ」
「何だい、スザンナ」
 ここでお互いの名前を呼び合う。
「この帽子どうかしら」
「いいよ、ぴったりだよ」
 フィガロはスザンナが持っていた帽子を被ったのを見て寸法を測るのを止めて彼女に告げた。
「似合ってるよ、最高に」
「よかった。自分で作った介があったわ」
 スザンナはフィガロの言葉を聞いてにこにことなった。部屋にはまだ何も入っておらずあるのはその鏡だけである。
「とても奇麗で可愛いよ」
「そう。ところでフィガロ」
 スザンナは今度はフィガロに目をやってきた。
「さっき何を測っていたの?」
「ああ。ベッドの寸法だよ」
 フィガロはそうスザンナに答えた。
「それを測ってたのさ」
「この部屋に?」
「そう。伯爵様がわし等に下さるベッドのな」
 にこにこと笑ってスザンナに言う。
「それをさ。どうだい?」
「それは貴方だけどうぞ」
 スザンナはフィガロのその言葉を聞いてにこりともせず返すのだった。
「それはね」
「何か随分邪険だな」
 フィガロはスザンナの様子からすぐにそれを察した。
「何かあったのかい?」
「はっきり言ってそのベッドは頂きたくはないわ」
「またどうしてだい?この部屋だって」
 フィガロはスザンナの言葉に首を傾げながら言ってきた。
「伯爵様がこのお屋敷の中で一番いい部屋を下さったのに」
「それはそうでしょうね」
「このお部屋は奥方様が御前を御呼びになっても伯爵様がわしを呼んでもすぐに行けるじゃないか。居心地もいいし何処が不満なのだ」
「じゃあ言うわね」
 スザンナは自分の前に来たフィガロを見上げながらまた言ってきた。
「伯爵様が貴方を三キロも遠くへ使いにやるわね」
「うん」
「そしてその間に伯爵様がこの部屋に来られるのよ。私のところにね」
「!?どういうことなんだ?」
「これでわからないの?」
「さて」
 スザンナの言葉にもまだ首を傾げている。
「何が何だか」
「伯爵様がどんな方か知ってるわよね」
「奥方様よりもずっと長い付き合いだよ」
 少し得意そうにスザンナに述べた。
「それは何度も言ってるよな」
「そうよね。かなり女好きな方よね」
「惚れっぽいね。奥方様との時もそうだった」
 その時のことをここで思い出すのだった。
「それでお屋敷の中でも。奥方様以外にも」
「何っ!?」
 ここでフィガロはやっとわかった。
「じゃああれか。伯爵様は間も無くイギリス大使だ」
「ええ。ロンドンに行かれるわね」
「わし等も一緒だ」
 フィガロとスザンナも呼ばれているのである。
 
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